第8話
「ねぇ、メッフィ。 一つ質問いいかしら?」
「ええ、もちろんです。」
「どうして私はバベルの入学式に出ているのかしら?」
現在、リディアとメッフィはバベル魔法学園の入学式に出席している。
バベル魔法学園内の広い催事場で立食パーティーの様な形式で行われている。
学園の教員なのか司会者が淡々と進行をしていく。
「それは、リディアお嬢様がバベル魔法学園に入学したからですよ。ご入学おめでとうございます。」
皮肉めいたメッフィのセリフにジトっとした視線を向け
「そんな事わかっているわよ。……私、去年も出席した記憶があるのだけれど?」
「それはレヴィアお嬢様であってリディアお嬢様ではないですよ。それに、見知った方々が多いとボロが出やすいですし。それに……」
メッフィは意味ありげに視線を遠くに向ける。リディアが視線の先を追うと
「ベル……」
リディアの目つきが鋭くなり、嫌悪感を露わにする。
「あの娘、よく王宮で見かけていたけど、年下だったのね。」
「発育はいいようですけどね。」
そう言ってメッフィは視線を落とすが、すぐさまリディアに足を踏まれる。
「アナタが変えなかったんでしょ?」
リディアは胸を隠すようにしてメッフィに背を向ける。
「まぁまぁ、魔法で盛られてもそれって虚しくありません?」
「すんごいムカつくコイツ!!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
入学式が終わり、クラス分けもされそれぞれの教室で自己紹介が始まる。
「遠方のアストラディアから留学生として参りました。リディア・サンクレールと申します。皆様どうか仲良くして下さいね。」
そう簡単に自己紹介したリディアは最後にニコリと微笑む。
作り笑いなど貴族としては当たり前なのだが、バベル魔法学園は貴族ばかりでなく平民も多く通っている。さらにメッフィにより絶世の美少女に仕立て上げられている。
その笑顔の破壊力は凄まじくクラスの男子の殆どが叶わぬ夢をみてしまう程だ
「私はメッフィと申します。リディアお嬢様の護衛兼側仕えとして一緒に入学させていただきました。以後、よろしくお願いいたします。」
メッフィが挨拶を述べ流麗に礼をすると、今度はクラスの女子生徒から嬌声が上がる。
「どうやら、ベルとは別のクラスみたいね。って、何か凄い視線を感じるんだけど!?」
「下々の者達の羨望と嫉妬の眼差しでしょう。どうぞ、ない胸を張って堂々として下さい。」
「いちいち一言多いのよ、殴るわよ!」
リディアとメッフィがヒソヒソと話している間に残りの自己紹介も終わり、担任と思われる教員が前にでる。
「は〜い、それでは〜皆さん、今日は〜自己紹介の他にもう一つ、バベルに入学したって事は〜もちろん魔法が使えると思いま〜す。なので実力テストというわけじゃありませんが〜皆さんの得意魔法を披露して貰いますよ〜。」
教員の中では若そうな20代に見える女性が妙に間延びした話し方で告げる。
「キタキタキター! やっぱこうゆう俺つえーを見せつけるイベントがないとなっ!」
赤髪の目つきの鋭い男子学生が1人で何事か喚いているが、どうやらやる気が溢れているようだ。
「先生っ! 俺、俺が1番に行きまーす!!」
やる気に満ちた赤髪の生徒が担任に手をあげて猛烈にアピールをする。
「は〜い、えっと〜、リュージ・カワサキ君ですね。わかりましたぁ〜、では1番でどうぞ〜」
生徒達の得意魔法の中でも攻撃魔法が得意な生徒達は屋外の魔法の試技場で的に向かって得意魔法を放って見せるようだ。
「いちお〜的も含め周囲には防御壁と修復魔法がかかってま〜す。なので防御壁毎壊しちゃうつもりでガンガンやっちゃってくださ〜い。」
「よっしゃあぁぁぁ!! いくぜぇ超特大のファイアーボールだぁ!!」
リュージと呼ばれた赤髪の少年は両手を掲げると頭上に直径1メートル程の巨大な火の球を出現させる。
「うおりぁぁぁああ!!」
投げつける様に巨大な火の球を放つと真っ直ぐに的に当たり、爆発する様に燃え上がる。
「おぉ〜、パチパチパチ〜凄いですね〜!なかなかの威力ですぅ。」
周囲の生徒達からもどよめきが起こるも、リュージは納得が行かないようだった。
「なんかもっとこうびっくりしないのか?学園始まって以来の天才とかよー?」
「あははっ、1年生にしてはと〜っても凄いと思いますよぉ〜。でも今年は彼が居ますからねぇ〜」
そう担任の女性が薄いブロンド……シャンパンゴールドのような艶のある髪色をした少年を見る。
神託により数百年に1人でる、勇者の肩書きをもつ少年。ユリウス・ヘクトール
「わかりました。次は僕がやりましょう。力を誇示する様で気が進みませんが。ここは学園の教員方に実力を見てもらう場。全力で行きたいと思います。」
そう決意を語るユリウスはなぜかリディアを見る。視線に気づいたリディアが見ると慌てて前に向き直す。
「では。火、水、土、風、雷。万物を司る精霊よ、我が矛となりて闇を祓う光をっ!!」
ユリウスが詠唱をすると、赤色、青色、茶色、緑色、黄色の光の球がユリウスの周囲をゆっくり回り始める。
「ホーリー!!」
掛け声と共に光がレーザーのように的にぶつかる。的は一瞬で破壊され、後ろの防御壁にも少し穴が空いている。
「す、凄いです〜!!さすが勇者ぁ!防御壁に穴まで開けた人ふ今まで誰も居ませんよぉ〜」
「ねぇ、凄いけど、あんな恥ずかしい詠唱しないといけないの?」
「多分必要ないですね。彼の癖でしょう。しかし、全属性ですか。珍しい……」
試技が終わるとユリウスはリディアを見て微笑みを浮かべる。
リディアは何故微笑まれたのかわからないが、とりあえず微笑み返す。
その後は大した生徒もなく、順番は最後のリディアに回ってきた。
メッフィは無難に的を半壊させていた。
「私、魔法って苦手なのよね。まぁ的に当たればいいか。」
「私の魔力を少し分けますので全力でやってみて下さい。仮にも侯爵令嬢が舐められる訳にはいきませんので。」
「はいはい。わかったわよ。火と風しか使えないから攻撃魔法なら火よね。じゃあやってみるわ」
「それではリディアさ〜ん、お願いしま〜す。」
担任はユリウスが終わってから若干飽き気味でやる気なさそうに促す。
「私だってわざわざやりたくないわよ。ファイアー…………!?」
リディアが担任へ小声で不満をぶつけながら魔力を練ると前に出した手のひらから赤を超え青を超えて白に近い高熱の球が顕れる。
「やばっ!?あつっ!!」
余りの熱気に直ぐに発射すると高熱の光球は的も防御壁も飲み込み校舎を突き破り、海の彼方に消えて大爆発を起こした。
「あはははっ、ははっ修復できます?」
口を開けて呆然とする周囲に乾いた笑いで誤魔化すしかできないリディアは内心泣きそうだった。
後には溶けてガラス化した地面と一向に修復しない壁が残ったのだった。
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