第16話


「あっっっっつうぅぅぅいーーー!!」


 先日はみんなでかき氷を食べたりして暑いは暑いなりに楽しんでいたのだが、やはり連日の猛暑。リディアはまたも叫んでいた。


「毎日毎日元気がよろしいですね、リディアお嬢様。」


 執事服を着た少年が嘆息しながら声をかける。


「メッフィ、地軸をずらして来て!!」


「かしこまりました」


「待っ、待って下さいぃぃ!! 地軸なんかずらしたら大変な事になっちゃいますよぅ!」


「だ、そうよ? メッフィ?」


「たしかに、無理やり地軸をズラしたらもしかしたら星が崩れるかもしれません。良くて異常気象で人類は9割減かと」


「全然良くないわね」


「つきましては、お嬢様。少しお暇を頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」


「い・と・まぁ? まぁいいけど。何か用事あるのかしら?」


 暑さで少しめんどくさい感じになっているリディアをココが冷たいオレンジジュースで落ち着かせる。


「少々、魔界でやる事がございまして、2日程戻らせてください」


「ふーん、魔界にねぇ」


「寂しいですか?」


「はっ? ば、バッカじゃないの? なんならいつまでだって帰ってたっていいのよ!?」


メッフィが涼しい顔で恥ずかしい事を訊いてくるので、リディアは慌ててしまう。


「フフフッ、いえ、直ぐに戻って参りますよ。私がリディアお嬢様の側に居たいので」


 立て続けの直球にリディアは顔を真っ赤にしてしまう。


「それと、セバスを始め屋敷に居る悪魔組の皆さんも同じく一度帰らせて頂きます」


「え? そうなの? そ、それはちょっと寂しくなるわね」





 次の日、リディアが目覚めると屋敷の玄関辺りで魔界に帰る悪魔組が集まっていた。


「それではリディアお嬢様。行って参ります」


「セバス、皆んなも気をつけて行ってらっしゃい」


 セバスと呼ばれたのはメッフィが家令役として魔界から呼び寄せた悪魔の1人で、見た目がロマンスグレーのダンディな初老の男性だったのでリディアがそう名付けた。


「あれ、メッフィは?」


「メフィ……メッフィ様は先に魔界へのゲートを開けに行きました。後で挨拶に来られるでしょう」


 そんな話をしていると玄関のドアが開き、メッフィが入って来た。何故か傍には10歳ぐらいに見える幼女を連れて。


「メッフィ……早く返して来なさい!! 犯罪よ!?」


「フフフッ、一体何を勘違いなさってるんですかお嬢様。この子は近所の子供でたまにセバスが遊んであげている子ですよ。冗談は発育だけにしといてください。この子と大差ありませんよ」


「2度と帰ってくんなっ!!」



「それで、どうされましたか? フランさん」


 セバスがメッフィの連れて来た幼女に優しく問いかける


「ううん、今日お母さん居ないからセバスさん達と遊ぼうかと思って……」


 フランと呼ばれた子は、たまにセバスやメイド達と遊んでもらっていたらしく、今日も遊びに来たようだが、セバス達の出かける準備をみて空気を読んだのか、その声は尻すぼみに小さくなっていく。


「申し訳ありません、フランさん。私達は本日これから出かける所でして……」


「じゃあ、お姉ちゃんと遊ぼうか!!」


「いいの?」


 見かねたリディアがフランに話しかけると、フランは途端に顔を綻ばせた。


 よく見るとフランは着ている服こそ派手ではないが、とても整った顔立ちに印象的な赤い瞳、ブロンドのツインテールでお人形さんみたいだなとリディアは思った。


「じゃあ、リディアお嬢様行って参ります」


「フランさん、リディアお嬢様はとても高貴なお方です。くれぐれも……」


「なーに言ってるのセバス! 子供なんだから自由でいいのよ! ほら行って行って!」


 メッフィ、セバス、その他メイド達が出ていくと途端に屋敷の中が静かに感じた。


「ふっー、しっかし暑いわねー! フランちゃん何して遊ぼうか?」


「うーんとね、この広いお屋敷でかくれんぼ!!」


「かくれんぼ! いいわね! 私もまだこの屋敷の全部は知らないから探検にもなって面白いかも!!」


 リディアは屋敷に来てからいつもの生活空間以外にはほとんど立ち寄る事がなかった為、まだ知らない部屋が沢山あった。


「最初はフランが隠れるねー! 100数えたら探しに来てねー!」


「100!? 長いわね。オッケー、じゃあ行くわよー。いーち、にーい、さーん」


 リディアが目を閉じて数を数え始めるとパタパタと走っていく足音が聞こえる








〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「ひゃあーく!! やっぱり大分長かったわ! よーし行くわよー!」


 なんとか100迄数え終えるとリディアはフランを探し始める。

 大体の足音の聞こえた方へ歩いていく。


「フランちゃーん! どっこかなぁー?」


 大きい声を出して探し始めている事をアピールしながらリディアは屋敷の中を探索する。


「あれー? 中々見つからないなぁ? どこかなぁ?」


 リディアが屋敷の南側の最後の部屋を覗いてみる。


「ここかなぁ? …………えっ? 何それ?」




 リディアが覗いた最後の部屋。リディアは知らないが来客用の客室で屋敷の使用人も使用していない部屋。質の良い机に調度品。カーテンは閉められていたため直ぐには認識出来なかったが……


整えられたベッドには胸に剣を突き刺した状態で、既に事切れているフランの姿があった。



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