十五猫目 整備の熱気

 第二宇宙の遺跡。そこでは機械の駆動音や何やら叩く音など、騒音という言葉すら生ぬるい爆音が響き渡っていた。


 そんな中でティアナとマリアはどうしているのかというと━━━━━


「マリア!ゼノメタルがこの工程で無くなってしまいますわ!もう少し生産スピードを上げてくださらない!?」


「無茶言わないでください!ネコサマのおかげで豊富な資源や機材があると言っても、ゼノメタルは超高度なテクノロジーの結晶!量産するのは骨が折れます!」


 ━━━━何やら荒れているようだった。


 二人は今は無きシモザヴァース出身。そのため彼女らも例に漏れず効率や速度を重視するきっちりとした性格なのだ。


 ネコサマの依頼としてバルトアンデルスの完全再起動を任された時は、未知の技術にそれはそれは心を躍らせた二人。


 しかし、バルトアンデルス本人からの構成材料や用いられているテクノロジーのアドバイスがあるとはいえ、遺跡に適する機材は無く資材も無い。

 その都度都度ネコサマが完璧な量の資材等を把握しているはずがない。しかし全ての作業はネコサマによる供給にかかっているからこそ、どうしても自分たちの想定する計画よりも作業スピードが落ちることがその精神を逆撫でした。


 そんなストレスがあると、どうしても何か他の作業を進めなければ落ち着かなくなってくる。オールディック家での他者にも自分にも厳しく、超効率化社会に背を預けていた家風が染み込んだ二人の知られざる悪い癖が発覚したのである。


「数量さえあれば、今の作業も一気に進行致しますのに……こんなの生殺しですわ!」


「いついかなる時も優雅たれ。貴族としての振る舞いが崩れてますよお姉様」


「世界が消えたのに今更貴族も何もねーと思います!それよりも今の作業の方が大事!優雅なんてクソくらえですわ!」


「お姉様のお口わるわる過ぎません?自由を得てしまったお姉様はとてもはっちゃけてますね……」


 阿鼻叫喚の遺跡。バルトアンデルスもこれには何も言わず静観を決め込んでいる。自分を整備してくれている恩人たちなので、とやかく口を挟む気は無いのだが……止めた方がいいのかもしれないと思いつつ、いざ行動するには勇気がいる選択であった。


 そんな中、空間に穴が開き大量の資材が流れ込んでくる。ネコサマによる供給であろう山となったそれに勢いよく飛び込む二人。

 ネコサマがひょっこりと顔を出した時には、二人は山に埋もれてしまっていた。


「やー!二人とも、進捗はどうだい……あれ〜?バルトアンデルス、あの二人は?」


 姿の見えない二人にネコサマが辺りを見渡す。バルトアンデルスは金属質の触手を生やし資材の山を指し示した。


「……この中?僕としたことが、ワープゲート繋げる座標ミスっちゃったかな……」


 二人が飛び込んだだけなので何も気にする事はないのだが、そんなことにすら訂正する気力も失っているバルトアンデルス。


 しばらくして、資材の山を崩しながらホクホク顔の二人が顔を出した。


「ネコサマ、ありがとうございますわ!」

「いつも助かってますネコサマ」


「いいのいいの。これぐらいしかできなくてごめんね〜。それじゃあ次は今回持ってこなかった資材を持ってくるから。じゃあね〜」


 ネコサマが開いた穴に飛び込んでいく。お別れの言葉も早々に切り上げ、二人は作業へと戻って行った。





 しばらく比較的静かな作業が続いていたのだが、マリアの悲鳴にも似た声が張り上げられたことで雰囲気が怪しくなる。


「お姉様!悪いニュースと悪いニュースと悪いニュースがありますがどちらから聞きます!?」


「どれも聞きたくなんかありません!ただ手を動かしなさい!」


「ゼノメタル精製用の材料が底を尽きました!恐らく、ネコサマの持ってきた資材は機材補完用のものが大半!溶鉱機器の燃料も補給する段階ですし、ついでに機材もオーバーヒート。冷却が必要です!」


「やめて、聞きたくねーですわ」


「つまり『待ち時間』が発生します」


「聞きたくないと、今さっきわたくし言ったはずでしょう!?二回もよ!あ゙あ゙もう…!おファックですわ!!」


 再び阿鼻叫喚が巻き起こる遺跡。バルトアンデルスは考えることをやめ、早く次の供給が来ることを祈るのみだった。

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