第20話 仲間って素晴らしい

「――――懐かしいね。そんなこともあったね」


「うん、あの日はいまだに覚えてるよ。キシがよく家に来てた時みたいに楽しかった」


「わたし、マミーに言われるまで全然分からなかったの。今から思えば、キシは必死に隠してたんだねって思った」


「ごめんな……。なんか自然と身に付いてしまってたんだよな……。絶対に良くないはずなんだけど。でも、あの時話しかけられて、俺は嬉しかった。2人のお陰で、俺は救われたよ。ありがとうな、2人とも」


 キシは深々と頭を下げた。

2人はすぐに手を横に振った。


「そんなに頭を下げなくても大丈夫だよ! 俺たちは幼馴染同士。お互い助け合っていこうって、3人で決めたでしょ?」


「Yes、ヒカルの言う通りよ。わたしたちは、何時でもキシの味方だから!」


 そう言うとランはヒカルの手の上に、自分の手を置いた。

髪の色や目の色、容姿も若干異なる。

しかし、やはりキシがこの世界に来る前と変わらない2人だった。

それを知った瞬間、キシは温かいものが込み上げてくる気がした。


「キシ? もしかして泣いてるの?」


「な、泣いてねぇよ」


「いーや、これは泣いてるね。そうやって隠すところも全然変わってないね」


「――――うるせぇよ」


 2人に、この顔を見せられたくはなかった。

嬉しくて涙が溢れてしまっているのを見られるのは、キシのプライドが許せなかったからである。










◇◇◇











 その後しばらく談笑していると、玉ねぎにやられて涙を流すレイが部屋にやってきた。

それと同時に、一旦話は切り上げることに。

 ランはレイを見た瞬間、すぐにレイに飛びついて心配する。

もうすでに気に入っている様子だ。


「レイ大丈夫か? 目が大変なことになってるぞ」


「め、目が痛いよぉ! キシなんとかして!」


「さすがに玉ねぎはなぁ……。しばらくしたら治るから我慢するしかないな」


 目薬とかあれば良いのだが、残念ながらこの世界には目薬というものがない。

作れないことはないが、衛生面ではまだ技術が発達していないため、皆が使いたがらないのだ。

もしどうしても目を何とかして欲しいとなると、回復の魔法を持つ人にやってもらうしかない。

 あまりにも目が痛いレイは、ランから離れ、今度はキシに抱きついた。


「だ、大丈夫か? 結構きてるな」


「うん……。しばらくこうしてても良い?」


「ああ」


「うん、ありがとぅ……」


 玉ねぎの汁が染みて、レイの目から涙が大量に出ている。

その涙が、キシの服に染み付く。

しかし、キシは全く気にしないどころか、もはやドンと来いとでもいうような気持ちだ。

そんな気持ちになりながら、キシはレイの頭をポンポンとしてあげた。

 そして、そんな2人の様子を見て、なんだか微笑ましくなるヒカルとランであった。


「――――よし! ラン、ここに引っ越そうか!」


「うん、良いね――――ってWhat!? 本気で言ってるの!?」


「うん! だって、ここにいたらすごく楽しそうじゃん! それに、本当に久しぶりにキシと会えたんだよ? これはもうここに来るしかないっしょ!」


(うわー、北海道弁久しぶりに聞いたな〜)


 興奮しながら早口で話し、最終的に北海道弁が出てしまうヒカル。

しかし、こんな彼を見るのも久しぶりだったキシは、すぐに笑ってしまった。


「あっははは……! ったく、興奮しすぎだヒカル。でも、多分アースィマさんに言えばすぐに受け入れてくれそうだな……。なんだけどなぁ……」


「「――――?」」


 そう言いつつも、キシの表情は歪んだ。

確かにこのアパートにはまだ空き部屋がある。

しかし、アースィマの特殊な性癖を持っていることを忘れてはならない。

そう、彼女には『男女のカップリングを見ると大興奮する』という、大迷惑な性癖の持ち主なのだ。


「でも、みんな良い人なんでしょ?」


「ま、まあそうだな……」


「なら決定ね!」


「お、おう。決めんの早いな……。まあ、2人が良いなら良いと思うぜ……」


 目を輝かせるヒカルとランに押され、キシはその後の展開を心配しながらも2人を歓迎することにした。










◇◇◇









 

 ヒカルとランが、このアパートに住むことにすると決断してから3日後……。


「――――マジで来たんだ……」


「えっ、もちろんだよ! だって部屋の中も良いし、キシも居るしね!」


「うんうん! 前住んでいたところの手続きが終わったんだよ。ここの手続きも、この前会った時にもうやってるんだ!」


「行動早すぎだろ……」


 玄関では、荷物を持ってこのアパートに訪れてきたヒカルとランがいた。

2人がここに住むとキシに伝えてから、わずか3日で準備が終わってしまっていることに驚くキシ。


「また新しい人が来てくれて嬉しいわぁ!」


 もうすでにお出迎えをしているアースィマ。

彼女の表情は実にいやらしい。

今にも口端から涎が出そうになっている。


「まあ、カップルが来ましたもんね〜。っていう特殊な性癖の持ち主なんだけど、2人は大丈夫か?」


「Oh……。だ、大丈夫だと思うよ」


「う、うん。慣れれば、大丈夫かな……」


「まあ、ヒカルの言う通りだな。慣れるのが一番手っ取り早い」


「でも、わたしでも未だに慣れてないよ……」


 レイとキシは、少し恐ろしい顔をしながら言った。

しかし、そんな事も知らずに、アースィマは涎を垂らしながら酔ったような表情になっていた。

『えへっ、えへっ』と、気持ち悪い笑い声が聞こえた。


「もう一度伺いますが……こんなお方がいますけど、本当に大丈夫ですか……?」


「だ、大丈夫ですか……?」


 キシはわざと畏まって言った。

彼の気持ちはレイにも伝わったようで、彼女もまた、キシと同じように2人に聞くのだった。

 あまりにもキャラの濃い人物を目の前に、一瞬戸惑いを見せた2人。

しかし、互い顔を見合わせた後に頷くと、ヒカルが口を開いた。


「うん、大丈夫。普段は凄くいい人なんでしょ?」


「ああ、料理作るのも上手い。普通に話していても楽しい人だ!」


「OK、なら決まりね」


 ランとヒカルは目を合わせると、もう一度頷いた。


「「ここで暮らすことにする!」」


「あははっ! 2人とも息ぴったり〜」


 綺麗に同時に言ったヒカルとランを見て、思わず吹き出してしまったレイ。

それにつられて、他の3人も笑いだした。

キシに、そしてこのアパートに、また新たな仲間が加わった。

 ちなみに、変な笑いをしているアースィマが我に返ったのは、3人に肩を揺さぶられてからなのであった。

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