第13話 シンデレラ

——教国

——郊外・灰の教会



「銀の弾丸…か。正しく悪魔祓いにお誂え向きの得物だな」

「特製の銀弾さ。カスの悪魔なら1発で神の国へ…悪魔が成仏出来るのかは知らんがね」


 モデルガン同様に、マガジンを引き出すと赤い銀色の弾丸がギッシリと詰まっていた。スライドを引き薬室内の弾丸を抜いて、再度スライドを戻す。近所の銃マニアの小林に教し込まれたままの正しい構えを構える。


「随分と銃に精通しているねー♪ もしかして現役?」

「まさか。詳しい知り合いがいただけの事…だ」

「ふーん、その割には様になってたけど?」


 空の引き金を引き、銃本体とマガジンと弾丸をシスターへと返す。


「色々と感謝する。俺はシュヴァルツ・フェイトグランデ=ステッレだ」

「ジュリエッタ・アヴェマリヤ」


 ジュリエッタは俺の手を握って何度か上下にシェイクした。


「エクソシストにはなってくれないのかね、シュヴァルツ少年?」

「残念ながら、今はな」

「へぇ。『今は』なんだ〜」

「あぁ」


 己の目で確かめていないものを悪と断ずる事はできない。白教と黒教…どちらを信仰する者とも接してみなければならない。

 それに今は、フェルシーの存在の方が気掛かりだ。


「片翼の天使が街を歩いているのは、案外普通の事なのか?」

「片翼…? さあ、天使の知り合いなんていないから何ともね」


ジュリエッタの反応を見る限り、やはり天使が街中を歩く景色は日常的ではない様だった。


「最後になるのだが、何処か良い宿屋を知らないか?」

「宿屋〜? 少年の様な白でも黒でもない灰の者シンデレラには中々無いと思うよ。ある一軒を除いてね」


 ジュリエッタは簡単な住所の示されたメモを胸元(文字通り)から取り出し、俺に二本指で差し出した。


「ありがとう、ジュリエッタ」

「悪魔が狩りたくなったらいつでもウチの教会に来な。絶えず善行を尽くしたまえ…てね? それと妹によろしく〜」

「…妹?」



——首都デヴリン・灰の館



「嘘〜〜!! お姉ちゃんのお客さんにしては随分と可愛いらしいわね〜♪ 食べちゃいたいくらい」

「…」


 俺がジュリエッタに紹介されて来たと告げるや否や、彼女に瓜二つなメイド服の女性は俺に飛びついて来た。この窒息する程の胸の圧力にはリリィに近しい何かを感じる。


「と、取り敢えず半年から1年ほど宿を取れれば思っているのだが…」

「そんなに長くいるつもりなら、私の部屋に泊まるといいわ! うん、そうしましょ」

「えぇ…」

「あ、私はジュリアっていうの! 君のお名前は!!」

「シュヴァルツ・フェ…」

「シュヴァルツ君! カッコイイお名前ね♪ シュヴァちゃんって呼んでもいい?」

「シュヴァちゃんはちょっと…」


少しだけ後悔しても、いいのかな。




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