第20話 少しだとしても、あなたの力になりたい

 次の日。

 具体的にどうなったのか、私にはわからない。

 だけど、北橋くんが今日登校して、早乙女くんと楽しそうに話しているのがすべての答えだ。



  その日の放課後。

 私たち五人は心理部の部室に集まっていた。

 そして北橋くんのことを話した後、私はゆっくりと切り出した。


「まだ、確信は持てないんですけど……自分の能力、分かった気がします」


 私の能力は、きっと“人を安心させる”こと。

 根拠はない。だけど、美沙ちゃんと水樹が言ってくれたから。

“安心する”んだって。

 理心先輩は、にこっと笑った。


「そっか、大切にしてね。 千海ちゃんだけの、唯一無二の力なんだから!」

「はい!」

「じゃあいろいろひと段落したし、心理部の宣伝しましょっ!」


 花恋先輩が楽しそうに言う。

 そういえば、心理部って“勧誘”じゃなくて“宣伝”なんだよね。

 心理部は、理心先輩が見抜いた特別な能力を持った人しか入部許可してないみたい。

 だから、こんなにも知名度がないんだろうけど……。


「そういえば、“もう一人”の件はどうなったんですか?」


 拓未先輩がふしぎなことを口にする。

“もう一人”の件? ってなんだろう。

 すると、颯先輩が思い出したように手を叩いた。


「そういえば理心、入学式で千海ちゃん以外にもう一人、能力を持った人がいるって言ってたよね」

「ああ、言ってましたねっ!」


 私以外にもう一人……いる?

 たしかに疑問に思ったことなかったけど、3年生は理心先輩と颯先輩、2年生は拓未先輩と花恋先輩って二人ずついるのに、1年生は私一人だけだ。

 なら、その“もう一人”が学年の誰かってことなのかな。


「あ~その話なんだけどね」


 と、理心先輩が切り出す。


「入学式のときは千海ちゃんの力に引っ張られて、誰か分からなかったんだよね。あとから判明するかなって思ってたんだけど、入学式以来、能力の気配ほとんど感じなくなっちゃったから結局分からずじまいでさ~」

「それじゃだめじゃないですか」


 すかさず拓未先輩がツッコむ。

「まあだから、その人も探しがてら、心理部の宣伝もしていこうってことで―――」


 理心先輩がそう言ったとき、コンコンコンとノックの後、がちゃりと部室のドアノブが回った。

 え、誰だろう。心理部の部室はあまり知られていないから、生徒ではないはずだけど。もしかしたら、顧問だから吉野先生かな……?


「あっ」


 私はドアを開けた正体を見た瞬間、思わず声を上げた。

 ドアの向こうから現れたのは、男子生徒。


「……あの、こんにちは」


 ……それは、まぎれもなく北橋くんの姿だった。

 北橋くんは、心理部のことは知らないはずなのに。


「……なんで、ここに……」

「あーーーーっ!」


 私の言葉を遮って、急に理心先輩が北橋くんを指さして叫んだ。


「え、どうしたんですか」


 拓未先輩がそう聞くと、口を半開きにしたままの理心先輩が答えてくれた。


「この子だよ! さっき言ってた“もう一人”って!」


「ええっ!?」


 私たち四人はびっくりする。

 ……北橋くんが、能力を持った、私以外の1年生……!?

 とうの本人である北橋くんは、微妙な表情でこちらを見ていた。


「で、あなたは誰?」


 あ、そっか……! と私は気が付く。

 理心先輩や心理部のみんなは北橋くんのことは知っていても、実際に会ったことはない。

 それに、北橋くんはずっと学校に来ていなかった。だから、先輩が能力の気配を感じにくくなったんだ。

 北橋くんは少し視線を逸らしながら前へ出て、ドアを閉める。

 そして口を開いた。


「……北橋澄遥、です」

「えっ、あなたが北橋くん?」


 花恋先輩が聞くと、北橋くんはうなずいた。


「……啓太に聞きました、俺のために協力してくれたって。だから、お礼を言いに来たんです」


 ありがとうございました。と言い、北橋くんは頭を下げた。

 北橋くん……。

 私はとりあえず、北橋くんが学校に来てくれたことがうれしかった。

 仲良くなれる機会が、これからもっと増えるかもしれないから。


「じゃあ北橋くん、さっそくだけど、あなたも心理部に入らない?」

「え」


 頭を上げた北橋くんは、驚いたような表情で固まる。


「そんなまた、強引な……」


 拓未先輩が呆れたようにつぶやいた。


「心理部については、千海ちゃんから聞いてる?」


 颯先輩がたずねると、北橋くんは「はい」と返事をした。


「もしよかったら、あたしたちと一緒に、未来の子どもたちのために活動してくれない?」


 理心先輩の希望に満ちた横顔が、窓から入る夕日に照らされる。

 北橋くんは少し視線を泳がせた後、まっすぐ前を見つめた。


「……俺で、いいのなら」

「えっ、ほんと!? やったーっ!」


 その瞬間、理心先輩が嬉しそうに飛び上がった。


「な、ちょっと理心!」

「あいかわずうるさいですね」

「いいじゃん拓未くん! うるさいほうが楽しいって!」


「ありがとう」

 北橋くんは、そうお礼を言ってくれる。

 私はうれしくなって、微笑んだ。


「これから6人で、頑張ろうっ!」


 ジャンプから落ち着いた理心先輩が、誓うように拳を突き上げる。

 心理部に、新しい第一歩の風が吹いた。



 ―――誰かの力になりたい。

 それは簡単なようで難しい。

 自分を捧げてまで誰かのために頑張る気持ちを持つのは、どれだけ決心のいることだろう。


 それでも私は……!


 私は――――少しだとしても、あなたの力になりたい!

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心理レスキュー! 桜田実里 @sakuradaminori0223

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