十猫目 サプライズ姉妹

 ネコサマヴァース第二宇宙。惑星リーサルの地下遺跡にて、ティアナはゼノメタルの箱を片手に持ち、ネコサマと一緒に奥へ奥へと進んでいた。何やらティアナに会わせたい者がいるらしく、その者はこの地下遺跡の最奥部で待っているという。


 未だにティアナの表情は晴れず、足取りも遅い。ネコサマも気遣ってはいるのだが、その原因が自分の世界の者であり、自分がフェイタルを止められなかったために気持ちを晴らすことができていなかった。


「………………」


「………………」


 互いに無言の時間が続く。ネコサマはどうにか声をかけなければと頭の中で四苦八苦しているのだが、いい案が思い浮かばない。そうしているうちに、情けない事に先に声をかけてくれたのはティアナの方だった。


「大丈夫ですわ。わたくし、もう計画が白紙になったことは気にしていませんの」


「えっ、それで落ち込んでたんじゃなかったの?僕はてっきりそうだとしか…」


「いいんです。ネコサマが、まだわたくしにやってもらいたいことがあると言ってくださりましたから。ですので、わたくしは今できることを精一杯頑張るつもりです!……そのつもりなのですが」


 ティアナは声を落とし、どこか遠くを見つめる。その目には誰かを想う憂いがあった。


「ですが、わたくしを支えてくれた妹のことを思うと…少し。おそらく、イライザはネコサマの仰った第四宇宙代表の方によって破壊されるのでしょう。きっとマリアは……」


 ティアナにあったのは、自分の生きる意味に苦心していたからではなかった。ただ、愛する妹が死ぬ。それが耐え難いものだったから、彼女は悲しみに染まっていた。


 やがて遺跡の最奥部に到達する。ここに、ネコサマの言う会わせたい者がいるらしいのだが……壁画があるだけの大きい部屋。どこにも人の影は無い。


「あら…?ネコサマ、わたくしに合わせたい人というのはどこに━━━」



「お姉様……?」




 背後から、妹の声が聞こえた。ティアナが振り向けば、そこには見知ったマリアの姿。なぜここに?どうやって来たのか?そういったことを考えるよりも先に、彼女の体は動いていた。


「あぁ…マリア。マリアッ!」


 駆け寄り、妹を抱きしめた。腕の中にある温もりは、確かにマリアが生きていることをティアナへと伝えてくれる。


 しばらくそのまま抱き合っていた二人は、ようやく落ち着いたのか手を解き離れた。


「マリア、なぜあなたがここに。わたくしはもう死んでしまったものだと…」


「あらお姉様、気づいていなかったのですね。私にとって、夜な夜なお姉様が中庭に抜け出して猫と会っていることなどお見通しです。家から出た後の動向も調べておりました。そんな時に、ネコサマの方から接触してくれたのですわ」



『キミのお姉さんは、ようやく自分の夢を持って歩き出せたんだ。だからどうか、陰ながら彼女のことを支えてあげて欲しい』



「そっ、そんなネコサマ!マリアと内通していらしたのね!?」


「お姉様は冷静沈着な貴族のように見えて、一人だと危ないですし。私の制止を振り切り自分を追い込んだ時も呆れましたが、オールディック家の名を出してゼノメタルを盗み出そうとした時には、はしたなくも空いた口が塞がりませんでした。私がこっそり警備兵に口利きしなければ、あの場で捕まっていましたよ」


「うっ……ぐぅの音も出ませんわ…」


 ガックリと肩を落としたティアナに微笑むマリア。暗い遺跡の中だというのに、その場にだけ光があるように見える暖かい空間が広がっていた。


「その後は、私は宇宙連合軍本部にてお父様と作戦の様子を見ていましたが……本部が爆発する前にネコサマの友人だと言う蝙蝠さんに助けてもらったのです。流石に時間が無く、私一人しか送れないようでしたが」


「……ネコサマ。わたくし、与えられてばかりですわ」


 ティアナが振り返り、ネコサマにお礼の言葉を贈る。ネコサマは何やら壁画のあちこちを柔らかい肉球で叩いていたが、ティアナの言葉に反応して尻尾をフリフリと動かす。


「ん〜?いいのいいの気にしないで。人は神様に……いや、このネコサマに甘えていればいいの。遠慮せずどんどん頼ってね〜」


 ネコサマはそう言うと、壁画の真ん中をポンッと叩く。その時、遺跡が揺れだした。そして徐々に壁画が左右に開き、壁画の後ろにあったものを露わにする。


 それを見て、ティアナとマリアは大きく目を見開いた。それもそのはず、そこには巨大な黒い球体が鎮座していたのだから。


「さて、これがキミに……いや、キミたちに会わせたかったものだよ」


 いつの間にか手に持っていたゼノメタルの箱を開き、中の液体金属となったゼノメタルをそれにかけた。


 球体はかけられたゼノメタルをみるみる吸収していく。そして数回の電子音と共に穴が複数開いた。そこから三対六本の棒が飛び出し、金属にはあるまじき自己増殖によって屈強な脚へと変形する。球体とそこから生えた六本の脚、その姿はまるで蜘蛛のよう。


「超重質量幻象金属体フェクトクリスタル製完全自立型決戦兵器。名をバルトアンデルス。第二宇宙の代表だ」


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