第17話 パパとママのシスマ

——教国

——首都デヴリン・ヴルドラ地区



「今日は厄日だよ、全く…いや、毎日か」


 ふくよかな男に誘われるがままに、俺と少女は男の家に上がった。男はホットミルクを2つ可愛らしいカップで持ってきて差し出し、自分は水瓶から水を一杯酌んでボロボロのコップに注いだ。少女がミルクをひと口飲んだ所で、男は椅子に掛けながら話を始めた。


「俺はモリス、一応神父…だったかな」

「白教のか?」

「まさか」


 モリスが髭だらけの顎で示した先には黒いローブと伏せられた写真立て、小さなヴルドラのレリーフが埃を被っていた。少女がそれを見て小さく「あっ」と叫んだのを聞いて、モリスはわざとらしく大笑いを浮かべた。


「ハッハッハッハ! 嬢ちゃんにいじわるしたりしないよ」

「…」

「安心しろ、嘘をついていたら俺がおっさんにハリセンボンを飲ませてやる」

「…はりせんばん?」

「鋭い針が1,000本も生えている魚だ」

「なんだそりゃ〜。まるで悪魔みてぇな魚だな」

「いや、顔は実に可愛らしくてな」

「針が1,000本も生えてんのに、顔は可愛いと来たか! ハハハハハッ、面白いなお前さん」

「…フフフ」


 少女もおっさんと俺に釣られてか、はたまたハリセンボンのお陰が微笑み空気が軽くなった。感謝する、†獄海の小天使ディオドン・ホロカントゥス†。


『《獄海の小天使》を取得しました』

『魔力が残り99.99%になりました』


 久しく聞いていなかったアナウンスも俺を†祝福エンデュミオン†してくれているようだ。


「俺はシュヴァルツ、君は?」

「オラクル…」


 ワンピースの少女は少し恥ずかしそうに、両足を交互にぶらつかせながら呟いた。


「嬢ちゃんはどうしてこんな危ない所を1人で歩いてたんだ? パパかママは?」

「! …ママがね、いるの」

「そうかそうか、近くにいるのか?」


 オラクルは首を横に振った。


「わかんない」

「そうか…この辺だとデヴリンの中央教会か? ママは白教徒スノーホワイトだよな?」


 オラクルは首を横に振った。


「ううん…ママはね、怖い蛇を大事にしてるの」

「ママは? —って事は、パパの方は…」


 オラクルは首を縦に振った。


「白い天使様達を大事にしてるの。ママがね、変になっちゃったの…」

「…俺も人生メチャクチャだったけど、嬢ちゃんには敵わないわ」


 モリスはオラクルの薄ら青く染まった肩ほどまである長い髪を撫でた。


「神父だった・・・という事は」

「そうさ、俺も嬢ちゃんと同じ。親の信じてるモノで人生がよろしくない方へ歪んだ人間の1人さ」

「…おじちゃんも、いっしょ?」

「一緒さ、少しな」


 モリスは写真立ての方に目線を落とし、それから俺の方へと向き直って話を始めた。


「俺の父親は黒教徒ブラック・プリンセスの中でもかなり熱心な信徒で、母さんが早世してからは特にそうなった。俺がまだ7歳の頃だった——」

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