第5話 笑顔が似合う少女

 「そういや、レイってなんであんなところに1人で居たんだ?」


 キシとレイはビダヤの街へ向かいつつ、お互いのことについて話していた。

生まれた場所や家族について、そして、鬼の力ことをできる限り詳しくキシはレイに話した。

しかし、レイは自分のことを全く話そうとはしない。

彼が聞いたとしても、曇った表情を見せるだけ。

 これ以上聞いても彼女は良い思いをしないと察し、すぐに話を切り替えた。

そこで、レイに池に座っていた理由を聞いてみたのだ。


「なぜかわからないけど、あの場所って自分にとって……とても安心する。わたしと唯一寄り添ってくれてる場所って感じ」


「なるほどな。俺も最近ここを知ったんだけど、結構気に入った。良い場所だよなぁここって。ビダヤの街って結構栄えてるから窮屈な感じだけど、この平原に来るとまるで別世界に来たような気分になるんだ。空気も新鮮で気持ちが良いからな」


「うん、その気持ち分かる気がする」


 ここで、キシはふとレイに聞きたいことがあった。

普段は何をしているのか。

そして、なぜ紫色の髪をしているのかが1番の疑問だった。

 しかし、髪の色を聞くのは少し抵抗があった。

彼女の過去には、絶対に話したくないほどの出来事があったはずだと考えた

キシの過去の経験から、とっさにそんな事を考えてしまうのは仕方がなかった。

 髪の色については別に聞かなくても良い。

恐らく家族もいない彼女が、どんな仕事をしているのか聞いてみることにした。


「レイは普段は何をしているんだ?」


「普段はだいたいここにいる」


「仕事もせずに?」


「一応仕事みたいのはあるけど……」


 この世界は12歳から親元を離れ、仕事をしている人は珍しくない。

街の飲食店や武器屋などの店員にも、そのくらいの歳の子がよくいる。


「ほうほう……。ちなみにどんな仕事をしているか聞いても良いか?」


「これって仕事って言って良いのか分からないけど……どっちかというと趣味、みたいな感じかな。除霊やってる」


「じょ、除霊……? 除霊っていうと、幽霊とかを追い払ったりするやつか?」


「うん」


「仕事、ではないんだな?」


「うん、趣味というかなんというか……ちょっと微妙なところだけどね」


「ふーん……」


 キシは腕を組みながら少し考えた。

除霊……つまり、魔法が発達しているこの世界で、珍しいものが見れると思うと、興味が湧いてくる。


「除霊、か……。じゃあ、レイが持つスキルって……」


「そういうこと。あ、じゃあさ……」


 レイはキシの前に行って道を塞ぐ。

そして、彼女の口角が上がった


「わたしの趣味に付き合ってもらっても良い?」


「お、おう!」


 レイはキシに体を向け、初めて笑顔を見せた。

夕方ということもあって、眩しい陽の光がさらに彼女の笑顔を引き立たせる。

 『趣味に付き合って』という言葉に一瞬戸惑ったが、独りぼっちでいるよりは誰かがいたほうが断然良い。

キシは、彼女の趣味に付き合うことにした。

レイが使う魔法に興味がある、そして、彼女を楽しませたいという気持ちがあったからだ。


「じゃあ、夜になったら広場に来てね。わたし、そこで待ってるから」


 そう言って、レイはビダヤの街へ走って行ってしまった。

キシはレイの後ろ姿を眺める。

腕を上げて手を組み、背伸びをする。

そして大きく息を吐いた。


「いやぁ……ずいぶん明るくなった。やっぱり笑顔が似合う子だな。あのくらいの歳の子なら明るくて、笑顔でいたほうが絶対に良いに決まってる。良かった良かった!」


 キシはそのまま、ビダヤの街へ戻って行った。 

そして、まだ慣れていない街を散策しながら、日が落ちるのを待った。

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