幕間 飲み会はルール無用だろ%
お久しぶりです。
今回は世界観と、多少のキャラの掘り下げをした為長いです。
投稿が遅い分、長いのはいい事です。きっと。
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とあるビルのフロアの広々とした部屋。1人のスーツの男性がビールジョッキを片手に、音頭を取る。
「えー、それでは───B-4クロガネ侵攻阻止及び"核"保有を祝して……」
「「「「かんぱーい!!!」」」」
ガッチャン、とジョッキがぶつかる音。それなりの数の社会人に囲まれ、烏龍茶を飲みながらこんにちは。北上物部です。
「やっ、物部ちゃん!楽しんでる?ウチはみんな飲み会好きだから、事務所の中にこんなスペースもあるんだよ〜!」
「いや……はは。こんな飲みの席は初めてなので……あとそれは会社としてどうなんですか。」
そうジョッキを片手に隣に座った、
ちなみに菜緒さんと呼んでいるのは、帰離原さんと呼んだら謎の圧をかけられたため。
「うんうん、わかるよ〜!私も最初はなんじゃこりゃって感じだったからねぇ!」
「まぁ、それもあるんですけどね?」
烏龍茶を飲み、一息ついて続ける。
「今のところただの飲み会なので……本当に来て良かったのかなぁ、と。」
「いやいや、そりゃ連れてくるよぉ!なんたって今回の一番の功労者だからね!」
遡ること数日前。勝手に抜け出した罪で学校も休まされ、奏に石抱の刑に処されていた時の事。
膝に積み上げられた石──は流石に無いので、奏がトレーニングに使っているダンベルプレートやアンクルウェイト──の上に時計代わりで置かれていたスマホが震えた。
なんだと確認してみると菊月さんからの着信。
出てみると、内容は飲み会のお誘いだった。
配信に出た皆での軽い打ち上げは済ましていたので断ろうと思ったが、どうやら飲み会という体の今後の方針を決める会議でもあるらしく……
議題の当事者たる僕も同席した方が都合がいいとの事だったので、また菊月さんに車を出してもらいやって来た訳だ。辺りを見回せば、菜緒さんの他にもシュウさんと煙霧さんがいる。
一先ず、嘘で釣られた訳では無いらしい。──千世さんの姿は見えないが。
ちなみにここに来る事に関して奏に許可は取っていない。
「それは兎も角、菜緒さんのそれってアルコールですよね。」
視線を手に持ったジョッキに向けると、菜緒さんは肯定の意を表す。
「うん、そうだね。」
僅かに赤く染まった頬を見れば、飲んでいるのがアルコール飲料という事はわかる。
さて、ここで問題が1つ。
「菜緒さんってどう甘く見積もってもまだ未───」
「おぉっとそれ以上はお口チャックだぜ物部ちゃん!!」
言い切る前に口を覆われる。
「むむ、むー!」
「私は自分の年齢を言ってないし、物部ちゃんもみんなも私に年齢を聞いていない……。つまり全員が幸せ。OK?」
「OKじゃないですね!?成人が十八歳に変更されても飲酒は二じゅ───」
「お黙りなさい名誉ライブハート!」
「名誉ライブハート!?なんですかその代名詞は、まさか今ネットでその単語が流行ってるとでも言うつもりですか!!??」
なんて事だ、石抱の刑でネットに触れていない弊害がここに来て!菜緒さんとのコラボ配信2日目後の打ち上げが終わってから殆ど外出てないし、今のフォロワーの数も把握出来てない!
……大盛況だったみたいだけど、どれくらい話題に上がったんだろう……。
「この程度で騒がないでよぉ──、あれ見てみな?」
菜緒さんが指を指した方向に目を向けるとその先には。
オーバーサイズのパーカーを着たシュウさんが、床に膝をついた白衣の煙霧さんを瓶片手に煽り、社員さん達が囃し立てているという光景があった。
「なんだいもう限界かな煙霧ちゃんよぉ!わたしはまだまだ飲めるぞぉ!?」
「う……」
「ほらほら顔が青いねぇ!もう限界かな?うん?残念だなぁ、わたしも酔いたいんだけどなぁ!!」
「……誰か手を貸せ、どんな手を使ってもアイツを潰してみせる……」
「肺胞まっくろくろすけがわたしを潰す?うはは、何をするつもりかなぁ〜!?」
「なに、簡単だ……」
ゲシゲシと頭を足蹴にしていたシュウさんの足を払い、ゆらりと幽鬼のように立ち上がり、机に置いてあった瓶を手に取って言う。
「アルコールを粘膜摂取させる。」
「ナニをするつもりかなぁ!?!!?」
「よしお前ら、シュウを押さえて股を開かせろ。俺が責任を持ってこいつをぶち込む。」
既に酒が廻っているのか、特に苦言を呈すことも無く素直に従う社員達。
いくら鬼人であるシュウさんもダンジョンの外では数の力に勝てず、じたばたと暴れるだけ。
「ドコにぶち込むってぇ!!??なんでそんな事を!?」
「んな事も分からんのか……?アルコールは経口摂取より粘膜摂取の方が酔いやすい……!」
「なるほど、上の口がダメなのなら下の口……流石です!」
「いやぁ流石は煙霧教授だ。」
「やはり発想から次元が違う。」
「知ってるよんな事ォ!ちょ、君らも!なんでここの社員は男女関係無く酒に酔うと善悪認識がぶっ壊れるんだよぉ!」
叫び声を上げるシュウさんに、Yシャツの女性社員が声をかける。
「暴れないで下さい、脱がせられないでしょ。まったく、小癪にもパーカーの下にハーフパンツを履いているとは……」
「お前顔覚えたからなぁ!?ちょ、待ってホントに!訴えるぞバカヤロー!!」
「煙霧さんを酔わせた
「ちくしょう言い返せねぇ!」
「………………ね?」
「なにが"ね?"なんですか?こんな実体を伴った炎上リスク中々無いですよ。」
「…………飲みの、席、ダカラ。」
「視線が泳いでますよ。」
なんと恐ろしい企業か。酒癖が悪いどころの騒ぎじゃない。
「……煙霧先輩、少し酔い過ぎです。水を飲んでください。」
と、ここでシュウさんに助け舟。菊月さんが水を入れたコップを煙霧さんに差し出した。
「……あぁ……すまん…、歌留多後輩……」
コップを受け取り、中の液体を思い切り飲む。
次の瞬間、煙霧さんはその場に崩れ落ちた。
「え、煙霧ぅ!?何事!?」
慌てて駆け寄り、手首に指を当てるシュウさん。
「……………………死んでる。」
「煙霧さん……ッ!クソ、おかしい人を亡くした……!」
「今のライブハートがあるのは、間違いなく煙霧さんの尽力のお陰でした……!」
そこで、ウィスキーやビールジョッキ片手に泣き始める社員達にシュウさんは待ったをかける。
「いや、待って。この匂い……」
スンスン、と鼻を鳴らして煙霧さんの身体を嗅ぐ。
「……超高度のアルコール…?」
「あれ?コップごと倒れたせいで水が全部かかった筈なのに、もう乾き始めてる……?」
訝しむ社員をそのまま、しばらく服を嗅ぎ、そのままおもむろにシュウさんは服の濡れた部位を舐めた。
「……この匂い、この味、この度数…!これは間違いない──!」
目を煌めかせたシュウさんは転がっているコップを勢いよく拾い、天高く掲げる。
「
───SAPIRYTUS REKTYFIKOWANY……通称、スピリタス。ポーランドが産んだ狂気のウォッカであり、その度数は脅威の96%。
「そこまで酒に強い訳じゃない煙霧に何てものを……!てかわたしに頂戴よ……一体誰が!」
その先は当然───
「───ハンッ」
「菊月さぁぁぁあん!!?!?!」
『くだらない』とでも言わんばかりに鼻で笑い飛ばす菊月さん。その細目の奥には確かな怒りが感じられた。
僕には分かる、あれは洒落にならないレベルで怒っている妹と同じ目だ。場合によっては人を殺す事も厭わない、そんな凄みのある目だ。
もしくはただの酔っ払いの目だ。
……後者かもしれない。
「負けるな煙霧!死ぬなら私のレポートに優良付けてからにしろぉ!!」
「皆さん下がって下さい。シュウさんも。今からそこのクソカスゴミキショバカ野郎を半殺しにしますので。」
「ぐ、具体的には……?」
「206本ある人骨の内の半分、103本を折ります。」
「半殺しで済むものかぁ!全殺しまで余裕で届くよぉ!」
「……」
「なにも、なにも言わないで……!」
何だこの光景。何故誰も突っ込まないのか。
みんな気にすること無く談笑しているのだが──あぁ、あれか。ツッコミ不在の恐怖ってこれか。
と、煙霧さんの腕を反対方向に曲げ始めた菊月さんをある意味諦観の意を持って眺めていると。
それを必死に止めていたシュウさんがこちらに気付き、パッと華やいだ笑顔を見せながら小走りで近寄ってきた。
ボキン。
「────ッ!!!!」
──シュウさんのガードがあった分、止めるのを辞めたせいで勢いよく煙霧さんの腕がひん曲がったが、はたして大丈夫なのだろうか。ビクンビクン痙攣しているんだけれど。
「もーののーべちゃーん!!」
「うぐっ」
背後で起きた何かが折れた鈍い音に気を払わず、僕に飛び付いてくる。シュウさんと僕は身長がほぼ同じくらいで、受け止めきれずにそのまま押し倒される。
「ありゃりゃ、ごめんねぇもののべちゃん!」
「いえいえ……あ、物部です。北上物部。」
「お!そっかそっか!」
よいしょ、とシュウさんの膂力で引っ張り上げられる。
ところで、何故か菜緒さんも煙霧さんのように痙攣しているのだが、どうしたのだろう?
「……物部ちゃんの本名が……仲間内じゃ私だけが知ってたのに……しかも押し倒して…………ッ!!」
ふむ、何かうわ言のように呟いているがよく分からん。こういう時は放置してれば治ると菊月さんに教えられたが、本当に放置していていいやつかね?
「わたしは
そう言って、にへらと笑う。うーん、何故シュウさんが人気なのかがよく分かる。
僕は配信をやっている癖して配信系統に詳しくないのだけれど、それとは関係無しにやはり地でこういう感じの人は好かれるものだ。
「ものちゃんは"物部"だから"もののべ"。わたしは"啾啾"だから"シュウ"。うっへへ、同じ単純さんだぁ〜!」
「んなッ、私だって"菜緒"だから"ナオ"ですよ!?と、いうかものちゃん!?うぐっ、あだ名で呼ぶだなんて……」
「それじゃあ菜緒ちゃんも単純さんだね!おそろっちだぁ!」
そう言って、どこからともなく取り出した一升瓶をあおる。
「ぷへ、あーあ……さて、そろそろかな……」
「そろそろって、何がですか?」
「ん〜? あ、ものちゃんは知らないか!見てれば分かるよぉ〜」
よいしょ、と言いながら座り込む。
なにか宴会芸でもするのだろうか? それにしては雰囲気が───
「煙霧君、時間だよ」
「…………ん? あぁ……もうそんな時間か……」
なにやら位の高そうな社員さんに声をかけられ、のそりと起き上がる煙霧さん。
「はぁ……あったま痛ぇ……」
「なんか腕が愉快な方向に曲がってるけど」
「え? おや、これは見苦しい所を……」
ゴキン!と音を立てて腕を元の方向に曲げる。凄まじい音だぞ、どうなってるんだあの人の身体。
「ほら、ちゃんと水も飲んで。」
そう言って、煙霧さんに水の入ったコップを手渡す。
「どうも。…………。」
受け取り、1口飲む。その後少し首を傾げ、懐からジッポを取り出して火をかざすと──
ボウッ!
──燃えた。
「───スピリタァァァス!!!!」
壁にコップをぶん投げる煙霧さん。これを世間では天丼と言うのだったか。
「あ、せっかくの水なのに……」
「水がなんで燃えるんだ!?」
「可燃性の水なんじゃない?」
「うし分かったもう黙ってくれ。──じゃあ、始めようか」
そう言いながら、奥のプロジェクターを起動し何か準備を始める。同時に、社員さん達も酒を置いてスーツを正し始めた。
何が始まるんです?
程なくして、スクリーンにスライドが投影される。
「さーてと、どっかの馬鹿のせいで"組合"との業務提携が今後絶望的になった事についての話は一旦置いておいて、まずは俺の研究の中間発表をさせて欲しい。」
手元のリモコンを押すと、スライドが次のページに移行する。
「まずはこのスライドを見てくれ。先の戦いで討伐したB-3クロガネ侵攻核の
よく見てみれば、確かにスライドに写真と共に箇条書きされている文章はフロストについてのものだ。
「さて、俺はコイツが引き起こした現象について研究している訳だが──、念の為研究議題を再確認させてもらう。」
次のスライド。
大きく映し出された文字は、『-273℃を下回る冷気』。
「さて、皆も知っての通り全宇宙の零点、それが絶対零度──即ち、-273.15℃だ。だがこの龍はそれの更に下の冷気を出した。」
それの何が問題なのか、と首を捻るが……それに応えるように煙霧さんが説明をする。
「では何故-273℃が全宇宙の零点と断言出来るのか。それは親愛なるライブハートの諸君ならば分かっていると思うが……。シュウ。」
「え!? え、えーーと……えーーー…………とね……。…………あっ!アレだ、分子が完全に静止した時の温度だから!」
長めの思考の後シュウさんが捻り出した答えに、煙霧さんは微妙な顔で頷く。
「その通り。温度とは、分子の振動。熱運動によるものだ。故に温度に上限は無いが、下限はある。それが-273℃って事だ。」
で、と話を続ける。
「あのドラゴン君は-400℃を繰り出してくれた訳だが。幸いな事にいくつかの臓器や鱗などのサンプルを入手出来た為、その秘密の研究成果の中間発表だ。それではよろしく頼む。」
ぱちぱちぱち、と拍手の後に煙霧さんはスライドを併用しながら発表を始める。
社員さんは真面目な表情で食い入るように見ているが───
「ほぇ……?」
「んん……?」
「むぅ……?」
3人ほど、置いてけぼりな人がいた。
まぁそれは僕と奈緒さんとシュウさんな訳だが。
仕方がない。何言ってるのかさっぱりなんだ。ハイゼンベルグの不確定性原理……?なんのはなし……?
「……あの、奈緒さん?なんでこんな学会みたいな──?」
「えっとね……。ウチって、配信者専門の事務所であると同時にダンジョンの研究機関でもあるみたいで。」
「いくら常識が通じない世界とはいえ、絶対零度を下回る温度なんて信じ難いんだろうねぇ。」
「えぇ……」
確かに、ダンジョンが出現しその異常性が確認されてから、"迷宮物理学"だの"迷宮化学"だの様々な理系学問が発足されたというのは有名な話だが──。
「ダンジョンは完全に未知の世界だからさぁ。現代のアインシュタインーとか、現代のピタゴラスーとか朝永振一郎ーとか……目指す人多いんだよぉ?ま、朝永振一郎さんはダンジョンにも携わってるし、晩年に成果出してるけどねぇ。」
「ほら、ちょっと前にダンジョンに生成される物質を使った成果で"北里柴三郎の再臨"!とか言われてた人いたでしょ?あんな感じだよ」
「そう、ですかぁ……。確かに煙霧さんもいち研究者みたいですし、こんな雰囲気になるのも納得かも……。」
名門大学の名誉教授になるほどの能力と功績を持った人だ、理系の集うらしいこの会社ではみんな真剣になるのも無理は無い。
しかしまぁ、ファンタジーに科学で挑む人達はかっこいいなぁと思う。まる。
と、烏龍茶や串焼きを口に入れながら出来る限り真剣に聞く。
シュウさんは秒で寝た。
「───と、まぁ中間発表としてはここまでだ。何か質問は?」
発表が始まってから数十分程。煙霧さんの話は最初のハイゼンうんたらとかの前提説明が嘘のように驚く程分かりやすく、重要な所は簡潔にしかし丁寧に纏められていた。
凄い、全く眠くならなかった。
要は、フロストは分子よりももう一段階小さな子を作り出せるらしく。それは分子が静止してもまだ中で振動しているらしいのだ。
その子の振動を制御する事で、-273℃の下の冷気を出す事を実現しているのだとか。
───ここまで分かって中間発表とは、煙霧さんは一体何をするつもりなのか。
「──参考として使用された論文───昨年矛盾があると指摘────」
「───確かに矛盾点はある────こちらの論文と合わせて見ると説得力のある部分が────」
その後、軽い質疑応答をし、煙霧さんの研究発表が終わった。
入れ違いに出てきたのは、菊月さん。若干青い顔をしているが、飲み過ぎたのだろうか。
「───…………えー、それでは本題として、今後のライブハートの運営方針についての提案をさせて頂きます……。」
あ、違う。これ飲み過ぎじゃなくて責任と重圧に押し潰されそうになってるだけだ。
どうやら、菊月さんの行動で"組合"と揉めてしまっているらしい。
それに関する対応策の展開、並びに今回入手した"核"の運用により、キチンと制限を掛けた上で事務所全体でスキル使用可能になるということなどの情報共有がされる。
「……これ、本当の本当に僕がいて良かったんですか?社外秘なのでは……?」
「ものちゃんがウチと契約すればお咎め無しだよぉ」
「…なん……だと……?」
「ウソだよぉ!そんな追い込み漁みたいなこと、ウチらはしないってぇ!ま、入ってくれるなら……それに越したことはないけど。」
なんだ嘘か。焦った。嘘吐きはホモの始まりだぞ、ちくしょう。
僕はあくまで趣味、或いは記録として配信をしているだけだから、それを仕事としたくは無いんだよね。
「さて、こちらを見てください。」
そう言って表示されたのは、菜緒さんのアカウントが出した切り抜き動画。僕と菜緒さんがすれ違った際の、ドラゴンを蹴り飛ばした切り抜き動画。コラボで、侵攻に対峙する切り抜き動画が数本立て。そして直近の2回目のコラボの切り抜き動画。
それら全てが、600万の再生回数を超えている。縦型のリール動画に至っては、2000万回を優に超える。
「えー、弊社専属タレントのナオ、そして個人配信者のもののべ氏の絡みの需要が急速に高まっています。また、もののべ氏だけでも切り抜き動画が乱立しており、個人としての需要も比例して向上しています。」
……そうなんだぁ。
なんだろう、他人事みたいな感想しか出てこない。だって、現実味が無さすぎるじゃんか。
ついこないだまで、良くて同接50程度だったのに。"まぁ個人勢にしては"、みたいな感じだったのに。
へぇ。ふーん。
なんか嬉しいね。
と、多少の承認欲求が満たされるのを感じていると、菊月さんが衝撃的な提案を口にした。
「これに対し、我々ライブハートはもののべ氏と専属契約或いは業務提携をする事を提案致します。」
「………………えぇッ!?」
「お、いいねいいね!どう物部ちゃん!?」
「うっへへ、おいでおいでぇ〜」
社員さん達の視線が一気にこちらに向き、縮こまる。
なんだ、なんて言ったあの人!!??!?
専属契約あるいは業務提携!?
「賛成の方は拍手をお願いします。」
菊月さんの合図で、フロア中が拍手喝采に包まれる。
「では可決という事で。もののべさん、詳細は後日追って説明させていただきます。それと、別に強制では無いので断っていただいても結構ですよ。」
「あ……はぁ……。」
それはなんだ。野球部の「自由練習日です!参加しなくても大丈夫です!」と同じじゃないのか。
しかし、専属契約はともかく業務提携とは何をするのか。
開拓関連の消耗品の融通とかだろうか。しかしねぇ……僕がライブハートさん側に出来る事が少ないからねぇ……。
本当に僕と菜緒さんとのコラボが目的だとしても、それが注目されるのは短期的なものだろうし。
「さて────それでは、本題に。今後の"組合"との関係についてです。軽く、先程触れましたがもう少し踏み込んだ話をさせてもらいましょう。」
考えている内に話が変わった。
これが今回の飲み会(?)の本題なのだろうか?関係が悪化したのは冒頭に聞いたが──なぜ、関係が悪化したのか。
その理由が明かされていく。
「……そうだったんだ…」
「………………。」
僕らが潜ってる間にあった事の説明を聞き、少し憤る。全ての開拓者の為にあるんじゃなかったのか。何だこの体たらく。
菜緒さんも暗い顔だ。──いつぞや見た配信で言っていた気がする。開拓者への惜しみないサービスと支援、そしてそれを幸福とする姿勢にとても尊敬していると。憧れていると。
だが、かつて菜緒さんが憧れた"組合"はもはやどこにもないらしい。
「菜緒さん……。」
「えへへ……ちょっと、ショックかも…」
先程までの元気さは鳴りを潜め、ガックシと項垂れてしまっている。
シュウさんも、どことなく暗い顔。しかし酒を飲む手は止まらない。ぐびぐびと日本酒をラッパ飲みするのは如何なものか。
「───以上です。それでは、これで本日の運営会議は終了となりますので、後は退勤して頂いても結構です。」
そう言って菊月さんは発表台から降り、コップに燃えるタイプの水を入れて煙霧さんに近寄った。
フォーエバー、煙霧さん。目を伏せる。
水を吹き出すような音が聞こえた気がした。
「うぅ……くそぅ……。」
「残念、ですね。菜緒さん。」
「うえぇぇ物部ちゃあぁぁあん!!!くそ、飲まなきゃやってられるかぁー!」
「お?いいねぇ、わたしと飲み比べといくか〜い?」
「それは嫌だー」
「ひぃん……いいですよーだ、わたしは1人寂しく飲みますよっと」
と、2人の微笑ましい会話を眺めて。流れるまま置かれてしまった今この状況、数奇な運命に苦笑しながら、また烏龍茶を1口飲んだ。
スマホに入った無数の着信履歴を、必死で見えないフリをしながら。
─────────────────────
歴史人物の改変については許してください……。80年前にダンジョンが出来た設定だと朝永振一郎氏はバキバキにご存命ですので……。
あとシンプルに私のリアルご先祖様なので改変のハードルが低いんです。
──補足──
・劇中での煙霧の「高温に上限は無い」というセリフについて
一応1.416808×10^32K、摂氏で1.416808×10^32-273.15℃──つまり、1溝4168穣℃が上限と定められています。 プランク温度と呼ばれますね。
人類が出した最高温度は約5兆℃です。
理論上温度に上限は無いですが、プランク温度以上の温度を考える必要は今のところ皆無なので一先ずこれが上限って事にしようぜ、ってノリで決められました。
・ハイゼンベルグの不確定性原理
原子とか電子の正確な位置と運動量を同時に把握するのって絶対無理なんすよ。
だから量子の世界って不確定な部分が多いんすよねぇ。というやつです。この原理のせいで完全な絶対零度は実現不可能なんですって。
ちなみに東京大学さんはルビジウムをレーザーと磁石で冷却し、-273℃を再現した事例があります。絶対零度との差は0.0001℃らしいです。すげぇ。
ボース=アインシュタイン凝縮が起きるのは絶対零度から0.0000001℃辺りです。やべぇ。
不確定原理が提唱されたのは1927年。劇中でダンジョンが現れたのは1944年(2024年から80年前と仮定)。
約20年で覆されてるの不憫です。どういう気持ちだったんでしょうかハイゼンベルグさん。バキバキご存命ですが(1901〜1976)。
それと、ボース=アインシュタイン凝縮が提唱されたのは1925年です。こちらも20年程でダンジョンに覆されました。
まぁ法則が通用しないのはダンジョンだけですから、多少はね?
ほら、ファンタジーにリアル突っ込むと破綻するんです。作家の皆さんはやっちゃダメですよ。✝︎悔い改めて✝︎
※作者は文系なので、恐らく間違っている部分があると思います。理数ガチ勢の方からのご指摘、ご意見お待ちしています。玄人質問で最強してください。
──以下PR──
新連載があります。女装メイドとお嬢様がわーぎゃーする話です。
ノーマル恋愛も百合恋愛も同時に楽しめる作品になる予定ですので、よろしければ。
こいついつも女装か男の娘書いてんな?
例によって絶賛失踪中です。
ダンジョン攻略RTA配信者さん、うっかり有名インフルエンサーを助けてしまい拡散されて超人気配信者になる。 綾鷹抹茶ラテ @ayatakamattyarate
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