第5話 †鬼畜極めし獄獄鍛錬†

——クイン・ステッレの古城——



「ぬおらあああああああああああ!!」

「…掛かったの、結構」

「陛下〜、まだ3歳の人間ですから相当速い方ですよ多分」


玉座の間に雪崩れ込んだ俺の翼はボロボロだった。……すまない、普通の人間には見えないのだった。他にも滝のように噴き出る汗、垂れ流しの鼻水、汗を吸って重たくなった服など兎に角。俺はこの城の中を駆け巡り、アホ長い螺旋階段を上り下りしてきたのだ。

 疲労困憊…いや、†安らかな鎮魂歌ネム・レクイエム†を身体と魂が必要としている。肺の中と脇腹が破滅的に痛み、頭の中も不気味にスッキリしているこの感覚…あまり慣れるべきではないな。

 そんな俺を見下す赤ジャージに竹刀(俺の魂の記憶から復元したらしい)を掲げる母上はホイッスルを鳴らした。


「もう一周だ、行け」

「へ、陛下! …シュヴァルツ!?」


血反吐を吐く俺に動揺を隠せないリリィを制し微笑んでみせる。


「俺は不死身の…シュヴァルツ・フェイトグランデだ!! ぜぇ…はぁ…行ってきます!!」

「行くが良い」

「と、止めないと死んじゃいますよ陛下!!」

「その時はその時じゃ」

「陛下!!」


—3時間後—


俺の翼はもげた。いや失敬、見えていな…ぜぇ…はぁ…。


「はっはっはっはっ…ふぅ…はあーー…ふぅ……」

「苦しいか? ヴァル」

「ぜぇ…ぜぇ…」


俺は一度だけどうにか頷いた。


「今なら記憶を消して人里へ帰してやらん事もない。余の御曹司など、今以上の苦しみが様々お前を襲う事になるだけぞ!」

「お…れは…」

「?」


俺は震える手で片目を隠し、最高にカッコイイポーズ—自称—で母上に応えた。


「クイン・ステッレの御曹司にして…神の子たる者…シュヴァルツ・フェイトグランデ=ステッレだ……!…げぇほっ…げぇほっ」

「…」

「ユータ…!」

「しゅゔぁ…しゅ、シュヴァルツだ…」


俺のアンサーを受けて母上の握っていた竹刀はバキバキに割れてしまった。


「そうか、ならもう一周だ!!」

「ステッレ様!! 死んじゃう、ユータが死んじゃうよ!!!」


泣きつくリリィにも動じず、尚も母上の視線は俺だけに向けられている。俺は立ち上がった。


「安心しろ、リリィ…はぁ…

滅却しえぬ心火エターナル・ハート†を宿す俺は死なない…」

「で、でも…」


『《滅却しえぬ心火》を取得しました』

『魔力が残り90%になりました』


脳内で無機質なアナウンスが流れる。


「行ってきます!! うおおおおおお!!」

「…行ってこい」

「もう2人ともなんなのー!!!」


俺は再び、地獄の城内ランニングを始めた。











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