第22話


 日が翳り始めた王都の路地裏


 3人の悪漢が少女を襲っている。腕力では到底叶わない男達を前に少女も精一杯声をあげるが、こんな悪人が屯するような薄暗い路地裏ではまともな助けは期待できない。だが幸運にも男達の蛮行を諌める声が聞こえてきた


「そこまでだ!! その子を離すんだ!」


 輝くブロンドの髪をした整った顔をした青年がいた。


「あぁん? なんだ? ガキじゃねーか! 混ぜて欲しいのかよ? ハハハッ!」


「カカッ! ちげぇねぇ! 童貞くせぇガキだもんな!」


「どうっ…… くっ! なんて品性下劣な奴らだ!」


 男達の下品な物言いにユリウスは思わず顔を顰める


「ちょっとユリウス! どうしたのよ?」


 先行したユリウスを追ってリディア達が追いついてきた。


「リディア様、少しお待ちを。この悪漢達を懲らしめますので」


 そう言ってユリウスは無手で男達の方へ歩いていく。


「おい、見ろよ! まだガキだが別嬪が混じってんぞ?」


「カカッ! 本当だな、まだガキだが顔はいいな! あっちもさらっちまおう!」


「ひひっ、お、俺はきょ、巨乳がいいんだな!」


「な、なんかめっちゃ失礼な視線を感じるんですけどっ! ユリウスやっちゃって!!」


 男達はリディアの胸を見ながら思い思いの感想を述べている、その視線を感じリディアは胸を隠しながらユリウスに激を飛ばす


「承知! リディア様にその様な下卑た視線、許さない!」


 疾風の如くユリウスが駆け出すと、3人にそれぞれボディーブロー、前蹴り、手刀を喰らわせあっという間に制圧してしまう。


「いまのは! あの一瞬で3発…… いや4発入れてる! 恐ろしく速い手刀! 俺でなきゃ見逃しちゃうね!」


「えっ!? 凄いわねっ!」


「フフフッ、普通に1発でしたよ」


「…………」


「…………」


 今のユリウスの一瞬の攻撃をドヤ顔で解説するリュージに素直にリディアが驚く。

 しかしメッフィが冷静に訂正するとリディアのジト目から逃れるようにリュージは明後日の方を見る



「お嬢さん、お怪我は無いですか?」


「あっ、ありがとう! アナタ凄いのね!」


「いや、他人より多少努力しただけだよ。それよりもこんな場所を1人で歩くのは危険だよ」


「あ、アタシもね普段ならこんな危ない道通らないをだけどね、急遽夜の部の材料が足りなくなっちゃってね」


 そう言った赤茶色の緩いウェーブヘアの少女はその豊満な胸に抱える大きな紙袋を見せる


「アタシはシア。この先の大通りのレストランでパティシエをしてるのよ! 助けてくれたお礼に良かったら奢るわ!」


「ぐはっ!?」


 ユリウスは紙袋越しに豊満な胸の谷間を見てしまい鼻血を吹き出してしまう


「えっ? ちょっと大丈夫!?」


「あー、いつもの事なんで……」


 リュージが呆れ顔で答えた






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 シアが案内してくれたレストランは貴族も通う、王都でも有名なレストランだった。まだディナーには早い時間だった為、シアの計らいで通された部屋は貴賓用の豪華な個室だった。そこでリディア達4人はテーブルを囲んでいると


「リディア様、さっきのゴロツキ達が随分と失礼な事言っていたけど、どうか気にしないで」


「気にしてないわ、むしろなんで掘り返したかしら?」


 ユリウスは鼻にティッシュを詰めたまま先程のゴロツキが言っていた事を思い出してフォローを入れるが、リディア本人の方が気にせず忘れていた程だった


「リディア様の美しさは、たとえぜっぺ…… 断崖だったとしても色褪せる事はないですから」


「言い直すなら、もっと言葉選んで!?」


 良かれと思ったユリウスの言葉だが、傷口を広げて更に塩と唐辛子を擦り込んだ様なものだ。元々、平民の生まれのユリウスはお世辞も謙遜も敬語も苦手だった。よく言えば素直な少年だ。


 そうこうしているとコックコートに着替えたシアがケーキを持ってきてくれた


「昼の余りモノだからそんなに無いんだけれど、どれも美味しいから食べてみて!」


「ふわあぁ! 美味しそう! シアさんが作ったんですか? 凄ーい!」


「えへへっ、見た目で勘違いされやすいけどアタシはもう20歳過ぎてるのよ! まぁまぁキャリアあるんだからね」


「えー!! 凄い若く見える!」


「コイツのは幼いって言うんですよ。キャリアを積んでも未だにそそっかしいんだから。あっ、この度はシアを助けて頂きありがとうございます。私はここで料理長をしているギムと言います。」


「いえ、当然の事をしたまでです」


 後から部屋に入ってきたギムと名乗った壮年の男性がそう言って頭を下げ、ユリウスが答える


「シアの恩人ですので、良かったら料理もお出ししますので今日は楽しんでいって下さい!」


「じゃあ、ゆっくりしていってね!」



 ギムとシアが出ていき、リディア達はその夜、豪勢な料理とスイーツを楽しんだ







〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



夜も更け、シアは1人帰路につく。働いているお店から徒歩で15分ほど歩いた住宅街の一角、単身者が多く住むアパートメントの一室だ。シアがアパートに入ろうとすると突如背後に人の気配を感じる


 びっくりして振り向こうとするシアに声がかかる


「クックック、ダメじゃないか? 昼間あんな事があったってのに1人で帰っちゃよー?」


「カカッ! 俺たち、しつこいんだよ! あんな恥かかされてよぉ!」


「ひ、昼間の分も、たっ、タップリ楽しませてもらうんだな!」


 路地裏でユリウスにのされた3人組がつけて来ていた。


「たっ、助けて……」


「おっと、でけー声出すなよ?」


 シアは首すじに冷たい金属の感触を感じ、声に詰まる


「カカッ、そのまま部屋のドアを開けてベッドまで直行だな! オラっ! 早く開けろ!」


 シアは震えながらドアノブに手を掛ける。一人暮らしの自分はこのドアを開けても誰もいない。きっと酷い目に遭わされるのだろう……

 そうシアが覚悟を決められないままカギを開けドアを開く……




「フフフッ、こんばんは」


 黒目黒髪の執事服を着た少年が玄関の中に居た


「きゃーーーーー!!」


「うわーーーーー!!」


「なっ、何だ!? コイツは!?」


「なんで部屋の中にいるのよっ!?」


 驚きから立ち直った男がシアを横に突き飛ばし、執事服の少年にナイフを向ける


「先にコイツからぶっ殺してやるっ!!」


「フフフッ、殺す? 私をですか? 面白いですが私は下僕1号とは違って優しくないですよ?」


 少年の瞳が怪しく青紫に光ると、それを見た男達はさっき迄の勢いを無くして、目は虚ろになり自失状態になる


「フフフッ、アナタ達はアジトがあればアジトに無ければ誰かの自室に帰り。殺し合いなさい。生き残った1人は自死しなさい」


 少年がそう言うと、3人の男達はゆっくり頷くとのそのそとアパートを出ていった


「えっ? 何? 何なの?」


「フフフッ、お嬢様が貴女の事を大変気にかけていたので。ああいった輩はよくこういった行為をしますからね」


「なっ、何で部屋の中に?」


「……フフフッ、では失礼します」


「えっ? ちょっと? 何で部屋の中に居たの? どうやって入ったの? ねぇー?」


 


 執事服の少年はシアの質問には答えず街に消えていった



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