二猫目 撃滅の航行船団

 第三宇宙ウミネコ銀河。その西方にて惑星が一つ、滅びようとしていた。


 次元間航行船団、その本隊の侵略である。


「報告!被害は無人装甲兵3機を損失。活火山による噴火に巻き込まれた模様!」


「噴火に巻き込まれただと?……知的生命体どころか自然植物のみの惑星で損失を出すとは。だが資源はあらかた取り尽くした。この惑星に用は無い」


 侵攻制圧隊隊長オーデンは通信機を付け分隊へと連絡を飛ばす。その背後より、一人の老齢の男性が声をかけた。


「オーデン殿。化学班による資源の検査がたった今、終了致しましたぞ」


「むっ、案外早かったな。して、結果は?」


 化学班の男はタブレットを操作し戦闘指揮所のモニターへデータを転送する。そこに映った調査結果を見たオーデンは目を見開き、どこか焦った様子で化学班の男へ問い詰めた。


「信じられん……これは本当なのか」


「ええ。こちらただの小石ではありますが、驚くべきことに強度が我々の知る石とは文字通り格が違います。数値に直しますと、実に約7億6000万倍」


 提示された数値に指揮所内の全員が目を丸くする。ただ一人、オーデンはすぐさま先程の報告と結び付けた。


「……合点がいった。我々の無人装甲兵はヒヒイロカネとミスリルを素体とした超特殊合金を使用している。たかが火山の噴火如きでは傷一つ付くはずがない」


「観測されたデータによれば、その噴火によるエネルギーもまた桁違い。次元間航行戦艦一つを30年ほどフルスロットルで稼働できますな」


「……つまりはそれだけの価値がこの楽園世界にはあるということだ」


 通信先を先行している斥候部隊へと切り替える。驚きの調査結果と、未だ知的生命体と遭遇していないことに一抹の懸念を持っていたオーデンは軽く頭を振り、雑念を一度振り払った。


「旗艦アードシュトル号より、斥候第二、第三部隊へ。作戦通り第7次元間転送門を開け。次の第一級高等惑星へ向かう」




 しばしの間、沈黙が訪れた。眉をひそめたオーデンは再び通信ボタンを押し、斥候部隊へと司令を伝える。


「繰り返す。旗艦アードシュトル号より、斥候第二、第三部隊へ。座標を送り第7次元式転送装置を起動しろ」




 返事は、無い。


「……ソナーの範囲を外宇宙まで広げろ!斥候部隊の信号を拾うのだ、急げ!」


 慌ただしくなる指揮所。数刻前に送られてきた最終座標からさらに範囲を広げ探知が行われた。


 しかし、斥候部隊の信号はどこにも無い。それどころか、他星侵攻に向かったはずの分隊の内、本隊から離れた惑星攻略中の第四〜第十一分隊すら影も形も無かった。


 そして今、第三分隊の信号が途絶える。


「第一、第二分隊に此方の座標を送り撤退させろ!何が起きているのかは不明だが、我々は今、未曾有の危機に瀕している!」


 すぐさま座標が送られ、本隊の前方に二つの転送門が開かれた。船団が転送門を潜り姿を現したのだが……ここでオーデンは気が付いた。


 


 瞬時の出来事である。


 第二分隊の最後尾にあった補給船が二つに割れた。次いで駆逐船、戦艦と連鎖的に割れ爆発していく。


「こちら第1分隊!第2分隊のある宙域に飛行物体を発見!兵器使用の許可を請う!」


「飛行物体…?まさか知的生命体による攻撃か!こちら旗艦アードシュトル号。第1分隊に告ぐ。兵器の使用を許可する。確認された飛行物体を━━━」


 異変に気付いた第一分隊からの通信。オーデンはすぐさま応答に入ったが、言い終わらないうちに第1分隊の戦艦と付随していた巡回船数隻が爆散した。


「ぐっ……全艦に次ぐ!未確認の飛行物体による攻撃だ!全兵器の使用を許可する。これ以上の被害が出る前に撃墜せよ!」


 本隊の船団から装甲兵や戦闘機など数々の兵器が出撃する。ターゲットを発見したのだろう、壊滅した第1分隊の宙域でプラズマキャノンや中性子砲の光が瞬いている。


「敵は容易く船団を破壊する!主砲の照準を合わせておけ。サブウェポンには波動砲と電磁波式バルカン砲を備えよ!その他の兵装については各々の判断に任せる!」


「装甲兵の70%が反応消失ロスト!戦闘機も次々と撃墜されています!」


「ロックオンが完了次第、サブウェポンを撃て!主砲をチャージしろ!情報が不足しすぎている、こちらが不利だ。これが今できる最善で安全な手だ!」


 電磁波砲のガトリング、時空連続体の断層から得る次元エネルギーを用いた波動砲が光を放つ。宙域を幾つもの光が照らす中、対照的に主砲の周囲はどんどん暗くなっていく。


「重力域、いま壁を越えました!暗黒波充填完了です!」

「ロックオン開始……照準固定。次元断層によるシールドの準備も完了クリア!いつでもいけます!」


「よし。暗黒砲、発射!!」


 船団の主砲が一斉に火を吹く。それは一つの砲弾であったが、目標地点に到達すると弾け、内部に隠していた暴力を発揮する。


 重力波をさらに強力にした暗黒波。それを用いた超大質量ブラックホールの形成。中間質量ブラックホールさえも経由しない荒業であったが、幾つも発生した超大質量ブラックホールはやがて合体し宙域の全てを飲み込んでいく。


「飛行物体、反応消失ロスト!レーダーには映りません!」


 オーデンは深く息を吐き、同時に補給船にある解析班へと通信を繋げた。


「こちら旗艦アードシュトル号。解析班、先程の未確認飛行物体のデータがとれたはずだ。至急解析を頼みたい」


「こちら補給船六号解析班。既に解析は終わりましたが……」


 言い淀む応答に怪訝そうな表情を浮かべるオーデン。しばしの沈黙の後、断りの返事とともに解析班からのデータが転送されてきた。


 それは一枚の画像。ロックオン時に撮影し、拡大処理がされたのだろう。敵の姿はハッキリと見えるものだった。今後の作戦時における対処法に一役買うだろう。



「な…に……?」



 それが理解できるものであれば。


 そこに映っていたのはいかにも中世のような頑強な鎧を着た老齢の男だ。兜の代わりに顔上部を覆う鉄仮面を付けており、その下からは豊かな髭が生えている。筋肉質な身体の膨らみは凄まじい鍛錬を積んだと言われても納得できる。


 そんな騎士然とした男が、グレイブのような斧槍を片手に戦う様子が映っていた。戦場であれば有り得そうな話ではある。


 だが問題は彼が相手したのは次元間航行船団。そして戦場がであるということ。


 脳が理解を拒み痛みを訴える。オーデンが思わず目頭を押さえ頭を降っていると……唐突な警報アラームが鳴り響いた。


「っ!?どうした、何の警報だ!」


「これは……嘘!?次元震です!それも超高々度の領域から!」

「推定次元域は……22万次元?ありえない。こんな数値見た事が…!?」




 難を逃れた次元航行船団。しかし不幸にも、彼らはそれの通過点に位置していた。


 次の瞬間、船団の横を鼻ちょうちんを浮かべる何かが計器すら捉えきれぬ速さで通り過ぎた。引き裂かれた場所は元に戻ろうと収束し、船団を狭間に飲み込み押し潰す形となって事は終わりを告げた。


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