第26話
時は少し戻り、ゼラードがベルとリディアを尾行し始める少し前。
燦々と輝く太陽に肌をジリジリと焼かれながらリディアは波打ち際で膝ぐらい迄を水に浸けながら貝や小さい生き物等を眺めていた
「おーい、リディアっち! 何してんの?」
「リディアっち? 何よそれ?」
沖から泳いで戻ってきた赤毛の少年、リュージがリディアに声をかける
「リディアっちはリディアっちだよ、なんだろ? 親しい愛称? みたいな感じ?」
「フフフッ、あなたがリディアお嬢様と親しいというのはどこの世界線の話しですか?」
波打ち際で海に似つかわしくない黒スーツの少年が会話に混ざる
「ここだよっ! リーディングシュタイナー!! ってか? そんな自由に世界線移動してたまるかっ!」
黒スーツの少年、メッフィの軽口にリュージは訳の分からないツッコミを返す
「メッフィ! 一緒に食べ歩きした仲じゃない。そんなにイジワル言っちゃ駄目よ!」
そんなメッフィに飼い主の如く、口元に両手の人差し指でバッテンを作り窘める
「リディアっち!!」
「それで……えっとカワサキさん? は何か御用かしら?」
「めっちゃ他人行儀じゃんかっ!?」
「あははっ、冗談よ。あれっ? そういえば今日ユリウスの事見てないわね?」
リディアはリュージを揶揄い楽しそうに笑っているが、背後でメッフィがポキポキと指を鳴らしている。どうやらリディアとリュージが仲良くするのが面白くないようだ。
「あー、アイツが海に来たら出血多量で死ぬかもだからコテージに置いてきた」
「あー、確かに」
リディアはユリウスの残念な特性を思い出して納得する
「俺はもうちょい泳いでくるぜっ! うぉぉぉおおお!」
そう言ってリュージは沖へと泳いで行く。
「そういえばメッフィ? さっきどこに行ってたの?」
「フフフッ、束縛ですか? 私は束縛強めも好みですよ」
「そんなんじゃないわよっ! いつもウザいぐらい付き纏っているのに居なかったからよ!」
メッフィの飄々とした軽口に顔を紅潮させて慌てるリディア
「フフフッ、押してダメなら引いてみろってのもあながち間違いじゃないんですかねぇ。それよりも……」
メッフィはどこからか拾ってきたような木の枝をリディアに渡す
「何これ?」
「木の枝です」
メッフィの淡々とした答えにリディアは振りかぶって枝を投げ捨てようとする
「お待ち下さい。木の枝ですが、ただの木の枝では有りません。それは……モシャモシャの杖と言うものです」
「モジャモジャ?」
「モシャモシャです」
「何それ? ただの木の枝じゃないの?」
「ただの木の枝です。あっ、捨てるのはお待ち下さい。それには特殊な魔法を付与しておりまして……」
またも投げ捨てようとしたリディアを制止しメッフィは説明を続ける
「まぁ、落ちてる枝に私が魔法を付与して、勝手に命名したモノですが……簡単に言えば、見た目を変化させる事のできる杖です」
「見た目を変化?」
「えぇ、模写するって事です。あぁっと! 捨てないで下さい」
リディアはメッフィの適当過ぎる命名に思わず投げ捨てようとしてしまう。
「本日はこれが必要になりますので、どうかお持ちください」
───────────────
「誰を探しに行くの?」
可愛らしく小首を傾げリディアがユリウスに訊ねる
「もちろんリディア様だ!」
「ん? 私?」
勢いよく振り向いたユリウスは目を丸くする
「おい、どういう事だ? リディア様はいるじゃないか?」
リディアの登場にびっくりしたのはもちろんゼラードもだ。目を丸くして呆けている
「あ、あれ? 確かに僕は見たんですけど? あれ〜? そうだっ!! ベル嬢は!?」
「ベル?」
リディアは誰の事か分からないと言う感じで聞き返す
「えぇっ? さっきまで一緒に居たはずじゃあ?」
「フフフッ、第2クラスの女生徒が何人か騒ぎ始めていますよ? どうやら誰かが居なくなったとか」
いつの間にかリディアの後ろにいた黒髪の少年が一部の女生徒を指し示す
メガネをかけた女生徒がリディアを驚愕の表情で見つめたあと、周りの女生徒達に指示を出していた
「リディア様がご無事だったのは良かったが、誰かが居なくなったのならやはり、探しに行かなければ!」
正義感の塊のような勇者が休憩所を飛び出して行った
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