第15話 †禍々しきヴルドラ†
——教国
——首都デヴリン:朝
ジュリアをベッドに投げ込み、皿洗いやゴミ出し・諸々の後処理を終えた俺は、1時間ほど惰眠を貪りまだ明けきっていない夜と朝の狭間を歩き始めた。空は陽の光を受けて七色の美しい顔立ちを密かに覗かせている。
「フフッ…†
まだ鶏も鳴いていないデヴリンの街は昼間の喧騒が疑わしくなる程に静寂に包まれていた。いや、このシュヴァルツ・フェイトグランデ=ステッレの気配を感じ皆息を潜めているのやもしれない。
「…この辺りは黒い建物が矢鱈に多いな。それに…」
暫く歩いて迷い込んだ区画は、思い思いの色で飾られた噴水広場の街並みや市場通りとは対象的な黒い無機質さと、牛のツノを生やした火を吹くトカゲの紋章が四方八方に掲げられている。
「ドラゴン…か? 禍々しいな」
俺の声に反応する様に、近くの扉が1つキリキリと緊張させる音で鳴きながら開かれた。すかさず、ふくよかな男が飛び出してきて俺を一目散に抱え込んだ。敵意は無いようだったので男にされるがままに、俺は男が出て来た家の中へと入れられた。
「はぁ…坊主、どっかの貴族の子供か? どうしてなんで、よりによってヴルドラで純白のコートなんか纏ってんだ…死ぬぞ! はぁ…はぁ…」
「ヴルドラ?」
男は聞き耳を立てて外の様子を伺っている様だった。過度に緊張しているのか、額からは滝のように汗が滲み滴っていく。
俺の問いかけに、男は独り言の様に答えた。
「見ただろ? 牛のツノを生やした黒いドラゴンを。あれがヴルドラで、この辺りの区画もヴルドラって呼ばれてんだ。畏怖と軽蔑を込めてな…」
「†畏怖と軽蔑† …?」
「…いいか、落ち着いて聞けよ? ここヴルドラは黒教の異端派の中の異端者達…厄介者だな。そういう過激な思想や集団行動の出来ない荒くれがそこら中にいやがる。そんなところで
「たかがコートの色だろう?」
「そうだ、たかがコートの色くらいでアイツらは人だって殺すんだ」
「そうか…」
余りに常識から逸脱した話故にまだ話半分程度にしか考えていないが、男の様子からして彼の中では動き様のない真実らしかった。
「そのコートは脱いで…え?」
「黒ければ問題なかろう?」
俺はコートの色を†
「ぼ、坊主…お前さんは一体?」
「俺はシュヴァルツ…!」
「くそッ!? 何でまた…お、おい!」
俺の様に白いワンピースの4歳程の少女が、黒いローブを纏った男達に囲まれているのが見えた。男に制止される前に、俺はすでに少女の前へと飛び出してしまっていた。
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