第23話


 王都の貴族街、フライス男爵邸


 日が長い夏の時期でも、どっぷりと日が暮れた時間。フライス男爵邸の一角、とある部屋から奇妙な音が聞こえてくる


「あっーーー!! 一体なんなのよ! もうっ!!」


 桃色の髪を揺らしながら鬼の形相で巨大なウサギ型のぬいぐるみをサンドバッグにしているのは、フライス男爵の一人娘、ベル・フライスである


「なーーにが金級冒険者よ!! 一度引き受けといてやっぱり学生に手は出せないとかっ!! 私のお願いを断るなんてっ!! 許せないわ!」


 ボスッ!! バシッ!! ゴスッ!!


「あの無駄にキラキラした勇者もまっっっったく!! 使えないじゃないっ!! なーーにが、ウワサは真実じゃなかった! よ、知ってるわっ!!」


 ガスッ!! ボコッ!! ズボッ!!


「ふっー!! ふっー!! ふっー!! 本当に使えない奴らばっかりだわ!! こうなったら私がやってやろーじゃない!!」


 とうとう穴が空いて中綿が舞うウサギの首を絞めながらベルは窓の外を睨む



「リディア・サンクレール!! 私を本気にさせた事、後悔させてあげるわっ!!」




〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 

「ねぇ、ミナ。何かあの女をギャフンと言わせる作戦ないかしら?」


「ベル様、この前王城で衛兵達が話していたのを聞いたのですが、王都近海の無人島にどうやらオークが住み着いて集落を作っているそうです」


 一晩考えても、これといった案が出なかったベルは翌日、学園で取り巻きの女生徒のミナに何か妙案がないかと訊ねていた


「オーク? あの醜悪な豚の化け物?」


「化け物と言うか魔物ですが、醜悪なのは間違いないですね」


 ミナと呼ばれた女生徒がトレードマークの赤いメガネをクイッとあげながら答える


「そのオークが集落作ったからってなんなのよ? あっ! わかったわ! そのオークで焼豚作ってあの女に食べさせてやるのね! オークの肉とも知らずに…… フッフッフッ」


「いえ、まぁそれはそれで気持ち悪いですが。あの無人島は毎年夏には海水浴場として人気のスポットなんです。 しかし今年はオークのせいで解放していないそうなんです。どうやら近々討伐隊が派遣されるようですが……」


「だから、なんなのよ!? ハッキリしなさい!」


 直ぐに答えを欲しがるベルは迂遠な物言いにヤキモキしはじめる


「ですから、そのオークに襲わせるのですよ。古来より女騎士にくっころさせる程性欲の強いオークに襲われたらあの女も心底泣き叫ぶでしょう」


「なぁ〜りほどぉ〜! あはっ! それでオークの子でも身籠ったら、あの女もお終いね!」


「えっ!? いやそこまでは…… 同じ女としてどうかと…… 直前で助け出してあげれは充分ですよ。ベル様にあたまが上がらなくなります」


「なに言ってるのよ! やるならトコトンよ! どうせわたしじゃないんだから!」



 ミナはベルの無邪気な笑顔にいいしれぬ恐怖を感じるのだった



「討伐隊が派遣されるより前にその無人島でパーティでも開催しましょう、そこにあの女も呼んで……」


「……しかし、討伐されるまではあの無人島は封鎖されていると思いますが?」


「そんなのクライヴ様を使えばなんとでもなるわ! 問題はどうやって誘い出すかね……」



 ミナは浅はかな提案をしてしまった事を後悔していた。ベルが現在、次期王妃候補として1番の有力株だから側にいるが、こんな女が王妃になったら大変だな、と感じ始めていた。



「待ってなさい! リディア! 運が良ければ命だけは助かるかもねぇ! うふふふっ」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る