第12話 動く心理部
「遅いなー千海ちゃん。何かに巻き込まれてないといいけど」
「いつも巻き込まれるのは先輩のほうでしょう」
「えーなにそれ!」
「理心の能力は、台風みたいなもんだからね」
「ちょっとー。こうやって今五人で活動できてるんだからさ! 多少のデメリットくらい目をつむって—――」
「先輩たちっ!!」
バーンっと私は部室のドアを開ける。
「うわっ、どうしたの千海ちゃん」
「あのっ、相談いいですか!」
「え、もちろんいいけど……」
理心先輩は私の隣にいる早乙女くんに気が付いたのか、他の三人とすぐさまアイコンタクトをとる。
そして、ソファへ私たちを案内してくれた。
気を使ってくれたのか、目の前には理心先輩と颯先輩だけが座り、花恋先輩と拓未先輩は別の位置で作業なんかをしている。でもたぶん、耳では聞いていると思う。
心理部に沈黙が流れる中、理心先輩が優しく笑って切り出した。
「千海ちゃん。こっちの子は?」
「クラスメイトの、早乙女啓太くんです」
「どうも」
早乙女くんが軽く頭を下げる。
「あの、大川のいる心理部は、悩みを訊いてくれるんですよね?」
「うん。もちろん!」
理心先輩が力強くうなずく。
すると、早乙女くんは少しうつむいたあと、意を決したように前を向いた。
「……あの、おれの友達のことなんすけど」
友達と言うのは、間違いなく北橋くんのことだと思う。私は隣に座りながら考える。
「おれと友達――澄遥は、小学校から仲が良くて。澄遥、小5くらいまでは、毎日学校に来てたんすけど……小6の春あたりから急に学校に来なくなって」
早乙女くんの声色は沈んでいて、苦しそうな気持ちが良く伝わってきた。
「それからずっと、話せていないんです。ケンカしたわけでもないし……。もしおれが澄遥を無意識に傷つけていたなら、謝りたい。だけど、学校に来ないことにはそれすらも聞けやしない。どうしたらいいか、こまってるんです」
早乙女くんが話し終わった後、部室には少しだけ沈黙が流れた。
だけど張り詰めた空気じゃない。なんだろう、もうちょっとこう、暖かいような……。
そう考えて手のひらを見つめる。
……あ。
「……話はわかったよ、早乙女くん」
理心先輩が力強い笑みを浮かべた。
同時にわたしは顔を上げる。
「頑張ろう。そしてもし澄遥くんになにかあったなら、その心を救い出す。あたしたちと一緒に」
理心先輩は立ち上がり、早乙女くんをまっすぐ見つめた。
「……ありがとうございます。……えっと」
「あたしは池野理心。んでこっちが、清原颯」
颯先輩も立ち上がり、ぐっとうなずく。
先輩だから……かもしれないけど、その姿は、とても頼もしく見えた。
「池野先輩、清原先輩、それに大川と、他の部員の方も。……もう一度、澄遥と話がしたい。おれの悩み、聞いてくれますか」
早乙女くんは腰を上げ、ぎゅっと両手を握る。
……早乙女くんにとって、北橋くんは本当に大切な友達なんだ。
「うん、もちろん! ―――あたしたち心理部が、君の力になれるように」
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