第二章 其は邪なる神
十七猫目 滅びの序章
「はは。はははは……ははははは!」
何も無い真っ暗な空間の中で、狂ったように男は笑っていた。
「これが神か!これが全能か!これが天にまします絶対の権化か!ははは……ははははははは!」
男が立っている場所。それは巨人の腹の上だった。死んでいる。しかし目立った外傷は無い。だがその顔は、これ以上無いほどの恐怖と絶望に染まったままであった。
「脆い、脆すぎる!所詮は
哄笑は止まらない。嘲笑は止まらない。男はフードのついた黒いローブを羽織っているため、表情はわからない。しかし心底面白いのか、腹を抱えたまま動こうとはしなかった。
そんな時、暗い空間に一つの光が差し込んだ。何事かと男が振り向けば、見えたのは眼前に迫るメイスだった。
「ゴハッ!?誰だこのヤロ……ッ!?」
対応する間も無く殴り飛ばされる男。衝撃を殺し自分を攻撃した命知らずの顔を拝もうとするが、下手人は既に次の手に移っていた。
全方位が眩しく輝く。男がいた空間は現れた幾つもの光弾の爆発に飲まれた。
「遅くなってすまんな。だが死んだだけならまだ希望はあるか」
現れたのは赤い髪を伸ばし最低限の布を纏った筋肉隆々の男神。五大神の一角。
トミカヅルは巨人の姿をした神の死体に声をかけた。全能たる神は消滅しない限り何度でも蘇る。そして自分の世界が僅かにでも残っていさえすれば消滅することは無い。
「希望…?ははは……そんなもの、俺を前にしてあると思ってんのか」
だが、男の前ではそんなものは通用しない。世界も、神も一息のうちに破壊する彼。その脅威を重々わかっているからこそ、会議を早々に切り上げてトミカヅルはこの世界にやって来たのだ。
「おやおや。誰かと思ったら、戦闘神トミカヅルじゃないか。五大神サマが、わざわざ下級神の世界になんの用だよ」
「この世界に用はない。用があるのは、お前だ」
「へぇ……仮にも神ともあろう者が、世界よりも俺を優先するってか。なるほどなるほど……」
「聞きしに勝る愚かさだな!!」
次の瞬間、男の鋭い爪がトミカヅルのメイスとぶつかった。甲高い音と凄まじい衝撃波が発生し、神の死体が吹き飛ばされていく。それを気にとめず、二人は爪とメイスの打ち合いを始めた。
「知ってるぜトミカヅル。お前は俺を恐れてる。かつて死闘を繰り広げた仲だもんな?俺は今でも鮮明に覚えてるぜ!」
男の蹴りがトミカヅルの頭に炸裂した。しかし攻撃は終わらない。トミカヅルが吹き飛ばされる先の暗闇から漆黒の触手が這い出た。それはトミカヅルの四肢に突き刺さり、暗い光を発し爆発する。
舞い上がる光の中へと突っ込んだ男はトミカヅルの首を掴み、触手を纏まらせてできた漆黒の大地へと叩き付けた。
「神なら雲の上から雨か雪でも降らしてりゃいいものを。さっさと消えちまえ!この出しゃばりが!」
首を掴んでいる方とは反対の手にエネルギーを溜め、トミカヅルの眼前で発射する。
エネルギー波は大地を破壊しトイカヅルを押しやっていくが、トミカヅルはメイスを強引に自分とエネルギー波の間に入れ力任せに打ち払った。しかし高い代償か、トミカヅルの全身は傷だらけになっている。
「貴様……前に戦った時よりも強く…!」
「だいたい3万年前か。俺がお前に敗れて封印されたのは。今日までお前はたっくさん戦いをくぐり抜けて強くなったんだろうな。目に見えて存在の格が上がってる。でもな……」
男はボロボロとなったローブに手をかけ、一息に脱ぎ捨てた。黒い髪から生えた獣耳。うねる尻尾に鋭い瞳。男はその姿を晒すと、トミカヅルは目に見えて動揺した。
「その姿……!?前は耳も尻尾も無かったはず。そうだ、思い出した!貴様はもっと幼かったはずだ!」
「見ての通りだ。俺も変わった。強くなっているんだよ!アイツが動いてくれてるおかげで準備は滞りなく進んでいる。もうすぐだ。もうすぐ、俺の計画はついに始動するってわけだ!」
男は高らかに叫ぶと、暗黒の触手をトミカヅルへと差し向ける。メイスで打ち砕いていくが触手は再生しその数はまったく減ることがない。
「お前たちがどれだけ強くなろうが、その格を上げ複雑化させようが意味はない!誰も俺から逃れることはできない。例え
触手が合わさり巨大な獣の顔となる。それはトミカヅルを喰らわんと凄まじい速さで迫った。
「なめるな、悪神」
トミカヅルはメイスに輝ける神の力を流し込み、その先端に四角く形作らせることでハンマーに変えた。そして迫り来る獣へと、大きく振りかぶる。
''
たったの一振り。それで獣の頭は打ち抜かれ大きな穴を空けた。
「貴様とて神。自己矛盾が過ぎる。戯言に意識を割く気など毛頭ない!」
筋肉が隆起する。神の力がオーラとなり迸り、ハンマーは雷を纏った。
「邪神テトラーよ。貴様こそ失せろ!神々の世界、その調和を乱す不届き者は、俺が今ここで滅ぼしてくれる!」
「おいおい、寝言は寝て言うものだぜ。口もにやけちまって隠す気すらねえだろ!?ただの
再び二人は激突する。真の力を解放した戦闘神と蘇った邪神。もはや自分たちのいた世界などお構いなしに、思う存分暴れるのみであった。
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