第11話 応援到着%

投稿RTAしました。多分これはあんまり早くないです。

"すぐに淫夢に逃げるな"派の私と"原作遵守だからねしょうがないね"派の私がバトルしてる。


切り時が無くていつもより長くなりました。もう少し長かったんですけど1万字超えたのでさすがに次に分けます。

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今までフロストに詳しい攻略法が無かったのは、その圧倒的サンプルの少なさである。

歴史から見ても、ダンジョンの出現から80年の内、3度しか出現していないフロストに有効なスキルが発見されていないのは自明の事。


研究者達が『理論上可能』と案を提示したところで、その仮説が正しいのか立証するサンプルはいない。実際に出現したとして、実際に相対した開拓者にその発想に至らせ、実行させるというのは酷な話だろう。


過去に討伐された事例を挙げたところで──その唯一の討伐者がランク"SS"の開拓者……アルカディア総合学園生徒会、現生徒会長の時点でお察しだ。

の"固有"は、端的に言えば世界の法則──ルールを書き換えるのに等しい能力。

なんの参考にもなりはしない。


つまるところ、ただの思い付き。ただの物部ので放たれた技。

通常なら、それが活路になるなんて事はさして珍しい事ではないだろう。

だが今に限っては。並大抵の開拓者ならばまともな思考などできるはずもないこの状況に限っては、紛れもなく奇跡に等しかった。


「空気……そう、空気ね!」


フロストは絶対零度の冷気を常に纏っている。絶対零度は一般的に摂氏-273.15℃くらいの温度を指すが──逆に言えば、だ。その温度でなければフロストは、ということなんじゃないか?


苦しそうに呻きながら、所々崩壊した鱗と思わしき物体をボロボロと落としているフロスト見て、そんな事を思った。


つまり、空気。

常温の、空気。


通常であれば、冷気が奪われるよりも早く冷やせていた為、対して痛手でもなかったのだろう。しかし、高度に圧縮された風のスキルを喰らうことによって大量の空気に晒され、その均衡が崩壊した。


無敵の装甲を持ったフロストの弱点とは、不遇とされ続けた風のスキルだったという事だ。


「こりゃ棚ぼたですね!」


風を圧縮した球を高速で投げつけながら言う。

弾着して内包された空気が弾け、煙を激しく噴出させ鱗が落ち、凍って固体となった酸素やら窒素やらが辺りに散らばる。


もちろんこの間、苦し紛れの反撃を走り回って避けながら実行している。


『sugeeeeeee』

『形勢逆転が早すぎる』

『何が起きてんだこれ……?』

『知らん……怖……』


「さて、奴は今左眼が見えていません。先程僕が眼球を刺した際に流れた血が凍って瞼が開かない様です。馬鹿ですねー。」


フロストの死角となっている左に周り、そう言う。


「しかし、血が凍っているという事は体内はさほど冷えていないのでしょうか?謎ですね。」


『難しい事考えても頭痛くなるだけ』

『はいもののべ先生!モンスターの体内構造とか考えるだけ無駄だと思います!』

『もう余裕出まくってて草』

『フロストに余裕ぶっこいてる配信ってここですか?』


「そこまで余裕出してるつもりは無いですけど……しょーがないですね、見たけりゃ見してやりますよ。」


まぁ、これもパフォーマンスだろう。死なない程度にやろうっと。


ズザザザと靴底を地面に這わせて唐突に立ち止まる。それから、風の攻撃スキルを矢継ぎ早に打ち込みまくる。


『BO☆U☆DA☆TI☆』

『固定砲台……だと!?』

『ちょうど酔ってたから助かる』

『ん、もののべも定点カメラになるべき。』

『舐めプされてフロストさんご立腹』


《グゥ……ガァ……》


怯みながらも、1歩1歩と着実に近付いてくるフロスト。

怒りを顕にしながら、大きく腕を振り上げる。

それが振り落とされる寸前──驚異的なスピードで横に跳んで回避。


「あっぶな!二度としません!!」


『分からせられてて草』

『効いてんのかあれ……』


「そもそもRTAと宣言した以上僕には走る義務があるんですよ、立ちんぼなんてしません出来ません。──てか、初見プレイでRTAとか馬鹿でしょホント調子乗った!!」


大振りの攻撃をし、反動で動きが止まっているフロストの鱗の剥がれ落ちた首筋へと走り、剣を刺す。


《ガウッグルルルrrrrrr……》


刀身の隙間から血が溢れだし、大量の煙が吹き出る。


「刺さった、けどあんま効いてないかこれ──って冷たい冷たい冷たい冷たい!!!」


急いで引っこ抜こうとし、血が凍り付いて抜けない事を察し、そのまま離れる。


「ハァ──、流石は絶対零度。空気の膜とかそんな物も存在しないんですね……!」


『何故冷たいで済んでいるのか』

『本当に危ないな。普通なら四肢が壊死してもおかしくない』

『空気の膜ってなんすか』

『液体窒素とかちょっと触っても平気やろ?アレを可能にしてるやつや』

『ライデンフロスト効果な』


「そうですそれです。絶対零度には通用しないみたいですねぇ。……いや、アレは液体の相互作用のやつじゃなかったっけ……?──まぁそれよりも武器がお亡くなりになりました。はぁーつっかえ。」


2本とも手元から離れてしまった。予備も持ってきていない。オワタ。


「けど頑張りまーす。だんだん行動パターンも読めてきましたよ!」


体勢を整え直したフロストの足元にあえて近付く。


「恐らくですがこうやって近付くことによって……ほら!」


グッとフロストが脚を踏み込んで腰を捻り、尻尾を払ってくる。

ジャンプして回避。


「尻尾による薙ぎ払い攻撃を仕掛けて来ますね!収束──射出──はっさーん!」


《ギャウウッ!》


また煙を噴出し、何か血液とは違う液体を漏らす。

その液体もすぐに凍り付く為、フロストの身体の表面には幾ばくかのつららがぶら下がっているという状況。


慎重に着地し、駆ける。


『酸素無くなりそう』

『怯んじゃいるけど効いてんのか分からん』

『ダメージある?』


「……うーん、ダメージを与えるというよりは装甲を剥がしてるって感じですかね?鱗の下はダメージ通るっぽいです。酸素……あー確かに酸素持ってかれてますよね。フロストが倒れるより先に酸素欠乏症でこっちがぶっ倒れそう。」


使っている風攻撃スキルは空気を生み出す訳では無い。あくまで、大気を練って打ち出しているだけに過ぎないのだ。

故に、あまり使い過ぎるとフロストの冷気による空気の昇華が加速し、酸素が欠乏する可能性が高い。


「でも、問題の鱗の装甲はだいぶ剥げてきてます。後は撃ち込むだけ──」


武器の無い状態でどう攻撃したものかと思案しる間に、無数の氷塊が自分目掛けて飛来する。


「ひぃー寒い寒い!」


トン、トンと軽快なステップを踏んで避ける。

地面に氷塊が着弾し、冷えた煙が足元に蔓延していく。脚の動きが鈍くなる……そう判断し、上空へ跳んで地上から離脱。


広げた右手に空気を集め、風の刃を形成。

それをまた首筋に撃ち込もうとフロストに向き直ると──


「……あ。」


他のモンスターで、確実に見覚えのある予備動作。こちらを向いた頭、大きく開いた口の中に冷気が集中している。


「──これマズッ!空気凝エアロッ──……ッ!」


早急にその場を離れようと空気の板を作り出すのもつかの間。フロストの口から細い光線よろしく絶対零度のレーザーが放たれる。


辛うじて身を捩り直撃は免れるものの、その冷気が広げていた右手に掠める。

半ば倒れ込むように地面に着地。


「ッ───!」


一瞬、刺すような痛みと冷たさを感じるがすぐにそれは消え、全ての感覚を喪失したのを脳が感知。ジャージの袖は瞬時に凍り付き、袖から露出している手も皮膚が瞬時に白く染まり、徐々に黒に塗り替えられていく。


「あぁ、あぁぁあぁぁ!何してんだぁぁぁ…!!やめ、たらぁ!?この仕事ォ!?」


『やばばば』

『ままま待て、まだあわわわわわわわわわ』

『おお、おちけつ』

『うわグッロ』


「右手…てか右腕全体が動かないし黒ずんでる──ってことは下部組織まで完全に凍ったって事かな!?触れたのは一瞬だったのに!腕に至っては服越し……!ガバった、あぁ完全にガバった!!もーさっきまで余裕綽々でやってたのに──あーすっごい恥ずかしくなってきた!!!いっそ殺せ!!」


空中へ普通に誘導されていた。頭使いやがってこんちくしょう。僕も僕だ、あんなあからさまな光線の予備動作をしていたのに後れを取るなんて。


ぶらぶらと、制御を失い関節まで凍り付いて動かなくなった右腕を揺らしながら、フロストの周りを旋回。追撃を丁寧丁寧丁寧に避けていく。


「いや無傷完全クリア期待してた人ホントに申し訳ナイトハルトです!まぁ完全初見で手探り独自調査のぶっつけ本番RTAには限界があるからね!しょうがないね!!」


まぁRTAなんて所詮自己満なんで、楽しめればいいんですよ──と続ける。


『ええんやで』

『ワイトもそう思います』

『喰らったダメージより保身を優先するRTA走者の鑑』

『ナオの定点カメラの方から来たんだけどどういう状況?』

『もののべが洒落にならんくらい深刻な凍傷を負った』

『えぐ』

『何を四天王?』

『↑は?』

『↑帰れ』

『↑しね』

『げ、ヒ○マニかよ……』


手が無ければ風は練れない。沢山撃ち込まなくては大きな効果は望めない。

よって風系統はまんま言葉通り、二つの意味で"手数"が多くなければいけないのだが……これ、詰んでね?


「これ治んないですかね!?正攻法でいけるん!?教えて自信ニキ!」


『目測だけど多分IV度凍傷』

『擦るな叩くな振るな』

『今できるやつなら急速融解法?』

『凍傷が深過ぎるし手術案件だべ』

『凍傷に自信ニキワラワラでワロタ』

『しかし状況はワロエナイ』

『マジレスするなら40度位の水で温めて乾燥さして軟膏塗る』


「おっけ無理ってことね諦める。」


コメント欄をチラ見し、特に有益な情報は無いことを確認する。


「なーんで回復系統軒並み育てて無かったんですかねぇ?」


『「そもそもヒール使うような怪我した時点でリセットなので。」』

『切り抜きのアレやん』

『伝説のヒール退化発言』


「は?誰ですかそんな舐め腐ったこと言った人。ダンジョンにおいてヒールは1番重要なんですよ?」


『綺麗な手のひら返し』

『(手のひら)くるくる〜』

『(手のひら)くるり〜ん』

『やっぱり人間って悪意に満ちてるな』


しかし、やはり属性付きは厄介だ。迂闊に触れないし、近付くのも憚れる。


一応、片手が使えないという状況を想定して両利きに矯正してはいるため左手の精度は問題ないが……さて、どう攻撃したものか。


と、様々なパターンを考えながらフロストの猛攻をいなしていると──


「……えっ?」


『おや』

『何をやってんだぁぁぁ!!』

『こっちも凍傷か』


ガクン、と脚に力が入らなくなり脱力する。

当然、倍速抜きにしてもトップアスリート並の速さのスピードに堪えられる筈も無く、バランスを崩して進行方向に投げ出される。


フロストの、「してやったり」と言わんばかりの顔。

つまり──またしても嵌められた、と。

『冷えた煙が足元に蔓延していく』、『脚の動きが鈍くなる』。これに気付いていたのに、何故察せなかったのか。

フロストの猛攻で蔓延した冷気に晒され続け、遂に脚も限界が来たのだろう。


そのまま勢いに乗っている分、地面さんに熱烈なキスどころか顔面もみじおろしを甘んじて受け入れようと覚悟を決めた、その時。


「うわ、凄いスピードだな。大丈夫か?」


『ん?』

『ん?』

『流れ変わったな』

『この声は』


突如として少し掠れた、それでいてどこか爽やかさを感じる男性の声と共に、濃い煙のような物体が自分の前に集まり、優しく受け止められる。


「ふぁぷっ」


なんだこれ、ふわふわで、もちもちで……寝ていいですかこれ?

って、違う。あまりの気持ち良さに気が抜ける。

急いで上体を起こす。


するとどうだろう、フロストが叫び声を上げながら右腕を振り上げている。そして押し潰さんと振り下ろすが──


「はは、見た目ボロボロなのに頑張るねぇ?笑える。」


再び、同じ雲のような物体が集まり、攻撃を無力化する。


「あの傷、君がやったのか?……やはりすごいな。」


その声の主を確認しようと、振り返るとそこに立っていたのは──


身長は180は超えているだろう長身で白いコートを着ており、若干パーマがかかった今となっては逆に珍しい黒髪を持ち。黒縁のスクエア眼鏡を掛け、煙草を咥えたイケメンな男だった。


その男は煙草を燻らせながらこう言った。


「応援に来たよ、もののべ君。」





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ネ タ の 渋 滞

やーーっと新キャラ出せました!こっからあと2人出ます。


タグに主人公最強とか付けてるくせに最強じゃなくてごめん。RTA走者は必ずしも絶対的な強者では無いんだ、すまない。


ところで今の文章の長さってどんな感じですかね?やっぱり長いですかね……?息が切れちゃう様でしたら、これからはもう少し分割しようかなと。

コメントからご意見お待ちしてます。

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