九猫目 蹂躙
第1宇宙首都イライザ中心に位置する宇宙連合軍本部。
その統括室にて複数のモニターが軍の様子を映していた。それを見るのはオペレーターたちと、彼らをまとめあげる元帥二人であった。
二大財閥当主、オールディックとアークラウンド。世界を支える二つの大家は、軍事関係の元帥としても君臨していた。
「それにしても、まさか人型生命体がたった一人で我々の世界に攻撃を仕掛けるとは。愚かしいにも程がある」
「まったくだ。何処の下等人種かは知らんが、討ち果たした後はそやつの世界も滅ぼしてやらねばならんな」
言葉だけ見れば傲慢極まるものでしかない。しかし二人の顔は真剣味を帯びていた。例え誇りがあるからといって油断をしていては幾つもの他世界を統合することなどできはしない。
「報告!第2宇宙からの反応途絶!次元望遠鏡による観測を行った結果、第2宇宙の座標には何もありません!」
「全軍に呼びかけろ!戦いの場は宇宙外のみとする!第一種戦闘配備!下等なる他世界人型生命体に、我らが第1宇宙に一歩でも踏み入らせるな!」
次元間ワープ航行により第2宇宙方面へと艦隊や宇宙戦車が出撃していく。指定の位置へ布陣を展開したころ、艦隊の前にあった空間が突如激しくぶれ始めた。
「現れるぞ!全兵装用意!」
プラズマ砲や波動砲、さらには暗黒砲といった超兵器までも、小さな空間一つへと照準が向けられる。それはまさに圧巻の一言であり、これらを上回る機甲兵力を持つ世界は稀であろう。
空間は激しく振動した後に、大量のグリッチを吐き出し始める。それらがおさまれば、そこには赤黒いロングコートを羽織った少女が浮遊していた。
上位者狩りフェイタルである。
「最強の一斉砲火、その身に受けて散るがいい!全軍、攻撃開始!!」
プラズマ砲や電磁波式バルカン砲。波動砲に暗黒砲。さらにはそれらを上回る時空連続体を次元断層によって切り取り発射するタイムストームなどの超兵器まで使用された。
機甲兵やパワードスーツ部隊も出撃し、武装による狙撃や艦隊の盾となるシールド発生装置を持って待機するなど、徹底した布陣も申し分無い。
星どころか宇宙への侵略であっても過剰な戦力。その全てがたった一人の少女へと向けられていた。
「最後の一押しだ!超抜級宇宙軍事要塞『ラー』に砲撃要請!」
しかしそれでも元帥たちは満足しない。そして自分たちが強豪世界だと自覚しているからこそ自己顕示欲も強い。
これは幾つもの宇宙を破壊されたことで傷付いた自尊心を癒し、自分たちの力を誇示するためのものでもあった。
「『ラー』から砲撃準備完了との通達がありました!」
「艦隊全方位にシールドの展開完了しました。何時でも大丈夫です」
「この時ばかりは、実に胸が高鳴りますな」
「まったくだ。『ラー』に砲撃許可を出す。ワールド・デストロイヤーを放て!」
機械の星、超抜級宇宙軍事要塞『ラー』。その名の通り恒星の如き灼熱を放つが、内部にはそれ以上の超エネルギーを保有する。その凄まじいエネルギーは暗黒炉と呼ばれる装置によるものである。
ブラックホール生成の要領で圧縮された超重力崩壊による次元干渉。次元断層と架空虚数空間からのエネルギーを熱エネルギーに変換している。その生成される熱量は最低限の稼働でも銀河一つを、フル稼働させた場合は宇宙の全原子を電離させプラズマ化させるほど。この暗黒炉を、『ラー』は三つも積んでいる。
そしてワールド・デストロイヤーとは、まず次元断層から抽出される微量の
第一射、それだけでも破壊力は他の追随を許さないもの。未だ一斉砲火による超高温によって輝いている地点、その中心へ照準を合わせられたそれはあらゆるエネルギーや微量の原子を吹き飛ばした。そして間髪入れず第二射のビームが着弾。凄まじい火の玉となって真空空間は膨張、爆発した。
「フハハハハハッ!シールド越しでさえこの振動か!画面の映像だけでもとてもよく分かる!」
「我々のところにまで僅かとはいえ衝撃が来るとは!こればかりは何度やってもスリルがある。資源は凄まじく消耗するがな!」
イライザに居てさえ地震のような揺れを感じながら、元帥二人はその感覚に酔いしれる。さて、敵はどうなったかと画面を注視すれば、光がようやく収まってくるところだった。
艦隊もまた歓声が上がっていた。自分たちの誇る最大威力の兵器だ。それで幾つもの宇宙を滅ぼした怪物を倒したともなれば、舞い上がるのは当然のことであろう。
「後処理も大変だ。周囲の状況確認とエネルギーの計測をするぞ!」
「最後の一仕事だ、さっさと終わらせよう」
凄まじいエネルギーが充満した所には、時折奇っ怪な事象や生命が出現する場合もある。探知をかけデータの整理をしていた時であった。
「……ん?あれ、おかしいな」
「どうした。演算ミスったか?」
「いや、エラーが出たんだ。すぐに原因を突き止めるから少し待ってて……」
「あら、エラーね。もうこんな時に出ないで欲しいんだけど〜」
「エラーだな。パパッと直さねぇと」
「…いくらなんでもおかしくないか?」
突如、警報が鳴りだす。そして画面いっぱいに連続で出現するエラー表示。何をどうしてもエラーは消えることがない。しかし画面に大きくFATAL ERRORの文字が出た後、全てのエラーは消え通常の表示に戻った。
「な、なんだったんだ今の。ホラーとか苦手なんだけどな……どうした?」
すぐ側にいた同僚の様子がおかしい。その視線がある方へ目を向けてみれば━━━
画面には、現れた時と全く変わらない様子のフェイタルが映っていた。
「よりにもよって……『ラー』と言った?」
それも何かに相当ブチ切れた様子で。
「………………は?」
瞬きにも満たない一瞬の出来事である。
フェイタルが手を横に振っただけ。それだけで機甲兵やパワードスーツ部隊はもちろんのこと、全長2kmはある宇宙戦車や最大116kmの巨大戦艦などの軍勢全てを両断した。
次にフェイタルは超抜級宇宙軍事要塞『ラー』の前にテレポートする。人々がパニックに陥る中、『ラー』の高次元人工知能は防衛システムを起動させる。
しかし兵装は命令を受け付けず突如自爆。既にハッキングされていた要塞は機能を失いただの鉄球となった。
「あの方の名を……使うな!!」
コマンド:オーバーレイ
時空連続体に大規模な異常が起きた。先ごろの時空間が重なり、『ラー』の前に二つのエネルギーが出現する。シールドを貼る機能さえ失った『ラー』は
「……艦隊並びに超抜級宇宙軍事要塞『ラー』からの反応、途絶えました」
「……なんだこれは。なんなのだこれはぁあああっっ!??」
「ビッグバンを耐えきったというのか!?我々の技術の最高峰を!そんな馬鹿な話があってたまるか!!」
阿鼻叫喚となった統括室。その混乱に乗じて画面にエラーが出始めた。気付いたオペレーターたちがどうにかしようとするもまったく消える様子は無く。
その日、首都イライザにて宇宙連合軍本部が爆発。跡形もなく消滅した。
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