第16話 心強い仲間

 蓮くんに案内してもらいながら、私は水樹のサッカークラブまでやってきた。

 そろそろ、クラブが終わるころだ。


 いったい、何が待ってるんだろう。

 なにもなかったとしても、それを確かめなければ私は帰れない。

 これ以上、水樹に怪我をさせるなんていやだ。


 蓮くんはきっと、サボって私のところに知らせに来てくれたんだ。

 本当に感謝しかない、ありがとう。


「着いた」


 私はつぶやく。

 目の前には、二階建ての大きく白い建物。

 ここが、夜野スノセア。建物に「YORUNOSUNOSEA」と書かれているから、間違いない。

 私は一歩踏み出した。


「待て」


 だけど、蓮くんに止められる。


「……この時間だともうクラブが終わってる」

「え、そんな……」


 一気に道が塞がれ、思わずそうこぼしたとき。


「千海ちゃーんっ!」


 後ろから走る足音とともに、名前を呼ぶ声がした。

 私は、まさかと思って振り向く。


「……先輩たち……」


 なんと現れたのは、理心先輩、颯先輩、拓未先輩、花恋先輩……つまりは、心理部員だった。

 私は目を見開く。

 どうして、ここに……。


「オレが、学校を出るときに連絡したんだ」


 蓮くんがそう言ったとき、理心先輩たちが目の前で止まる。

 その姿を見ると、温かい気持ちにふわっと心を包まれた気がした。

 目の前まで来た理心先輩が、私の両手を取ってぎゅっと握る。


「探そう、一緒に。心理部員は、千海ちゃんだけじゃないよ」


 手から、温かさと同時に心強さも伝わってくる。

 握られた手のひらから顔を上げると、みんなが決心したような顔つきで私を見つめた。


「……はい!」


 私は、思いっきり返事をした。


「千海ちゃん、理心の能力は覚えてるよね?」

「はい」


 颯先輩に問われ、私はうなずく。

 理心先輩の能力は、“人を引き寄せる”ことだ。


「だから、千海ちゃんと理心は一緒に行動しよう。花恋も千海ちゃんのほうに入って」

「りょーかいですっ!」


 花恋先輩がぴしっと敬礼する。


「おれと拓未と蓮くんは、東のほうに。理心たちは、西のほうを捜索ってことでいい?」

「わかりました」


 拓未先輩が返事をし、蓮くんがこくりと首を縦に振る。

 日は、どんどん沈んできている。

 つまりは、もうあまり時間がない。


 私は、みんなのことを見る。

 ―――一人だったら、きっとここで諦めてた。

 だけど、一人じゃない。私には、心強い仲間がいる。

 言葉じゃ表せない感情が、胸の奥底から湧き上がってきた。


「本当に、ありがとうございます!」


 私は頭を下げてお礼を言う。

 そしたら、笑顔のみんなと目があった。


「お礼はまだ早いよ、大川さん」

「そーだよっ! 千海ちゃん!」

「水樹のこと、絶対見つけるんだろ」

「一緒に頑張ろう」


 何の保証もないのに、これだけ協力してくれることに、私は感謝してもしきれない。

 だけど、心理部は感謝なんてもともと望んでなんかいない。

 心理部は、“子どもたちの未来を守るため”に活動しているんだから。


「さあ千海ちゃん、行こう!」

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