第18話 私の能力
私と水樹は、今までの出来事についてお父さんとお母さんに全部話した。
二人は、気づけなくてごめんと謝りながら、私たちを抱きしめてくれた。
それが、さっきの話。
夕食が終わった後、私は自分の部屋のベッドに座りながら考えていた。
……あのとき、たしかに私の中でなにかが湧き上がる感覚がした。
燃えるように熱くて、だけどそれだけじゃない。
感じたことのない、モノ。
思い当たるのは、ひとつ。
それは、私の能力だ。
心理部に入るとき、理心先輩が言っていた。私にも“能力”があるって。
初めは信じられなかったけど……。
……この感情がそうなら。私に能力があるなら。
いったい、どんなものなんだろう。
まったく見当もつかない。
私は自分の手のひらを見つめる。
もし、私に誰かの助けになれる力があれば。
―――私は、誰かのために使いたい。
次の日の朝。
「水樹ーっ!」
晴れた空の下、私は庭で待ってくれている水樹のもとへ走る。
「朝からうるせーな」
「水樹っ!」
「だからなんだよ」
耳をふさぐその姿の前へ私は立つ。
「今日はさ、一緒に登校しようよ!!」
「はあっ?何言ってんの、おま———」
「ほら、遅刻しちゃうよ!」
私は水樹の手首を握る。
骨ばった感触に私は少し驚いた。
……いつのまにか、こんなに変わってしまったんだって。少し前まではなんでも私のほうが大きかったはずなのに、逆転したみたいに水樹のほうが身長も手も大きくなってしまったんだ。
姉弟だから気づかないことだってあるし、姉弟だから気づくことだってある。
そういうのを私は、大切にしていきたい。
「てか俺とお前は方向真逆だろ!」
「あっ、そっか!」
私は慌てて止まった。
「たく、相変わらずだな、千海は」
「え、ありがとー!」
「ほめてねーし」
水樹が呆れたように笑う。
ずっと水樹が笑っていられますように。そう思ったとき。
急に、水樹が真剣な顔になった。
そして、少しだけ視線を逸らして言った。
「……一昨日、あんなこと言ってごめん。それと、ありがとう。俺のこと、助けてくれて」
「え……」
私は予想もしない言葉を掛けられ、びっくりして目を見開いてしまった。
まさか、そんなこと言われるなんて。
「“えっ”てなんだよ、“えっ”て」
「あ、ごめん!」
すると水樹はふっと笑って、伏し目がちに言った。
「……千海に抱きしめられたとき、“安心”したんだ。姉弟以上のっていうか、千海自身に、人を安心させる能力があるんじゃねえかって思うくらい」
……あん、しん。
私は今度こそ、本当に固まってしまった。
『私ね、千海ちゃんに話を聞いてもらうとなんだか安心するんだ〜。心が、ほかほかって、なるみたいな?』
いつか言われた、美沙ちゃんの言葉を思い出す。
……もしかして、私の能力って。
「どうしたんだよ、お前」
「あっ、なんでもないっ!」
怪訝そうな表情の水樹に顔を覗き込まれ、私は慌てて否定するように片手を振った。
「ほら、早く行くよっ!」
「だから、俺と千海は方向が違うだろ!」
―――唯一無二の力。
それがもし、誰かを安心させることができるようなものなら……。
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