第10話 罪悪感と進まない現実
私は今の水樹の現状について軽く説明した。
「……その話を聞いていると一見サッカークラブが関係ありそうだけど、たぶん違うと思う」
「……そっか」
実際にクラブにいる蓮くんがそう言っているんだから、間違いはない。
クラブは週に6回だから、たまたま被ってるだけ? という可能性もなくはない。
「俺は最近クラブに行ってないから一概には言えないけど」
……それはつまり、サボりなのでは……。
「水樹のポジションはMF。簡単に説明するとまあ攻守両方する感じ。相手チームにとられないようボールをうまくつなげる力が必要とされる。水樹はその辺の基本がしっかりしているしコーチやチームメイトは水樹に信頼を置いている。もちろんオレも。だから、知る限りでは仲間割れとかが原因ではない気がする」
そこまで言われてしまうと、私の考えは振り出しに戻ってしまった。
初めは仲間割れからの喧嘩、とかと軽く予想していたけど。
なら……。
「加害者や被害者が、いない場合がある、のかも……」
「いないって、どういうこと?」
花恋先輩が首をかしげる。
「あんまり想像したくないんですが、水樹が自ら転んで怪我をしたとか……何かが理由で」
するとクラブは無関係となり、水樹自身に問題があることになる。
でもそれはもちろん蓮くんは知らないわけだから、これ以上問い詰めるわけにはいかないと思った。
それにさっきのはあくまでの話であり、実際の話ではない。
あるかわからない真実に暗くなって考えてちゃだめだよね。
「……ありがとうございました。すみません二人とも、お付き合いさせてしまって」
私は感謝の気持ちを込めてお礼を言い、頭を下げた。
協力してくれて、とてもうれしかったんだ。
「別に。役に立たなかった気もするけど」
「ぜんっぜん!そんなことないよ、ありがとう蓮くん!」
私は、自分と同じくらいの大きさの手をとって握手をする。
すると、蓮くんは控えめに微笑んでくれた。
家に帰って私は、部屋のベッドに転がる。
私より早く帰ってきていた水樹の様子は普通だった。いつも通り。
本当は聞きたかった。でも、何をどう聞けばいいのか具体的なことが分からない。水樹を傷付けてしまうのは怖い。
……それに、頼まれたわけでもないのに勝手に自分のことを調べられて。水樹にとってはいい気はしないと思う。
そんな罪悪感が襲ってきて、私は水樹の顔が見られなくなってしまった。
せっかく協力してもらったのに……私自身が弱気になっちゃダメなのに。
「ああもう、どうしたらいいの~!」
枕に顔を埋め、ばたばたと足を動かす。
普段こんなに悩んだりしないから、おかしくなりそうな頭を抱えていると。
そのとき、スマホの着信音が部屋の中で鳴り響いた。
ベッドを降りて机の上に置いてあるスマホを手に取りカーペットの上に座る。
画面には『美沙ちゃん』の文字。
通話ボタンを押して耳に当てた。
「千海ちゃん?今、大丈夫?」
唐突に聞こえた美沙ちゃんの声が心にしみ渡る。
「うっ、だい゙じょゔぶ~!!」
「ど、どうしたのっ!?」
心配する美沙ちゃんのセリフが聞こえた。
「……それで、美沙ちゃんは、なにか用事?」
「ううん、用事っていうか、最近忙しくて千海ちゃんとお話しできてなかったから。陸上部の朝練で一緒に登校できてないし、クラスも違うからあんまり会えなくて寂しかったんだ」
「わ、私もっ!だから、美沙ちゃんと話せてうれしい!」
「そっか。よかった!」
電話の向こうで美沙ちゃんは、笑っていてくれているだろうか。
そうだといいな。
私はスマホをぎゅっと握りしめる。
「そうだ。聞きたかったんだけど、千海ちゃんって結局部活どうしたの?」
「……エッ?」
一瞬、私の思考回路が停止する。
やばい、美沙ちゃんに心理部のこと言ってなかったっ!!
言おうと思っていたのに忘れてたなんて、私何やってるのっ!
壁にゴンッと頭にぶつけた。
「……~いった~いっ!」
「千海ちゃん大丈夫!?すごい音したけど!?」
「……あはは、大丈夫大丈夫!」
私はひしひしと痛む額をさする。
もうちょっと力加減考えればよかった……。
「えっと、部活の話だっけ」
「うん。何か入ったりした?」
「あ、えっと……」
言ってもいい。むしろ言おうと思っていたし、理心先輩も宣伝するみたいなこと言っていたし問題はない。
とりあえず、能力のことは内緒にしといたほうがいいのかな。苦しいけど……。
私は、誘われて心理部に入部したこと、心理部の活動内容を簡単に説明した。
「そっか〜。千海ちゃん、昔から話を聞くの上手だもんね」
「話を聞くのに上手とか下手とかあるのかなあ」
「あるよ〜。私ね、千海ちゃんに話を聞いてもらうとなんだか安心するんだ〜。心が、ほかほかって、なるみたいな?」
「自分じゃ、よくわからないけど……でも、ありがとう美沙ちゃん」
「うん。じゃあまた明日ね、千海ちゃん」
「うん、またね美沙ちゃん!」
私は通話ボタンを切る。
……私が聞き上手、かあ。
ベッドに座り考える。
美沙ちゃんにあんなふうに思ってもらえてうれしいけど、思ってもみなかった。
美沙ちゃんの話を否定するわけじゃないけど、でも私がほんとに聞き上手なら、水樹の話なんて今頃簡単に聞けているのになあ。
私は外ハネの髪をツインテールに結んだゴムをするりと解いた。
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