第24話

「青い空! 青い海! 白い砂浜! 燦々と照らす太陽! そして! 弾ける水着!」


 赤毛の少年、リュージが、いやっほっー! とテンション高めに海へと走っていく


 そう、現在リディアが在するバベル魔法学園は夏季休暇に入り、各々の生徒達は自らの故郷や領地へ帰ったり、避暑地へ涼みに行ったりとそれぞれの休暇を満喫する時期である。




 遡る事、夏季休暇に入る前にリディア達1年の第1、第2クラス合同での親睦会を兼ねた無人島貸し切りパーティの招待状が送られてきたのだ。


「主催がベル・フライスって……あからさまにあやしいわ……」


「フフフッ、まぁ、何かしらの罠があるでしょうね」


「……でも、無人島の海って楽しそうね、行っても平気くしら?」


「フフフッ、全く問題ありません。私がお供致しますので」


 そう言ってメッフィは大仰な素振りで頭を下げてる。


「やったぁ、水着買わなきゃ!」




 現在


「フフフッ、水着はどうしたんですか?」


「えっ? 着てるわよ?」


 リュージが海へと走って行った砂浜、そこに建てられた休憩所の椅子でリディアは座っている。

 中に水着を着ているのかも知らないがその上にTシャツとショートパンツを穿いているため水着感は全く無かった。


「いえ、着ているかどうかではなく、脱がないんですか?」


「えぇぇ……だって恥ずかしいじゃない」


「それは……サイズ的な問題ですか?」


「ぶっ飛ばすわよ!」


 水着になるのを恥ずかしがるリディアにメッフィは視線を胸部に向けて訊く


「アンタこそ、何で海にまで来てスーツなのよ? 暑くないの?」


「フフフッ、私に状態異常は無効です。それに、私はリディアお嬢様の執事として同行しているのです。それともリディアお嬢様は私の裸体がお望みで?」


「まったく望んでないわ! 暑さって状態異常なの?」


「私にとって快適な状態、以外は全て異常です」


「全く持って傲慢な解釈ね?」


「フフフッ、お嬢様は海に入らなくてよろしいんですか?」


「もう少ししたら入るわよ。日焼け止めも塗らないとだし」


 最近の異常気象による暑さ、更に海になるとその紫外線の量は何倍にも増える。対策をしなければ柔な乙女の肌などすぐにボロボロになってしまう。


「フフフッ、それは私に塗れと言う事ですね?」


 メッフィはリディアに見えるように両の手をワキワキしている


「違うわっ!? 女友達に塗ってもらうわよ!」


「えっ? 友達? 居たんですか?」


「ぶん殴るわよっ!?」







──────────────



 この無人島、王国による正式な呼称はミーナッツ島は王都から船で5時間程、南へ下った場所にある。

 住んでいる住人は居ないが夏は海水浴場として解放する為、島に休憩所や宿泊出来るコテージ等が建設されている

 島は以外と広く、徒歩で一周しようとすると健常な人で2週間ほどかかる


 海水浴場となっている海岸以外はまだ手付かずの自然が残っており、その為オークが集落を作っていた事に気づくのが遅れた


 海水浴場として解放する前に毎年、周辺をレンジャーが軽く見回るのだが、どこから来たのか、オークの群れは数十体になっていた。


 討伐隊は編成されたが王太子であるクライヴがそれに待ったをかけた。

 海水浴場として解放すれば一般の海水浴客も多数くるが、解放前であれば貸し切れる。桃色の髪の婚約者の無茶を聞き入れた形だ。


 実際、危険だと反対意見が大半だったが、見つけた集落まで距離がある事、護衛騎士を随伴させる事、あえて近づかなければ危険は少ないとの事で無理矢理通した。因みにクライヴは同行しない


 

 手付かずの森の中、まだ日中だが、背の高い木々がいくつもの影を作り出し、鬱蒼と茂る草花はこの森の視認性を著しく悪くしている。

 木陰に隠れて息を殺せば人を見つけるのは不可能に近い、そんな森だった。


 そこに2つの人影


 1人はフードを目深に被った大柄な男性、1人は大胆なピンクのビキニを着た桃色の髪をした少女だった


「うふふっ、今夜この場所にターゲットを連れてくるわ。灰色の髪をした女よ」


「了解した、その女をオークの集落へ捨てて来りゃあいいんだな?」


「そうよ。ところで集落ってどれくらい離れているのかしら?」


「徒歩だと半日かかるぐらいだな。森の中だと馬は使えねーから今回は大鹿を使う」


 男はビーストテイマーを修めたレンジャー系の冒険者で、小遣い稼ぎの為に後ろ暗い仕事も進んで受けていた。

 彼は数日前に無人島へ到着し、下見を兼ねて森で使える魔獣を手懐けていた。

 大鹿は大人2人は余裕で乗れる大きさだ。馬と違い、森の中などの悪路でも難なく進める


「そう、出来れば捜索隊が着くまで、殺されない様にだけ見張っていて欲しいんだけど?」


「オーク共は女だったら暫くは殺さないだろうぜ。自害さえしなきゃぁな」


「うふふっ、良かったぁ、死んじゃたらザマァ出来ないからさぁ。うふふふふ」


 密談を終えた桃色髪は豊満な胸を愉しげに揺らし皆んなの居る海水浴場へと戻っていく。


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