第13話


 「…… ここで…… やる」



 無骨な全身鎧に身を包んだ大柄な男が向き直り、これまた大柄な顔に金属製の仮面を着けた男に言う。


 「自分はお嬢様の護衛騎士。本来ならばお嬢様の側を離れる事はないのですが、まぁ、向こうは大丈夫でしょうから。あなた方の素性も目的も聞きません。そういった事はあの方がするでしょうし。自分はお嬢様の敵を倒すだけ。参ります!」


 以前は自信無さげだったクロードの表情は今では固い決意の見える凛々しい目をしていた。

 外す事の出来ない呪われた仮面だが、多少の形状変化ができる魔道具だった為に現在は口元だけを覆う形になっている。

 クロードはロングソードを抜き放ち、一直線に無口な全身鎧の戦士、ラルフに向かって行く。


 


 グッしゃあぁぁぁああああ!!


 ラルフの長大なメイスの強力な一振りがモロにクロードに直撃した。


 ラルフの怪力から放たれる一撃は重量級のクロードでさえも軽く数メートル吹き飛ばしてしまう。


 だが、これに驚いたのはラルフだった。



 「…… まさか…… 弱い?」


 確実にクリティカルヒットした手ごたえがラルフにはあった。

 自分と同じぐらいの体格で、更についさっきあんなに立派な口上を述べておいて一撃で沈むのか?

 いくら無口なラルフでもツッコミたかった。


 殺すつもりは無かったが、もしかしたら死んだかも知れない。

 一応確認しておこうと吹き飛んでピクリとも動かないクロードに近寄る。



 「ぐぅあああっ!!」


 「ふぁっ!?」


 急に起き上がるクロードに思わずラルフは情け無い声を出してしまう。


 そのまま手に持っていたロングソードでラルフに切りかかる。


 ガンッ!!  グッシャッアァァアア!!



 反射的に盾でロングソードの一撃を受けるとそのまま流れる様にメイスを撃ちつける。


 「…… しまった」


 今度は確実に死んでしまっただろう。驚いて思い切り頭に強打してしまった。

 ラルフの怪力で巨大なモンスターさえも打ち据えるただの鉄塊に近い巨大なメイスで殴られれば人間の頭など熟れたトマトの様にその中身を簡単にぶちまけてしまう。


 レントには殺すなと言われてたからな……


ラルフは真面目にもレントになんと報告したものか頭を悩ませていると



 「ぐあぁぁぁあ!!」



 「ぎゃあああっ!?」


 何故かまだ生きていたクロードがラルフに掴み掛かってくる。

 武器の扱いや武技ではクロードはラルフに一切敵わないだろう。

 だが、ことゼロ距離の肉弾戦なら似たような体格、更にクロードには呪いの仮面の身体能力強化のバフもある為ラルフと揉み合いになる。



 「…… ちから……強い」


 ラルフに馬乗りになり、全身鎧の隙間から喉を狙うクロード


 しかし、一瞬の隙をつき体勢を入れ替えるとメイスによって何度も何度も何度も打ち据える。


 「ぐっ! がっ! があっ!」


 「はぁはぁはぁはぁ…… これで…… 死んだか?」



 肩で大きく息をして今まで人間だったモノを石畳の赤いシミに変える。

 


先程の揉み合いでフルフェイスの兜が外れてしまっていたが、ラルフの額には大粒の汗が噴き出ている。



 「ぐーーーがあぁぁぁああ!!」


 「やっぱりーーー!?」



 何度殺しても起き上がってくるクロードを相手にラルフはキャラも崩壊して叫ぶ。



 再び揉み合いになり、またもやクロードがマウントポジションをとると、クロードはラルフの顔面を右手で掴み渾身の力を入れる。


 ただのアイアンクロー。しかし、どんな傷も瞬時に治ってしまう不死身のクロードのアイアンクローはリミッターが外れて無理な力で骨が折れようとも、肉が裂けようが回復を繰り返しながらラルフの顔面へと指を食い込ませていく。



 「「がぁぁぁあああ!!」」


 2人共に激しく叫びながら、ラルフは必死で頭に喰らいつく指を外そうとするが、うまくいかないばかりか、メキメキと異物が頭に侵入してくる音が激痛と共に襲ってくる。


 バキッ!!



 やがて致命的な音がする。


 その音を機に今まで必死に抵抗していたラルフの腕から力が抜けていく。



 死んではいないだろうが確実に意識は刈り取っただろうと、漸くクロードも力を緩める。



 「お嬢様…… 勝ちました……」





 

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