☆¥猫愛 FaTAl erRoR vIRUs
シモザが違和感を感じたのは、フェイタルが死んだと確信した時だった。
まず、フェイタルを縛る鎖の操作が不可能になった。次いで、その胸を貫いていた光の槍が赤いグリッチに侵食されていき……消滅する。
そして生体反応が消え、一切エネルギーが働いていなかったはずの死体が動き出した。
気だるげでほとんど表情を動かさなかったフェイタルの口がニヤリと大きく歪み、目も合わせてその中が真っ黒に染まった。
瞳も歯も無くなった不気味な笑顔。フェイタルの体にグリッチが湧き、胸の大穴や体中の傷が消えた。
治癒ではない。削除である。
「━━━━━━━!」
ただならぬ何かを感じたシモザは光を幾つも周囲に収束させる。そしていざ、フェイタルへと放とうとし━━━━。
━━━振れ動き消滅した。
「……驚いた?全能神シモザ」
すぐさまシモザは次の手に移る。己の権能を用いフェイタルへ……正確には世界へ命令を下す。
『消滅せよ』
一度生命反応が消えた、フェイタルが死んだ時に勝利を確信していたシモザはシモザヴァースの統括権を取り戻していた。
シモザはその統括権を用いて、世界内にいるフェイタルへの強制を行ったのだ。
創造主による命令は受け付けられず、逆にその因果経路を辿り再び統括権がシモザから切断、フェイタルに奪われた。
攻撃自体を発動前にキャンセルされるなどシモザには初めての経験。さらには世界を通した強制すらも意味が無い。神としての格が尋常ではないが故に、その行動全ての絶対性は本来完璧なものであった。
しかしそれが今、崩された。
シークレットコード
彼女はあらゆるコードを使い概念や世界へ干渉するが、その中にシークレットコードというものがある。
その名の通りあらゆるコード類の中でも効果が特別なため秘されるもの。その効力は世界編纂を行う上位者に作用するキリングコード。即ち、神を殺す対理不尽の理不尽な力である。
「ねぇ、生きたい?まだ存在していたい?まだ自分を高めて、より先へと進んでいきたいと思ってる?」
「残念。もう遅い」
「ようこそ、地獄へ」
フェイタルがそのコードを入力すると、シモザの翼が一対消し飛んだ。初めての体の損傷にシモザが怯むと、今度は残る全ての翼が切り刻まれる。
苦し紛れにシモザは再び厄災を引き起こし世界を加速させる。フェイタルの体を破壊した戦法だ、いかに強力な力を扱うとて当たれば致命傷は免れまい。
今回流れたのは46億年。その間、フェイタルはコードを使うこともせず攻撃を受け続けた。
年数で言えば先程の約1300倍。瀕死寸前だったあの様子ではとても耐え切れるものではないだろう。
だが現れたのは無傷のフェイタル。心底可笑しそうに、漆黒の口は笑みを深めた。
「どうしたの。まさか、さっきのあなたの攻撃で私が傷付いたとでも思った…?」
フェイタルは大の神嫌いである。それこそ、必要以上の愚弄と挫折と苦痛と恐怖とを味合わせることに快感を覚えるほどに。
最初の地獄を喰らった時、フェイタルはボロボロの姿であった。しかしこれは実際にダメージを受けたわけではなかった。
彼女は自身を瀕死の状態へと書き換えていたのだ。
全てはシモザが有利と思わせ、神としての満足感を高めさせるために。
ある時、顔を合わせたアルヘイムがフェイタルに問いかけたことがある。なぜ、そうも非情な戦法をとるのかと。
神が己の全能と絶対を確かめ、その気分が最高潮に上がった瞬間に絶望へと叩き落とす。
その『落差』が何よりも好きで好きでたまらないからと、彼女は答えた。
「哀れ。哀れ。あぁ……哀れなシモザ神。さっきまでの威勢はどうしたの。私はまだ1%も力を使ってないのに」
気が昂り饒舌となったフェイタルはただただ嘲り笑う。
もはや眼球と光輪しか残っていないシモザであるが、しかし闘志は消えていなかった。
彼を動かすのは神としての矜恃。
かの神々に近付き、己の世界すら自身を引き立てるための一要素としたことで
しかしそれも、彼女にとっては好都合。
獲物が自分から殺されに来るのだから。
インフィニティーコード 展開。
コードの
「━━━━━━━━━━!!」
シモザは理解していた。フェイタルに概念や権能、世界観や存在の格といった搦手は通用しない。ただ自身のエネルギーを用いた直接攻撃をする他ないのだと。
シモザが空間そのものを尖らせフェイタルへと殺到させる。フェイタルは通常のコードの効力を最大限まで高めたU―コードを用いて鋭利な空間を固定。コマンド:オーバーレイを入力しシモザの厄災の嵐を展開。鋭利な空間を全て破壊してみせた。
怯まずシモザは自身に業火を纏い、太陽のごとく突進してくる。その威力は神の領域ごと削り取ってくるほどのものであった。
「あぁ……なんて悲しい。ほら、次。凌いでみせて」
しかし彼女には通じない。コマンド:オーバーレイによって過去の時空間を重ね、超抜級宇宙軍事要塞『ラー』のワールド・デストロイヤーを放った。
さらにシークレットコードとU―コード:インフィニティーを用いて特攻と無限を付与。太陽となったシモザは永遠に続くビッグバンに飲まれる形になった。
辛くも瞬間移動によってビッグバンの領域から脱出したシモザだったが、彼女は一切の手心を加えない。
コマンド:オーバーレイを発動しシモザの周囲にシークレットコードの特攻を付与した時空間を展開し、シモザが放った鋭利な空間を差し向けた。
自身の攻撃によって眼球を貫かれるシモザ。力の具現たる光輪が割られ、ついに眼球のみとなったシモザは、ふらつきながらも眼光を極光へと変え放つ。
その最後の抵抗も、フェイタルには届かない。U―コード:カットによって光線を切り抜かれ、削除された。
「因果応報という言葉がある。悪い人には悪いことが、良い人には良いことが起きる。あなたは自らを全能で崇高なものとして、それを磨くために人々を導かず、さらには人を進化させた結果堕落の結末を迎えさせた。今がその償いの時。あなたはもう逃げられない!!」
いよいよ抵抗する術を失ったシモザは、もはやされるがままのサンドバッグとなった。
斬られ打たれ折られ抉られ刺され撃たれ捻られ潰され裂かれ千切られ焼かれ溶かされ凍らされ砕かれ貫かれ尽くまで破壊された。
シモザの使用していた世界の時間加速まで用いられ、地獄は無限に続いていく。フェイタルは丁寧にもコードにより無限の生命をシモザに付与。心の一片まで破壊されても、フェイタルの攻撃は止まらなかった。
「……飽きた」
気の遠くなるような時間が経った。フェイタルは自身の状態を戻し、シモザを痛めつけた永い時間を消滅させた。地獄を受ける前の、しかし完全に破壊されたシモザに、ようやく最後の一手を与える。
コード:デリート――ファイル『シモザ』――トラッシュ
シモザは跡形もなく消滅した。そして脳内のシモザに関する情報の全てを削除し……何も覚えていないポカンとした表情となった。
「……なんでこんなところにいるんだろ。ネコサマの所に行かなきゃ。お昼寝の時間」
あまりにも酷い結末だ。しかし彼女はこの行為に誇りを持っていた。
我々には裁く権利がある。全ては神々を根絶し、人々を解放するために。
フェイタルはネコサマヴァースへと向かう。残された空っぽのシモザヴァースは、やがて縁を辿った『孔』の引力によって崩壊し、塵となって『孔』の中へと吸い込まれていくのであった。
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