第7話
王都には何事もなく入る事が出来た。この首なしのなんだか全体的に黒い御者も、八本足のやけにデカい馬も、恐ろしい装飾の客車もメッフィが言う様に普通の馬車に見える様だった。
「さっき守衛の様子が少しおかしかったけど何かしたのかしら?」
「はい、催眠を少々。少し面倒でしたので。」
王都の入り口の門を通過する時、客車の中から見えただけでも、門を守る守衛の様子がおかしく、虚ろな目をしていたためリディアが聞くと、メッフィは真剣な表情でそう答えた。
「面倒って……なにかバレそうになったりしたの?」
リディアは少し焦った。幻術をかけているとメッフィは言っていたが、そもそも幻術が効かない相手がいたら? もしくは、何かの拍子に幻術が解けていたら?
ここには首のない御者に幽霊、角を隠した悪魔…… それに一応人間だが仮面が顔に食い込んで取れない大男。怪しい奴しかいなかった。
「いえ、ただ単に私が話すの面倒くさかっただけです。」
「……あなた、もしかしなくても結構適当よね?」
リディアが呆れた様に言うと、メッフィは笑いながら頷く。
「まぁ、なんとかなるから大丈夫ですよ。」
「なんとかするのは当たり前よ! でも催眠とかは後遺症とかがでたらかわいそうだから、やたらと使わないようにしなさい!」
リディアが少し語気を強めるとメッフィは慇懃な態度に変わる。
「かしこまりました。それと右手に見えて来ますのが本日お泊まり頂くホテルになります。」
そう言ってメッフィが右側を指し示すとなかなか立派なホテルが見えて来た。
「リディアお嬢様、クロードさん、ココさんはこのホテルでお休み下さい。私はもう少しやる事がありますので、ここで失礼いたします。」
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ホテルから1人出て来たメッフィは、周囲の人々に気付かれないように上空に飛び上がる。
「魔法学園があそこだから…… 近くて侯爵家に相応しいような屋敷は……」
メッフィが1人でブツブツ言いながら上空から王都を眺める。そして魔法学園から程近い、広めの庭を持つ屋敷に目を付ける。
早速、その屋敷の前に降り立つと、屋敷の門番がメッフィに気付く。
「あれ? いま空から人が飛んできた?」
「失礼。このお屋敷はどなたのお屋敷なのでしょうか?」
門番は不審に思いながらも律儀に答える。
「ここはユーズ・ロン辺境伯様の別邸であります。何か御用でしょうか?」
「なるほど、その辺境伯様は今はいらっしゃいますか?」
「いえ、今は自領にて過ごしておられます。こちらの別邸にいらっしゃるのは、王宮から招集がかかった時ぐらいですね。」
「なるほど、それならまぁいいか。では、これからこの屋敷はリディアお嬢様の屋敷とさせて頂きます。」
「はぁ? 一体何を言って……」
リディアにやたらに催眠等を使わないように言われたばかりなのに、メッフィは早速魔眼を発動させている。
黒かった瞳が魔力を帯びて赤く染まっていく。
「……はい。……かしこまりました。」
門番は虚ろな目で頷くと、しっかりとした金属製の門扉を開いていく。
「さて、時間がありませんね、魔界の彼等にも手伝って頂きましょうか。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「へぇー、すごいわね。よくこんなお屋敷あいてたわね?」
「なんでも、ここのお屋敷の所有者は僻地の辺境伯様らしく、お伺いをたてたところ、リディアお嬢様の御留学中の滞在先として快く貸して頂きました。」
「こんな短時間で僻地の辺境伯様にどうやってお伺いたてたのよ?」
メッフィが慇懃に頭を下げながら説明するも、リディアがジト目で問い詰める。
「そこは、まぁ、ほら悪魔の力とかで…… それよりも早くお屋敷の中へ。 こちらは本当に悪魔の力で整えてあります。」
リディアがため息を吐きつつ、屋敷の中に入ると
「おかえりなさいませ、リディアお嬢様。」
そう言って、黒の執事服を見に纏うダンディな初老の男性と、それに続いて数名のメイド服に身を包んだ女性たちがお辞儀をして出迎えてくれる。
「あら、こちらの方々は?もう雇ったんですの?」
リディアは初めて会う人を前に、直ぐによそゆきの顔と言葉遣いに変える。
「悪魔です。」
「は?」
「悪魔です。新たに人を雇うのも面倒でしたので魔界から悪魔を連れて来ました。大丈夫ですよ、彼等は魔界でも私に仕えていた者達なので礼儀作法もしっかりしております。」
思わず聞き返したリディアに悪びれもせずにメッフィは答える。
「はぁ、この人達?悪魔達?は人を襲ったりはしないのよね? なんだか、頭が痛くなってきたわ……」
かぶりを振って頭を押さえるリディア。
「大丈夫ですよ。悪魔は人間の食べ物も食べますし、なんなら何十年と何も食べ無くても大丈夫です。 それよりも、もうレヴィアお嬢様は死んだのですから、もっと楽な話し方で統一してみては? 」
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