第15話



「あっっっっっっっっつーーーーい!!!!」


 リディア達が冒険者に襲われてから3ヶ月が経ち、季節はあっという間に夏になっていた。

 ここ数年の温暖化の影響で毎年毎年最高気温を更新していると、王都の広場に設置されている魔水晶ラクリマ通信でキャスターが読み上げていた。


「私はあっついの苦手なのよ! なんなのこの雲一つない青空!! 燦々と照りつける太陽!! 爽やか通り越して恨めしいわ!!」


 リディアが言うように実際に空は青く高い空でどこまでも強烈な太陽光が降り注いでいた。まだ午前中だと言うのに、屋敷に設置してある温度計は35°Cを指し示している。


「メッフィ…… 太陽を破壊してきて!!」


「かしこまりました」


「ちょ、ちょっと待って下さぃ!? 太陽破壊なんてしたら大変な事になっちゃいますぅ!」


 余りの暑さに錯乱したのかリディアがとんでもない命令をだすと、側に付き従う執事の少年 メッフィは直ぐに了承の意を示す。

 それを影の薄い黒髪ボブメガネ巨乳メイド幽霊という一部に刺さりそうなココが必死に止める。


「何言ってるのよ、冗談よ冗談。流石にメッフィだって太陽は壊せないでしょ。…… 壊せないわよね?」


「昔、トラウィスという神が太陽に挑んで敗北したそうです。なので機会があれば一度試してみたいと思っていたのを思い出しました。フフッ、出来るか出来ないかで言えば、多分出来ると思いますが、試してみても?」


「やめなさい」


 全く出来るとは考えていなかった為、冗談で言ったことがやけに自信ありそうなメッフィの表情を見て、確認して良かったと思うリディアだった。


「それにしても、太陽こんなんだけど悪魔って太陽平気なの?」


「んーー? 太陽が苦手な悪魔というのは何処の情報でしょうか?」


「いやー、どこのっていうか、そんなイメージだけど……」


 なんとなく振った話題を鋭く切り返され少し戸惑ってしまう。


「まぁ、この世界では本来悪魔というのは、恐怖だったり、邪な考えを囁いたりするような人間の持つ精神的な弱さを表現したものだったようですね。ですから自然と夜、闇、暗黒、などのイメージから対となる、光、太陽などが苦手、弱点などとなったんでしょう」


「えーー じゃあ実際は?」


「全く平気です。」


「あっそう。まぁ悪魔はいいとして、お化けは流石に太陽ダメでしょ?」


 そう言ってココを振り返る。


「平気ですよー しかもわたし只の幽霊じゃなかったんです! メッフィさんに聞いた所によるとリッチって種族みたいです!」


「お化けじゃなくてモンスターだったの!?」


「モンスターって言わないでくださぃ!」


 リディアはココを幽霊だと思っていたのだがリッチと聞くと、今では御伽話に出てくるような伝説上の化物の名前だ。


「この間の戦いでなんか怒ったら魔力がバーって出てガッーーって感じに魔法が使えたんですぅ。それで慣れたら氷系の魔法も使えるようになったんですよーー」


 リディアは、もともと戦闘などした事無かったココが凄い魔法使っているのを見て不思議に思っていたのだが、その種明かしは夏の暑さのせいで成されたのだった。


「でも、氷系統魔術使えるならさ、かき氷作ってよココ?」


「かき氷ですかぁ!! いいですねぇ! 早速準備して来ます!」


 足がないのにパタパタと幻聴がするような慌てぶりで厨房へ駆けていく。


「ココさんはリッチですから、多少制限されますが太陽の下でも問題なく行動できますが、死霊系だとゴーストやレイス辺りは消滅するでしょうね」


 メッフィが見送りながら言う


「あれ? じゃあデュラハンは? 朝とか送ってくれるから平気なの?」


「あーハンスさんは平気ではないです。昼間はいつも木のウロの下で寝ていますが、昼間行動する時は黒い霧を出して太陽光を遮って防いでます。黒い霧は私が幻術で見えないようにしているんです」


「へーーそんな事してたんだぁ。てか名前初めて知ったわ」


 リディアはレヴィア時代の御者は何人も居たので名前まで把握していなかった。まさか悪魔から初めて御者の名前を聞く事になるとは思いもしなかった。



「そういえば、あの冒険者達どうなったのよ?」


「あぁ彼等は治療して、こちらの駒としました。いづれ使う時がくるかもしれませんね」



「へー色々やってるのね。あらっ? あんなウサギいたかしら?」


 リディアが何の気なしに庭を眺めていると綺麗に手入れされている庭にある薔薇の生垣から黄色いウサギが飛び出して来たのがみえた。



「あれは魔界ウサギのアルちゃんです。庭の防衛として1匹放したんです。でも危険ですのでお嬢様は決して近づかないようにお願いします」



「え?あんなカワイイのに危険なの?」


「ええ、特にお嬢様は危ないので極力近づかないように。一応厳しく躾けてありますが」



「わかったわ、そんなに言うなら近づかないけど、一体何がそんな……」


「かき氷できましたぁーー!!」


 リディアはまだ何か聞こうとしたがココが持って来たかき氷に目も心も奪われてしまったようだ。


「わぁー! 待ってましたぁーー!! それじゃあ、みんなで食べましょうーー!!」



 暑い日差しの中、悪魔の使用人達も集めみんなでワイワイとかき氷を食べた休日の一幕。







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