八猫目 異変
「最後の工程に入るからね。どう?昔を思い出してみて」
「……ええ。辛いことしかなかった、そう思っておりましたけれど、わたくしはちゃんと糧にできていたようですわ。このようなボロボロの姿も、今では愛おしいくらい」
擦り切れた汚い布を触りながら、ティアナはネコサマに微笑んだ。
「とうとうここまで来ましたわ。復讐…ではありませんけれど、あれからネコサマと一緒に他の世界を夢で見てきました。どの世界もわたくしのいる世界よりも遅れているはずなのに……とても輝いて見えた」
彼女は強い決意を宿した目でネコサマへ告げる。これより彼女は大罪を犯す。だがそれが成った時、この世界は確実に変わるだろう。
「改めて宣誓しますわ。わたくしは必ず、この世界を変えてみせます。かつての、古き良き人の道を取り戻しますわ」
「……それが、この世界の主神を裏切ることであっても?」
かつては絶対神として崇めていたシモザ。しかしあらゆる世界の様子をネコサマと見続けてきたティアナに、シモザへの信仰心はほとんど失われていた。
そう、あの時手を差し伸べてくれたのはネコサマだけ。だからこそ、ネコサマの後押しに全力で乗っかるのだ。
「今更ですわ。シモザ神といえど、わたくしの夢を邪魔するのであれば排除する。この世界を退化させ、あるべき人の姿を取り戻してやりますわ!」
その強い覚悟に、ネコサマは敬意を表す。彼女が何時しか決意した時から、ネコサマは道を示し準備を整えてきた。
自身に今まで培ってきた全てを用いた複数の改良型ナノマシンを注入し、ネコサマによって他世界からもたらされた
ゼノメタルを奪ったのもその一環、そして最後の一手であった。
シモザヴァースの最先端技術によって作られたゼノメタルを体に取り込み、その威力をもってしてシモザへ挑戦する。討ち果たしたその時にはネコサマに新たな神として収まってもらい、シモザからネコサマに移った権能によって世界の時間を遡り、技術の発達を未然に防ぐ企みだ。
「それではネコサマ、わたくしはそろそろ夢から覚めますわ。最後の大仕事、どうか最後まで見守って━━━」
その瞬間、世界が揺れた。
夢の世界が徐々に震え出し、崩壊していく。自分の意思ではない。外からの刺激で夢は覚めようとしている。
この状態を見て、ネコサマは静かにため息をついた。とうとう、彼女が来てしまった。
上位者狩りフェイタル。
ネコサマとしては彼女が来る前に、ティアナにシモザを倒してもらいたかった。フェイタルが暴れれば確実にこのシモザヴァースは消滅する。だからこそ、その前に主神を倒し望みを叶えてあげたかったのだが……こうなってしまっては仕方がない。
「ごめんティアナ。計画は全て変更だ。彼女が来た時点でこの世界はもうもたない」
「えっ……えっ?いったい何が起こっていますの?彼女というのは…」
「うん。僕の治めるネコサマヴァース、その第四宇宙の代表が、僕の世界に艦隊を送り込んだこの世界を発見しちゃったんだよ。あの子、やる時は徹底してやるからさ……残念だけど」
「ふっ、ふざけないでください!わたくしはこの日のためにずっと耐え忍んで来ましたのよ!今更そんなこと言われても…!わたくしの、わたくしの唯一の意味だったのに…!」
膝から崩れ落ちてしまう。全てが変わったあの日から、彼女はずっと夢を叶えるため奔走してきた。今回の出来事は、それら全てを無駄にするもの。結局、何も為せていないままだ。
「……大丈夫。無駄じゃないよ。キミが積み重ねたものは刻まれている。キミが死んでも、それは変わらない。一度でも積み重なり、作られたものはどうあっても消せないものだからね。さあティアナ、おいで。僕と一緒にネコサマヴァースへ行こう。大丈夫、キミの役目はまだまだ残ってるから」
全てを失ったティアナに断る術は無い。いつの間にやら現実に置いてきたはずのゼノメタルが入った箱が傍にあり、それを抱え、ネコサマに手を引かれて行った。
そう、ネコサマにとって彼女はまだまだやってもらわねばならない事がある。予定が狂おうとも手放すつもりなど毛頭なかった。
「こちら第7宇宙管制塔!攻撃を受けている!もう残った星もここだけだ!既に第8以降の宇宙群から反応が途絶えている!繰り返す!攻撃を受けている!敵は人型生命体が一つ!第6〜第1宇宙は急ぎ迎撃体制を━━━━」
コード:サモン・
炎上する管制塔は必死に他宇宙へと敵襲の通信を出す。しかし言葉も終わらないまま、彼らは突如眼前に現れた寿命直後の恒星によって消滅した。最後の星を失い、とうとう第7宇宙も滅亡。残りは6つ。
「……これで73個め。多いし歯ごたえも無い。つまらない……」
それを引き起こした本人も爆発を受けたはずだが、布一枚すら傷付いた様子は無い。それもそのはず、ネコサマヴァースの原子一つが凄まじい強度と密度を持つのだ。
その上彼女の服は彼女自身が手間暇かけた特注品。例え幾つもの世界を統合したシモザヴァースの恒星であろうと埃一つ付きはしない。
表情すら動かさず、淡々と災害は移動する。主神の場に行き着くのも時間の問題であった。
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