第18話
「きゃあっ!」
リディアがベッドの上で防御姿勢をとる。
「夢……」
またも、殺されたと思ったらベッドの上だった。
(夢……じゃない、ループしてる!?)
「どうされたんですか? みなさんもう玄関に集まっていますよ」
(やっぱり…… 同じだ……)
リディアが1階に降りると、屋敷の玄関辺りで魔界に帰る悪魔組が集まっていた。
「それでは、リディアお嬢様。行って参ります」
「セバス、この屋敷のセキュリティってどうなってるのかしら?」
「セキュリティですか? 万全ですよ。まず屋敷に入る前に選別の薔薇を抜けなければいけませんが、この薔薇の生垣は家人の許可がなければ永遠に辿り着けません。さらに外界からの直接攻撃を防ぐ3重の防御結界。屋敷の中にも侵入者を自動で攻撃する機械人形……」
「それっ! その機械人形ってどんな見た目?」
「機械人形ですか? よくある甲冑を改造してあります」
「やっぱり! それとりあえず解除しといて! 危ないから!」
リディアはまさか、自分を守る為の防衛装置の一つに殺されていたのだ。わけのわからなかった甲冑への対処はこれでいいとして
「危ない? ですか? あれは防衛装置なのですが……」
困った顔をするセバスの後ろで、玄関のドアが開きメッフィが入ってくる。やはり傍には10歳ぐらいの幼女を連れて
「セバス、お願いね。 メッフィ、その女の子はどうしたのかしら? 私、今日は具合が悪くて部屋で休みますから。来客はお断りしたくてよ?」
「左様でございますか。 すみませんフランさん、私達はこの後直ぐに出発しなければいけません。リディアお嬢様も本日は機嫌が悪いご様子。門までお送りしましょう」
「はい…… 突然来てごめんなさい……」
フランは俯きがちに謝るとトボトボと玄関から出ていく。
これで脅威は無くなった筈だ。リディアは幼女をすげなく帰すという行為に胸を痛めつつ
(あれは殺人鬼、あれは殺人鬼、あれは殺人鬼)
と心のなかで言い訳を繰り返していた。
部屋に戻り、今日は一応警戒しつつ過ごそうと考えていると、ふと、やっぱりココが居ない事に気付く。
「ココ? どこにいったの?」
不安に駆られ、窓から庭園を覗こうと窓辺に近づいたとき
「きゃあぁぁぁぁああああ!!!!」
丁度、外から女の子の悲鳴が聞こえてきた
「なっ、何!?」
リディアが外を見ると女の子が引き摺られていくのが見えた。引きずっていた相手は丁度薔薇ね生垣に隠れて見えなかった
「フランちゃん?」
犯人だと思っていたフランがまたも襲われている。訳の分からない状況にリディアは走っていた。
「まだ他に何かいるっていうの?」
〜〜〜〜〜〜〜〜
リディアが庭園に着くと、何かあった場合に直ぐに逃げれるように外へ続く門を確認しようとして絶句する
「選別の薔薇が……起動してる!?」
選別の薔薇 メッフィが庭園の薔薇の生垣にかけた、惑いの呪い。家人の許しが無ければ屋敷まで辿り着けないばかりか門から帰る道もわからなくなる。つまり、リディアはいま外に出る事も出来ない状態だった。
不意に薔薇の生垣が能動的に動き新しい道を作ると、そこには倒れて動かない少女…… フランの姿があった
「フランちゃん!」
リディアは最大限警戒しながら、フランに近づくと胸な手を当てて心臓の鼓動を確認する
「やっぱり動いてない……」
一目見て死因は出血死だろうと分かるほどパックリと切れた首からは大量の血が流れ出ていた。
ガサリッ
音に振り返ると赤い眼をした女の子。長いブロンドヘアーをツインテールにしている女の子が立っていた。見た目はここに倒れているフランにソックリだった、ただ両手に短剣を一本ずつ持っていて、身体は返り血で血塗れだった。
「フランちゃんがもう1人?」
リディアは後退りしながら、頭は混乱していた
(フランちゃんが被害者でフランちゃんが加害者で…… どういう事??)
「メッフィ…… クロード!! ココ!! 助けて!」
ゆっくりと残酷な笑みを浮かべて近寄るフラン?に逃げ道が薔薇に閉ざされたリディアが叫ぶ
「リディアお嬢様!!」
生垣を突き破ってクロードが飛び込んでくる
「クロード!」
一瞬喜んだのも束の間、飛び込んで来たクロードは既に全身に血の後が付いていた。脅威的な回復力のためもう傷は塞がっているだろうが、これは既に一度戦っている事を示す。
(クロードの服がこんなにボロボロなのに、相手のフラン?には返り血しか付いてないように見える……)
「リディアお嬢様! 自分では奴に勝てません! 時間を稼ぐのでお逃げ下さい!!」
クロードは叫びフラン?に向かって行くが、見た目が10歳ぐらいの少女とは思えない機敏な身のこなしと短剣使いでクロードは瞬く間に全身から血を吹き出す。
リディアは走って逃げる、逃げる、逃げる、逃げる、逃げる、逃げる、逃げる、逃げる、逃げる、逃げる、逃げる、逃げる、逃げる、逃げる、逃げる、逃げる、逃げる、逃げる、逃げる
長く走ったつもりが一向に何処にも辿り着かない。
「あははははははははははははぁ!!」
壊れた様に笑い、フラン?が迫ってくる。凡そ人間とは思えない跳躍力で文字通り、跳んでくる。
「あははははははははははははぁ!!」
最後、耳に残ったのは甲高い笑い声だった
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「………………」
頭がボーっとして目が覚める。
無理だ……
フランが敵? 味方? 味方だったとしても何の戦力にもならない。
クロードは頑張ってくれるけど、敵わない。
外には逃げられない。
詰んだ……
でも、やらなきゃ! もう死にたくない!!
「どうしたんですか? もうみなさん玄関に集まっていますよ」
(ココ……こいつ何処に行ってんの?まぁいいわ。やってやろうじゃない!!なぜか何回でも生き返るんだから!)
リディアは一階に降りるとセバスに甲冑の防衛装置を切ってもらい、今回はフランと遊ぶ事にする。そして
「メッフィ、早く帰って来れないなら何か身を守る物ない?」
「身を守る物? ふむ。貞操帯とかですか?」
「ふざけてる訳じゃないの。何かない?」
「ふむ。ではこの指輪をどうぞ」
メッフィは自分の小指に着けていた指輪を外しリディアへと渡す。小声でふざけていないですが…… と呟いていた
「これは?」
「ピンキーリングです。 あははっ冗談ですって。顔が怖いですよ。この指輪は1日に3回だけですが身を守る障壁、相手を弾き飛ばす拒絶、傷を回復する治癒の中から選んで使えます」
またしても冗談のような答えに睨みを効かせるリディア。あまりの形相にメッフィも直ぐに本当の効果を教える
「わかったわ、ありがとう!」
「いえいえ、それでは。リディアお嬢様もお気をつけて」
(相手は結構直ぐに襲ってくる。フランちゃんを守りながら、メッフィが帰ってくるまで隠れられる所を探さないと)
「お姉ちゃん?」
険しい顔をして黙り込むリディアをフランは心配そうに覗き込む
「あっ、ごめんねー。実はね今日はかくれんぼする予定だったの!!」
「かくれんぼ! やりたーい!」
「でしょ? それでね、鬼さん役をやってくれる人がこれから来るから、それまでに隠れなきゃ行けないの。一緒に隠れよう?」
「わかったぁ!」
隠れ場所を探して歩いていると前回あったメイドのクレタさんに出会った
「あっ! クレタさん! 突然なんだけど、この屋敷で絶対に見つからないような場所ってどこか知らないかしら?」
「おはようございます、お嬢様。かくれんぼとかですか? 絶対に見つからない場所なら一カ所心当たりがあります」
リディアに話しかけられたクレタは初め驚き目を見開いていたが丁寧に教えてくれた
(あっ、そうか! 今回は初めてクレタさんに会うから名前知らない筈だったんだ! 普段からメイド全員の名前を覚えている立派な令嬢って事で誤魔化せるかな?)
クレタに付いて行くとそこは応接室だった。
「ここに隠し扉がございます」
そう言ってクレタが応接室の本棚の奥を何やら弄っている。
すると本棚が横にズレるようにひらき間に通路が出来る。
「ほへー。こんな所あったんだー?」
「ここはユーズ・ロン様が当主になるよりも前も代々伯爵家の別邸などとして使われていたんです。建物自体は建て直されているのですが、実はこの土地の下には地下牢があるのです。これはそこに行く為の道ですね」
地下牢と聞いて怖くなったのか、フランがぎゅっとリディアの服の裾を掴む
「その地下牢を作った当時の当主には、ちょうど、そのお嬢様ぐらいの年恰好のお子様がいらっしゃったようです。だだ、屋敷に侵入した賊に無残にも殺されてしまったようです」
クレタの話を聞いて何となく、リディアは今回の犯人はその亡くなったというお嬢様の怨念なのだろうかと考える
(うー、怨念だったら地下牢とか隠れても見つかりそう……)
本棚の通路の先、行き止まりの床でまたクレタが操作する
「こちらです。」
床が開き、地下へと続く階段が口を開ける。
地下は薄暗くはあったが真っ暗では無かった。微かに壁が発光しているのだ。クレタが燭台に火を灯すともっとハッキリと見える様になった。
入り口を閉めると、とても静かで気温も下がり、あんなに暑かった外の熱気が嘘のようにひんやりとしていた。
少し歩くと錆びた牢が見えてくる。1番手前の牢の中には白骨化した亡き骸が横たわっていた。
「きゃあっ」
リディアが思わず悲鳴をあげる。フランは口に手を当てて声も出ないようだ。
「先程のお話しには続きがございまして。大事な1人娘を殺された当主は娘の側仕えだったメイドが大した傷もなく生きているのが不服だったようで、そのメイドを地下牢に閉じ込めたようです」
「じゃあ、この遺骸はそのメイドさん?」
「かも知れませんね……」
「そのメイドさんはなんで賊に殺されなかったのかしら?小さな子供にも手をかける様な賊なのに」
「……お嬢様を守る為に力のないメイドに出来る事は? なにも争うばかりではありません。結局約束は果たされなかったようですが」
それ以上、リディアもクレタも黙り込み、地下牢の床に座り込む。
静かに時間だけが過ぎていく。何故かフランも何も言わず静かに付き従ってくれている。時折、右手の親指の爪を噛んでいる所をみると少なからずストレスがあるのだろう。
こんな地下でしかも白骨遺体と一緒なんていくらかくれんぼだと言っても異常だと思うだろう。
(いつまでもつかな……)
「お嬢様、どうやら誰か帰って来たようですよ。」
どれくらい経ったねだろう。薄暗い地下では時間の感覚が曖昧になってくる。いつの間にかフランは寝てしまったようだ。意外と図太い神経をしているかもしれない。
「何も聞こえないけど?」
クレタが誰かが帰って来たっいうがこの地下牢では一切の音は聞き取れなかった。
「もしかしたら怨霊かも?」
「ふふっ、大丈夫ですよ。大勢の足音が聞こえますから」
「えー? 聞こえる? 何も聞こえ無いけどなぁ?」
クレタに促されフランを起こして地下牢から出ると、一階ホールにメッフィ達の姿があった
「これはこれはリディアお嬢様。ご無事で何よりです」
「もう2日たったの?思ったより早かったわね」
「何をおっしゃいますやら。まだ半日しか経っていませんよ。ところで今までどちらにいらしたんですか?」
2日にしては早いと思ったがまさか半日しか経っていなかったとは、リディアは少しがっくりしたが、珍しく焦った表情のメッフィが見れたから良しとする事にした。
「地下牢よ。それよりも大変!! この屋敷呪われているわよ! なんか悪霊がいるかも! メッフィどうにかしなさい!」
「悪霊? 悪魔の間違いではなくて? ふふっ、それよりもご紹介したい方が。アランさん、こちらへ」
メッフィにアランと呼ばれて出て来たのはフランと同じ姿形をした少女だった
「あー!! 悪霊!! 怨霊!!」
「初めまして、でいいのかな?リディアお姉ちゃん」
「ど、どういう事?」
アランはツインテールのカツラを取ると地毛のショートヘアーを晒した。顔立ちはやはりフランと瓜二つだ。そこにフランが近寄り並び立つ
「私達、双子の兄妹なの。ごめんね、リディアお姉ちゃん」
「この子達は魔界の由緒あるヴァンパイアの家系の双子なんですよ、今回協力して頂きました」
「ねーねー、俺とフランどっちが多く殺した?」
「はっ?」
意味がわからないリディアはメッフィに説明を求める視線を飛ばす
「ふふっ、いつもいつも暑い暑いとおっしゃっているリディアお嬢様の為に、ホラーで涼しくなって頂こうかと思いまして」
「えっ? 全部もしかして?」
「はい! 仕込みです!!」
清々しいほど爽やかな笑顔だった
「リディアお嬢様には死んだらループする魔法をかけまして、ループモノを楽しんでもらおうかと」
「そんなぁ……うぅ、ぐすっ」
その場にヘナヘナと座り込み泣き出すリディアだった。
「流石に今回のはやり過ぎでしょうよーー!!」
「あっ、その泣き顔niceです!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
後日談
「リディアお嬢様、ところで地下牢ってどこですか?」
「地下牢は地下牢よ。メイドのクレタが教えてくれたわ」
「クレタ……はて? そんなメイド居ませんが?」
「はっ? はー? まーたそうやって怖がらせようとしてーー!」
「いえいえ、本当に。フランさん、一緒に居たんですよね?」
「それなんだけど…… リディアお姉ちゃんが途中からブツブツ独り言いいだして、とうとう精神病んじゃったのかなって。私達は何度目のループなのか知らないから……。変な地下に連れられたらメッセージの魔法も使えなくなるし、リセットかけていいのかわからないし。ちょっと怖かったわ」
「え? えー?」
「連絡が取れなくなったので急遽帰ってきたんですよ」
「はははっ、クレタさんが幽霊だったって事…… 因みにクレタさんの助け借りないとクリア出来なそうだったんだけど?」
「あー、あれはですね。誤作動している機械人形とクロードさんとでアランを足止めして、屋上で捕らわれているココさんを助けだし、一緒に選別の薔薇を作動させている魔導士を倒し、フランさんのメッセージで私を呼んでもらいつつ、選別の薔薇を突破した先でドラゴンと戦うのですが、私があげた指輪で何とか攻撃を掻い潜り、あと一歩といった所でやられそうになりますが! リディアお嬢様が私の名前を力いっぱい叫ぶ事で、颯爽と私が現れドラゴンをやっつけます」
「無理だろ、それ」
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