第10話
バベル魔法学園入学式当日、1年第2クラス。
「それでは、みなさん簡単に自己紹介をお願いします。因みに私はこのクラスを担当するネークです。……では廊下側の1番前から順にお願いします。簡潔に簡素にお願いします。」
神経質そうに何度も手持ちの名簿や資料の角を合わせようと、机で整えながらネークと名乗った男は言う。
痩せた体躯で生徒達の事など全く興味がないように、メガネの奥の目は数いる生徒達の誰にも焦点が合っていない。自分の容姿にも頓着しないのか、ボサボサに伸びっぱなしの黒髪が目にもかかり、その虚空しか映さない瞳を隠している。
ネークに言われた通りに生徒達は淡々と簡単に自己紹介を終えていく。
自己紹介の順番が窓側の列までいくと、桃色の髪をした愛くるしい顔をした少女の順番になった。
「えっと、ベル・フライスです。よろしくお願いします! なんだか人よりちょっとだけ魔法の才能があったみたいでー、あはっ、バベルに入学出来て嬉しいなぁって!わたしのぉ敬愛するクライヴ王太子殿下がここのー」
「はい。もう結構です。簡潔に。次の方どうぞ。」
ほうっておくといつまでも喋り続けそうなベルの自己紹介をネークはピシャリと中断させる。
一瞬眉間に皺を寄せたベルだが直ぐにニコニコと笑顔を作り、すみませーんと悪びれもせず席につく。
しかし、男子生徒の何人かはベルの事をチラチラと見ては顔を赤くしている。
バベル魔法学園では決まった制服はないが皆ある程度学生らしい服装で通っている。
ベルもブレザーにスカートという、字面でいうと普通の学生服だが、だいぶ胸元が強調されていたため、男子の大部分の視線はそこに吸い込まれていった。
リディア達の第1クラスが魔法試技場で魔法の試技を行っている頃、ベル達の第2クラスはネークの淡々とした進行により、後はもう帰るだけとなっていた。
当のネークは連絡事項だけ伝えたらさっさと教室を去っていってしまっていた。
(ったく、なんなのあの担任は。わたしの自己紹介も遮りやがって。それにあんな堅物じゃ色仕掛けも通用しなそうね。まぁでもわたしより目立ちそうな奴もいないし、さっさとポジションを確立しようかしら)
ベルがそんな事を考えながら帰り支度をしていると、先に教室を出ていった男子生徒が慌てた様子で教室に飛び込んできた。
「だっ、第1クラスに破滅の女神が降臨したーーーっ!!」
「はぁ?」
男子生徒の叫びに思わず、素が出てしまったベルだが、その後の男子生徒の話に耳を傾けるとみるみる機嫌が悪くなっていった。
男子生徒曰く、もの凄い魔法で防御壁ごと吹き飛ばしたらしい。
曰く、もの凄い魔法だったのにも関わらず、周りに居た他の生徒達は熱も感じない程の精密な魔力操作とか。
曰く、壊れた防御壁や修復魔方陣は時が巻き戻る、超超超高難易度の時間遡行魔法で元に戻したとか。
曰く、そしてそんな魔法を放ったのが、銀髪の絶世の美少女だったとか。
もちろん、ベルが1番気に障ったのは最後の絶世の美少女にだ。
(わたしを差し置いて美少女とか女神とかって…… ふざけてるわね!!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
むかつく、むかつく、むかつく、むかつく、むかつく、むかつく、むかつく、むかつく、むかつく、むかつく、むかつく、むかつく、むかつく、むかつく、むかつく、むかつく、むかつく、むかつく、むかつく、むかつく、むかつく、むかつく、むかつく、むかつく、むかつく!!
コッソリとリディアを見に行ったベルは荒れていた。
自分が最高にカワイイと自負しているベルにとって生半可な美少女なら余裕があった。
しかし、リディアを見た時に思ってしまった。
かわいい と。
表面でどんなに取り繕っても心の奥で認めてしまった敗北感が黒いシミとなってベルの心を染めて行く。
(こんな気持ちになるのなんて、あの女以来だわ!! せっかくあの目障りな女、レヴィアが居なくなったのに!!」
その後、ベルは取り巻きの女子生徒達にリディアに嫌がらせをするように指示するも、常に一緒にいる執事風の男子生徒に邪魔ばかりされて一向に溜飲は下がらない。
「てゆうか、学園に執事連れて来るってどういう事なのよ?」
「それが、あの執事服の少年?少し幼く見えますが、彼もちゃんとしたバベルの生徒みたいです。」
ベルのもっともな指摘にベルの取り巻きの女子生徒が答える。
「それにしても、あの見た目で魔力も高いとか、どんだけって感じっすよねー。」
「まぁ、あのリディア嬢が凄い魔法を使ったという噂がありますが、既に試技場は元通り。第1クラスの誇張な気がいたしますね。言っても学生レベル。本職の冒険者達には勝てないでしょう。」
ショートカットの取り巻きがあっけらかんと言うと、メガネをした知的な雰囲気を醸し出す取り巻きが答える。
「それだわ!!」
取り巻き達の会話を聞いていたベルが何事か思いついたように立ち上がる。
「うふふっ、たしかパパの子飼いの冒険者、レント達って最近金級冒険者に上がったんだったわね。ミナ、金級冒険者って強いの?」
「そうですね、一般的に金級以上は英雄と呼ばれるような人達なので、そんな一部を抜かせば最高峰の冒険者でしょう。」
ミナと呼ばれた知的な雰囲気の女子生徒はメガネをクイっとあげながら答える。
「なら、すこーーしお灸を据えてもらいましょうか。出過ぎた杭は抜かれるってね。ふふっ」
「出る杭は打たれる、です。」
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