第27話
大鹿に跨った全身黒尽くめの男が、銀髪の少女を担いでいる。向かう先はこの島に新しく出来たとされるオークの集落だ。
男の名はアロー 銀級の冒険者として日銭を稼ぐ一方で、裏の仕事も請け負っている。
今回の仕事はこの銀髪の少女をオークの集落へと捨て置く事。男にとっては特に難しい仕事ではなかった。
「ちょっと!! 放しなさい!! バカなのアンタ間違えているわよっ! 私じゃないわ!」
アローにとって一つ予想外の事と言えば、この銀髪の少女が思ったよりも口汚く罵ってくる事だ
「クソっ! 能無しっ! あっちよ! あっち! 脳みそ入ってんの!?」
「ちっ、うるさい女だ。暴れるな、舌を噛むぞ! 一応殺すなと言われてるんだ、勝手に死んでくれるな」
「なんで! なんで! なんでっ!!」
銀髪の少女は激しく取り乱しながらこうなった経緯を思い出していた……
───────────
激しく雨が降り頻る中、桃色の髪の少女、ベルは気に入らない女、銀髪の少女リディアを呼び出していた
「うふふっ、ありがとう1人で来てくれて! リディアさん実は私、貴女とお友達になりたいと思っていたのっ!」
「あら? そうなの? てっきり果し合いかと思ったわ」
愛想よく笑うベルとは対照的にリディアは素っ気ない態度だ
「うふふ、果し合いだなんて…… 面白い事いうのね?」
「で? わざわざこんな森の中で何するつもりなの? お友達になって終わり?」
「えぇ、実はリディアさんとお友達になりたいと思っている殿方がたぁくさん居るのよ! モテて羨ましいわぁ、うふふふふっ」
そう言ってベルは屈託なく笑う。本当に心底羨ましいと思っていそうな笑顔だった。
これから起こる事を考えて、作った笑顔の下に下卑た思惑が透けそうなものだが、ベルの笑顔からはそういったものは一切感じられ無かった。この少女は心底他人を陥れるのを楽しみ、何の罪悪感もなく喜んでいるようだ。
「あら? そんなに羨ましいなら代わってあげるわよ?」
ベルは一瞬、この少女が何を言っているのか分からなかった、単に会話の流れで謙遜しているのかと思ったが、銀髪の少女の瞳は一切笑っていなかったからだ
困惑するベルは更に混乱に陥る。目の前少女が何やら木の枝を取り出すと姿が変化したのだ。それも…… 鏡でいつも見ている、いつも手入れに気を遣っている桃色の髪、自慢の豊満なバスト、大きな黄金色の瞳、男に愛される要素が詰まった見慣れた自分の姿に……
「は? はぁ? 何? 何それ!? なんで私の姿になってんのよっ!?」
「同じ姿の人が2人いたらびっくりでしょう? だから私は貴女になったのよ。ほらっ」
そう言って目の前の少女が木の枝をこちらに向ける。言いようのない不安がベルの胸中を駆け巡る
「な、何? もしかして……」
ベルは顔は見えないが、目に見える範囲の腕や服装が変わっている事に気付く。特に手のひらは毎日良く見るものだから違和感が酷い
「そうよ。羨ましいって言うから私の姿にしてあげたわ! まぁ最初からそのつもりだったけど……」
「ちょっと待って! マズイのよ! いまこんな姿にされちゃあ!! 早く戻してっ!! 戻しなさい!!」
お互いに見た目を取り替えた様な状態に銀髪になったベルが焦る。
「えー? せっかくだから楽しみましょうよ?」
「何言ってんの!! 早く! 早くしなさいっ!!」
焦るベルを尻目に桃色の髪になったリディアはのんびりと答える。
その危機感のない態度にベルは顔を醜く歪め掴み掛かる
「その枝貸しなさいよ! 早くっ! あっ!?」
掴みかかってきたベルから身を守るようにリディアが抵抗していると、どこからか大きな鹿に乗った全身黒尽くめの男がやってきた
「きゃあっ!! 違うのっ! 間違えているわっ!?」
男は大鹿に跨ったまま銀髪の少女を捕まえると肩に担ぎ、走り去って行く。
「行ってらっしゃい〜、因みにこれはただの木の枝じゃなくて、モシャモシャの……」
残された桃色の髪をした少女は大鹿が去って行った方を見送り何か言っていたが、豪雨にかき消されていった
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