第21話 魔法の唱え方
今日もいつも通り、キシとレイは墓場で除霊魔法を行おうとしていた。
その直前にレイは、ふとあることを思い出した。
「そういえば……」
「ん、どうかしたか?」
「キシって普段モンスターを相手に戦う時、いつも素手なの? あの時スパッ!って、手でワーウルフを倒してたから……」
「ん〜。いや、依頼でモンスターを倒す時は、ほとんど剣しか使わない。だからほら、普段はここに入れてある」
そう言って、キシは剣を取り出した。
剣といっても、小型剣というほぼナイフのようなもの。
ただ、普通の目にするナイフとはまた違う型をしている。
小型でも、戦闘用や護身用として使うためのものだ。
それを見たレイは、驚いた表情をする。
「い、今どこから出したの……?」
「びっくりしただろ? 服をたくし上げたら……ほら、ここにこれを入れてある」
キシは袖をたくし上げた。
すると、中に剣を収納できるポケットが姿を現したのだ。
キシは、そのまま小型剣をそこに入れた。
「えっ、すごい! キシってもしかして天才!?」
「ははっ、天才っていうよりも普段邪魔だからここに入れてあるだけだ」
「でもでも! すごいよ! すごいすごい!」
「そ、そうか? そんなにすごいって言われたら、なんか照れくさいなぁ。ははっ……」
小型剣を収納する様子を見て、レイは目を輝かせた。
キシは、ちょっとだけ嬉しい気持ちになった。
「でも、モンスターとかを相手に使うことは、ほぼないな。この大きさは戦闘では使い物にならない。よっぽどな」
「それって……キシの持っている魔力量が少ないから?」
「――――はい、その通りでございます……」
ズバッとレイに言われ、キシは落ち込むように肩を降ろした。
「でも鬼の力を持ってるなら、それで補えば良いんじゃないの?」
「それが出来れば苦労はないんだけどな……。確かに身体能力は上がるし、大気中のマナを吸い取りまくる性質があるから、無尽蔵に魔法を使うことだって出来る。だけど、鬼化を解除した瞬間から、すごい頭痛がし始めて、身体がいうことを効かなくなってしまうんだ」
そう、キシの言う通り、鬼化は自分自身のステータスを大幅に上昇する効果がある。
それだけではなく、大気中に浮遊する魔力、いわゆる『マナ』を無尽蔵に吸い込むという特性もある。
つまり、自分の魔力量はほぼ無限ということだ。
しかし、これだけのメリットがあると、リスクはその分大きくなる。
この世界で流通している魔法の中でも、威力のある強い魔法を使用すると、反動として体に何かしらの不具合は生じる。
ただ、キシが使う『鬼化』は、強力な魔法以上の反動が生じることになる。
使用した直後は、激しい頭痛と倦怠感に襲われるのだ。
「そうだったんだ……。じゃ、じゃあ! 除霊魔法を使った後だったら、余計頭が痛くなっちゃうとか……」
「まあ、多少はあるな。でも、戦う時に比べると、不思議と症状がないんだよな」
「えっ、そうなの?」
「ああ、俺もよく分からないんだけどな。だから、全く心配はいらないよ」
「そ、そうなんだ。良かったぁ」
それを聞いて、レイは安心した。
そこまで考えずにキシに提案したため、知らぬ間に大きな負担をかけてしまっているかと思ったのだ。
しかし、実際は不思議と負担になっていなかった。
「もしかして、不安になったか?」
「うん。すごく心配になっちゃった……」
「大丈夫だ、レイ。もしダメだって分かったら、すぐにレイに言うからさ。言わない限りは平気さ!」
「キシ……」
キシは、レイの頭に手を優しく置いた。
レイは安心感と嬉しさに、笑顔を溢した。
「でも……なんで『鬼化』した時にだけ、あまり痛くならないんだろう……?」
「さあな。でも、不思議だって思わないか?」
「うん。うーん……」
レイは顎に手を当てて、色々と原因を考え始めた。
キシの目から見て、彼女は恐らく小学校高学年あたり。
そのぐらいの歳のはずなのに、こんな高度なことを真剣に考えている事自体、凄いと感じた。
キシがそう感心していると、突如レイの表情が変わった。
レイは、手をポンッと叩いた。
「あっ! わたし、分かったかもしれない!」
「えっ、マジで?」
「うん!」
今度はどんなことを言ってくるのか、キシはワクワクしていた。
「わたしの予想だから、合ってるかどうかは分からないけど……。キシってもしかして、魔法を唱えてる?」
「魔法を唱える――――もしかして、『魔法詠唱』のことか?」
「そうそう!」
「うーん……。確かに、思い返せばそうだな」
「そう、それ! それが原因だよ!」
「――――っ!?」
急に声を張り上げて、キシにビシッ!と指を差した。
それを見たキシは、思わず驚く。
「ど、どういうことだ?」
「『魔法詠唱』って言うのは、キシも知ってると思うけど、魔法を唱える時に言う言葉のこと」
「ああ、そうだな」
「でも、実は『魔法詠唱』って、無駄なことをしてるだけなの」
「えっ、『魔法詠唱』って無駄なのか!?」
「うん、実はそうなんだよね」
一体、自分の目の前にいる幼い少女は、どこまでの知識を持っているのだろうか。
毎回、魔法について博識なレイの説明は聞いている。
しかし、その情報を一体どこで仕入れてきているのか、疑問に思うキシだった。
ただ、一つだけ言えることは、彼女は非常に頭が良いということ。
キシがレイと一緒の時間を過ごしているうちに、分かったことだった。
「キシ、わたしがキシに除霊魔法を教えた時のこと覚えてる?」
「えっと確か―――印を結んで、その後除霊をするのを、頭の中でイメージして……。あっ、確かに詠唱してないかも!」
「あっ、キシ分かったでしょ? わたしが教えた除霊魔法は、全く詠唱してない。ただ、頭の中でイメージしているだけ」
「確かにそうだな……。えっ、レイってもしかして天才か?」
「それは褒め過ぎだよキシ……。恥ずかしくなっちゃったじゃん……」
キシにものすごく褒められてしまい、逆に照れてモジモジとするレイ。
ただ、キシは本心だった。
それと同時に、今まで以上に彼女を守っていきたいと強く決意したキシだった。
【REMAKE版】ぶらついてて出会った少女の手伝い&冒険者をする うまチャン @issu18
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