第18話 人の姿をした怪物 ①

——教国

——首都デヴリン・セントヴルド教会



 背中を引き裂く強烈な痛みが何度も打ちつけられた。俺の父親のジョンソン神父は鞭の扱いがえらく上手く、何度でも新鮮な鞭打ちを繰り出せたんだ。


『モリス、お前は黒教徒ブラック・プリンセスの規範となり見本となり正しく清い道を歩くのだ。…御心と共にある母さんの為にもな』

『…っはい、父さん。ありがとうございます』


 今思い返してみても、虐待されてる事に心の底から感謝していたなんて。我ながら狂った道化の様だったと思うよ。


『”正しき者の光は輝き、悪き者の燈は消え果てるだろう” …誰もが日常の中で小さな悪を絶えず行う。それが当たり前の事なのかもしれない。だが! 悪きを認めず己を戒めない者の道は必ず闇に満ちる。なればこそ、御心と共にある事を忘れず善き行いをつくなさねばならないのだ』


 ミサの最中、隣に座るデイビスさんはよく父親が説教してる時にふと俺にこう言ってくるんだよ。


『彼が言うとどんな言葉も絶対的な正しさを宿している様な気がするよ。本当に立派な人間で、本当に立派な父親だよ。君のお父さんはね』

『はい! 僕は父さんの事を誇りに思います』

『モリス君も、立派な神父様に…ひいては司祭になれるさ』

『ええ! 必ずや』


 1人息子を自分達が正しいと思う世界に閉じ込めて、背中をズタボロに引き裂く父親が立派? ハッ! 今の俺に言わせりゃ、只の上等なペテン師でしかないね。


『モリスはいつもこの教会にいるわね』

『ええ、ここで学ぶ事はまだまだ沢山残ってますし。司祭様の意識が戻らない事には人手が足りませんから』

『司祭様が寝たきりになってから随分経つわね。もしかしてジョンソン神父様が司祭様になったりするのかしらね〜』

『どうでしょう…男寡おとこやもめとはいえ、父さんは結婚していましたから』


 知ってると思うが、黒教じゃお偉方は結婚しちゃいけねえのさ。終身助祭ってナンバー2なら結婚しててもなれる例外もあるけどな。


『それでも、終身助祭に治まるには惜しいお方じゃない。誰もが神父様の信心の深さを素晴らしいと思っているし、人柄も気に入っているのよ』

『そうですね。特例…もあるかもしれませんね。本当に、父さんが僕の父さんである事が神の御慈悲である様に思われます』

『ふふふ、学校に行っていない事が本当に惜しいわ。モリスは頭も良くて賢い選択が出来る子なんだから勉強に励んでも良いでしょうに』

『学校…? ミカおばさん、それは一体何なの??』

『おやまあ、学校を知らないのかい? 何か神父様にお考えあるのかもしれないが、学校くらい通っても良いだろうに。詳しくは神父様に聞いてみなさい。またね、モリス』

『うん、ミカおばさん。神の御加護がありますように…学校って何だろう?』


 笑えるだろ? 皆を導けなんて言われてんのに、皆が当たり前に行ってた学校すら行ってないなんて!

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