第9話 凱旋
あれから4年の月日が世界に刻まれた。
俺は10歳になった。
——クイン・ステッレの古城——
「…ッッッ…!」
「…フッ!」
「おっとと!? …あちゃぁ、参った」
ヒゲもスッキリした精悍なアサエモンの刀は、俺の技に巻き上げられプロムナードの遥か天井に突き刺さった。空手のおっさんへ構えていた刀を参ったの一言で下ろす。
「しっかし、やる様になったな〜小僧も!
今や大将より背丈も高くなっちまって」
「母上の手料理がどれも美味しいが故にな」
「はっ、親孝行モンだな全く」
「ユータ、そろそろ出発の時間だよ〜」
「もうそんな時間か? 何だか寂しくなるな、お前さんが居なくなると」
「呼ばれればいつでも帰ってくる。呑みすぎるなよ、おっさん」
何故かチアガールの格好をしたリリィに呼ばれたので、おっさんの肩を叩いてプロムナードを後にした。
——玉座の間——
「今日から2年は教国に身を置き、世界を知って来るが良い。帰って来たくなったら24時間365日毎秒受け付けておるから、連絡する様に」
「親バカ過ぎます、陛下」
—という事で俺は教国の首都・デヴリンで
2年ほど過ごして来る事になった。母上の影を渡る力—《影淵迷宮》を取得した俺は影のある場所なら何処でもワープ出来るので、別に数秒あれば古城へは帰って来られる。母上としてはやはり子供が外へ出るというのは心配が尽きぬのであろう。
「毎夜脳に直接メッセージを送るよ」
「欠かさぬ様に頼むぞ」
「無論だとも!!」
「脳に直接って…」
母上はポロリと溢れる涙を拭いながら、玉座から立ち上がって跪く俺を抱き締めに来た。
「こんなに大きくなって…あぁ、私のヴァル。剣の腕も、魔法の力も恐らく当世のヒトの頂点とは思うが。何かあったら直ぐに呼ぶのだぞ? 我が忠臣5000を引き連れてヴァルに敵対する遍く根絶やしてやるからの」
「過保護過ぎます、陛下」
「大丈夫だよ、母上。このシュヴァルツ・フェイトグランデ=ステッレは、母上の子どもなのですから」
「うむ、そうか! そうか…グスン」
母上の涙を指で拭ってやり、きめ細かい髪を撫でる。その後にリリィも一応抱擁しておく。
「風邪引くなよ」
「サキュバスは風邪引かないけど?」
「でもお前、バカだから引くかなって…」
「え、別れ際に突然のディス…」
リリィの禍々しい角と桜色の髪を撫でる。それに応えてか、俺の首筋や腰をねっとりとした手つきで撫でて来る。コイツなりにやはり寂しいと思ってくれているらしい。離れ際、キスをされた。唇が触れ合うだけの奴は、リリィ的には親愛表現らしいので俺も許している。
「サキュバスに言い寄られても私以外抱いちゃダメだからね?」
「絶対来ないで…では行ってきます」
「いってらっしゃい、ヴァル」
「てら〜⭐︎」
俺は左手で右目を隠し、右手を天に掲げた。
俺の影が翼の様に広がり、そして俺を包む。
「《
シュヴァルツ・フェイトグランデ=ステッレ、初めての凱旋と行こうか!!
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