第20話


 王都の中の冒険者ギルド、その中にある訓練場


「ここは僕が冒険者としても活動する時に利用させて貰っている冒険者ギルドだよ。学園内で決闘なんかしたら皆んな詮索したがるだろ? センシティブな問題だからね、こっちの方が都合が良いと思ったんだ」


 学園からは少し離れている、王都のほぼ中央に位置する巨大な建造物。冒険者ギルドは様々な施設が入った複合施設だ。


「なー? なんかカッケー剣とかねーのか? 木剣とか木で出来た武器ばっかじゃねーか」


「へー、こんな場所初めて来たわー。なんだか無骨な造りねー、かわいいモノとか置いてなさそう」


「フフフッ、かわいいモノなど置く必要ありませんからね。それでもこの木人なんかちょっとかわいくありません?」


 メッフィは訓練場の端に置いてある木人を指し示す


「えー? 可愛くないでしょ?」


「フフフッ、でも、ほら、ここにパッチリお目目を描くと……」


 メッフィは修練用木人に油性マジックで目を描き足す


「あっ! なんか可愛く思えてきたかも!」


「あぁ、なんか愛嬌があるな!」


 ユリウスが振り向くとリュージ、リディア、メッフィが訓練場の端にある武器や防具、その他道具等が置いてある場所で和気藹々としている。


「あれ? ちょっ? 話し聞いてるかな? コラッ! そこ! 勝手に落書きしない!」


 ユリウスが3人を注意して、中央の簡易的な試合場に連れてくる


「わかっているのかい? 君はこれから決闘を行うんだよ? この僕と!」


「フフフッ、わかっていますよ。しかし、決闘と言うからには何か賭けるものが必要でしょう?」


「僕が勝ったら、メッフィ君にはリディア嬢の執事を辞してもらった上、騎士団に自首してもらう」


「ふむ、なるほど。何の罪で自首するのかわかりませんが、まぁいいでしょう。では私が勝ったら、私のいい分をちゃんと聞いて頂くのと…… アナタには私の友達になって頂きましょうか」


「友達? 君が非道な犯罪者でないなら友達になる事は構わないが…… 先ずは僕に勝ってからだ」


 試合場の中央に立ち、ユリウスがメッフィと対峙する


「カワゴエ君、開始の合図をお願いするよ」


「オマエにはぜってぇツッコまねぇからな! それじゃあ決闘開始〜」


 リュージが名前を間違えられたが、ユリウスに舌をだすと、やる気無さそうに開始を告げる


「安心するといい、君はリディア嬢と違って魔法がそんなに得意じゃないようだから、僕も魔法は使わないでおくよ。この木剣だけで戦おう」


「フフフッ、わかりました。では私もこの左手だけで戦いましょう」


「なっ!? 舐めてるのか? それとも負けた時のいい訳か?」


「フフフッ、大丈夫ですよ。かかってきて頂いて。それともビビっていらっしゃる?」


「コラッ! メッフィ、無駄に煽らない!」


 メッフィはユリウスに左手だけを前に出して見せ、ユリウスを煽る言葉をかける。リディアがまるでペットの犬の飼い主の様に叱るが


「ふざけるなよっ!!」


 ユリウスが怒りの咆哮と共にメッフィへ斬りかかる。勇者の身体能力は凄まじく、踏み込んだ地面は小さな爆発が起きたように砕ける。とてつもない推進力を得て、あっという間にメッフィに接近すると大振りの上段から木剣を振り下ろす。


「ふむ。スピードはまぁまぁですが、大振りすぎますね」


 パシィィィィィィン!!


 ユリウスの木剣を避けたメッフィは左手でユリウスを平手打ち


「がっ!? 何が?」


 平手打ちを喰らったユリウスは体勢を崩しただけに留まったが、何をされたか理解が追いつかないようだ


「フフフッ、平手打ちですよ。平たく言えばビンタです」


「くっ! ああぁぁぁぁあ!!」


 またも気を吐きユリウスが斬りかかる、今度は木剣で連撃を繰り出していく。しかしメッフィは苦も無く躱していく。


「スピードはいいんですけどね、まだまだ隙が多すぎますね」


「ぐっ、身体能力強化! 身体能力超強化! 敏捷性上昇! 攻撃速度上昇! 反応強化! 鉄壁要塞!!」


 ユリウスは矢継ぎ早に魔力を込めて自身に強化魔法をかけていく


「フフフッ、魔法は使わないはずでは?」


「魔法じゃない!! バフだ!!」


「フフッ、まぁいいでしょう」


 強化魔法により大幅に身体能力が向上したユリウス。

 以前にユリウスは、今回かけた強化魔法に、更に数種類の強化を重ねた状態だが単独でワイバーンを撃破している。

 亜竜とはいえ竜である。その戦闘力は高く、ギルドの討伐推奨は金級冒険者以上のパーティとなっている。



 瞬間、一気に間を詰めたユリウスの横薙ぎの一閃。ただの木剣だが喰らえば骨折では済まない威力だ


「!?」


「フフフッ、当たれば倒せる。なんて思っていたでしょう?」


 ユリウスの木剣はメッフィの左手で止められていた。それも人差し指と親指でつまむ様に。


 押しても引いてもびくともしない、まるでその空間に固定されてしまったかのように


「はぁはぁ…… な、何で……」


「では、今度はこちらから行かせていただきますよ」


 「うあぁぁぁあああああ!!」


 メッフィはつまんだ木剣を放しユリウスへと近付いて行く、戦意を喪失しかけていたユリウスだったが自由になった木剣を半狂乱状態で振り回す


 強化状態のユリウスの剣撃はたとえ木剣でも強烈な威力を持っているはずだった。ただ、目の前の悪魔には何度まともに攻撃を当てても、何の痛痒も与えられていない様だった。

 後退りするユリウスに笑いながら悪魔が近付いていく。


「私は、アナタが思っている様な事はリディアお嬢様に一切いたしておりませんよ」


 バシィィィィッ!!


 ユリウスの右頬がメッフィによって平手打ちをされる


「まったく、ウチのお嬢様は固いのです。まともに手も握らせてもくれないのですよ」


 バシィ!! バシィンッ!!


 ユリウスの頬にメッフィが往復ビンタする


「なので、まだ何もしてないんですよ。分かりましたか?」


「わ、わかっ…… だっ! ぐっ! まっ! でっ!」


 バシィ! バシィ! バシィ! バシィ!


 ユリウスの返事を待たずにメッフィは高速で往復ビンタを喰らわせていく。

 右から左、左から右とユリウスは倒れる事も許さないスピードで左右からビンタが飛んでくる


「お、おい、アンタの執事半端ねーな? えっ? アレ、ユリウス大丈夫なのか? なんか浮いてねーか?」


 余りに高速の往復ビンタでユリウスは軽く足が浮いている状態で手足がだらりと垂れ下がっている


「メ、メッフィ! もういいんじゃないかな?」


「フフフッ、リディアお嬢様がそう言うのであれば」


 ようやく解放されたユリウスは顔がパンパンに腫れ上がってしまっていた。


「フフフッ、これでアナタと私は友達ですね。よろしくお願いします。これから私の言う事はハイかYESでお答え下さいね」


「それって奴隷って言うんじゃ……」


 思わずリュージがツッコミを入れるが、メッフィがリュージの方をぐるりと向いて笑顔を向ける。


「次はアナタの番ですか?」


「あっ、遠慮しまーす!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る