1章:夢見る天使

第10話 †初めての再会†

——教国——

——首都・デヴリン——



噴水広場の中央、俺は水浸しで到着した。どうやら噴水の中の影から現れてしまったようだ。


「これもまた、†祝福エンディミオン†なるかな…クククッ、フハハハハ!!」

「ママー、あのお兄ちゃんキチガイだよー

「こら! せめてキグルイって呼びなさい。放送倫理に引っ掛かるわよ」

「ほうれんそー?」


 街の中は日本人が想像する中世ヨーロッパの街並みそのものと言ったところだ。石造りの家々や建物、人々の往来が賑やかな市場通り。

 正直、母上の城も戦いで損傷し荒れていたので北○の拳の様な世紀末な荒野なども想定していたのだが、少しばかり気が楽になった。


「《煉獄の炎ヘルム・フレム》…ふぅ、先ずは腹拵えから」


 水浸しの服を地獄の紫に耀く焔で乾かし、適当なファミレスでも無いか探して練り歩く。通りすがる少年少女、大人や商いをする者達は誰もが市民階級といった感じで、一見では貧富の差が無いか限りなくそれに近しいのだなと感じた。


(ふむ、何冊か読んだ異世界転生モノでは概ね治安は破綻していて転生した主人公がトラブルを一掃する…といった所が相場と見たが…)


 少なくともこの街デヴリンに大胆不敵で聖人君主なヒーローは要らない様に思う。


「このシュヴァルツ・フェイトグランデ=ステッレが使命を果たさずいられるというのは実に素晴らしい事だ…フフッ」


誰もに祝福を授ける事こそが我が使命。活躍の場が無い事実は苦々しくもあり喜ばしくもある。


「ならば、我が†闇を凌ぐ聖域サンクチュアリ†を探す事にしばし奔走させて貰うとしよう…ん? 何やら良い香りが…」


 漂う不可視の美味の予感に誘われて、歩いた先には一軒のトラットリアが佇んでいた。店の前では片翼の天使が涎を垂らして立ち尽くしている。 ——————は?


「まさか、お前は…†失われた翼もう1人の俺†…?」

「…私に話しかけているのか? にんげ…本当に人間か貴様」


振り向いた

あえかなる哉

天使様


   シュヴァルツ・フェイトグランデ=ステッレ


 思わず一句詠唱んでしまう程に、その天使は美しかった。黄金を宿した長くストレートな髪に、サファイアやブルーガーネットを施した様な深く蒼い双眸。顔立ちは中性的な少年でありながら、身体のラインやシルエットは女性の優美さを讃えている。


「名工の削り抜いた彫刻の様だな、相変わらず君は」

「いや、初対面だが…何故泣いている?」

「すまない。ただ、この再会を仕組んだ世界の優しさに…少し浸っていったのだ」

「いや、初対面だが」


俺は彼または彼女の華奢な手を引いて店へと入った。


「色々聞かせろよな、魔邪冥府ハーデスで俺たちが分たれた後の事とか」

「いや、初対面だと…人の話を聞け!」






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