第15話 家に帰るまでがRTA%

執筆に使用している媒体の機種変を行いました。

……この編集画面、どこか変……

アレ!?執筆データ無ァァい!栗原ァァァァァ!!!データ無ぇぞォォォォ!!!

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自分と菊月さん、そして背負われたナオさんを映し、それとなく別れの挨拶を告げて菊月さんの指示に従うままEDを流し、配信を切る。


「……ふぅ。」


「お疲れ様でした、もののべさん。」


「はは、今は物部でいいですよ。菊月さん。」


「あ、そうですね。では、物部さん。お疲れ様でした。」


そう言って、ぺこりと頭を下げる。

自分もそれに倣い、一礼。


「はい。菊月さんもお疲れ様、です。」


「本当ですよ、もう。」


「ははは……」


たわいない雑談をしながら、来た道を戻る。

身体中が痛い。今日はかなり無茶をしてしまった。


「明日は筋肉痛ですね。」


「全く、その通りです。明日が恐ろしい……ストレッチしておくべきでしたね。」


カツン、カツンと音を立てどんどんと階を登っていく。モンスターは居ない。


「──色々ありましたねぇ。」


「えぇ、そうですね。あり過ぎな様な気もしますが。」


超有名配信者とのコラボ、と言うだけでも大変な事だと言うのに、さらにライブハートの誇る人気配信者達が集結して共に戦うなんて……未だに夢でも見ているかのような気分だ。


最後に配信を閉じる前にチラ見した限り、同接数は15万を越えていた。

普通に理解できない。自分には縁の無さすぎる数。


どうやら配信とは関係ない有名な検証系のチャンネルなども見ていた様だ。

全てが謎のベールに包まれたSSクラスのモンスターVS大手配信者事務所お抱えの実力派配信者パーティ+よく分からん個人。そりゃバズらない方がおかしいというものか。

正直自分いなくても良かったと思う。風っていう弱点は見つけたけど、最終的にただの物理でトドメ刺したし。


それに……"星屑の方舟"。


「菊月さんは、クルアーン……煙霧さんとは高校からの付き合いなんですよね。」


「煙霧先輩ですか?そうですね……結構長いです。腐れ縁ですよね。」


「"星屑の方舟"も一緒だったんですよね。僕、あの集団の事よく知らないんですよ。噂程度にしか……」


それを聞き、苦笑する菊月さん。

僕があの集団について知っている事は──

日本で初となる開拓者が結託して出来た組織で、驚異の依頼達成率を誇ると共に圧倒的な武力を持っていて……組織の大きさや全貌が未だに不明、ということ位だろうか。


「まぁ、そうですよね。ン゙ン゙……10年は前になりますか。私はまだ高校生だったんですが、先輩が"星屑の方舟"に入って。それを追う形で所属した…という感じです。私と先輩のせいでナンバーがかなり変動してましたね。」


「ナンバー?」


こくりと頷いて、説明をつける。


「"星屑の方舟"はファーストからテンスまで番号があって、実力に応じた数字で付けられるんです。先輩はセカンドで、私はフォースでした。」


「へぇ。じゃあ当時から2人とも強かったんですね。」


「どうでしょうね?ただ、私はあの頃の事はあまり思い出したくは……いえ、嫌な思い出な訳では無いのですけれど、私自身に問題があって……。」


妙に歯切れ悪く言う。その様子を見て、僕は何となく察した。

コメントで見た──"狂犬"カルタ。そう呼ばれていた時期とガッツリ被っているのだろう。彼女にとって、その名は黒歴史なのかもしれない。


「そう、"星屑の方舟"と言えば。」


「はい。」


「あそこには、固定のメンバーというのが居ないんです。頻繁に入れ替わることで高い機密性を維持しているという訳ですね。大体、あの組織から脱退するのは大抵死亡した人か心神喪失した人ですから、自動的にそうなるだけですが。──そのお陰で、組織の情報があまり漏れないんです。」


少なくとも、私や先輩の様に自発的に言わない限りは、と付け加える。


「ほぉー、じゃあ今のメンバーは皆んな誰か分からないですね。」


今でこそ鳴りを潜めてはいるが、度々出没しているという情報がある。

今のメンバーってどうなってるんだろう。変わらず強いんだろうなぁ。どうやって集めてるんだろう。


「そこなんですけれど────







"星屑の方舟"って、解散したんですよね。」


秘密ですが、と続ける。








ほぉ。



解散、ねぇ。



ふーん。







───いやいやいやいや、ちょっと待って待って。

え?どういう?超展開なんだけど。今でこそ表立って活動することは少なくなってはいるものの、数多の開拓者達の精神的支柱であり続けている存在で、我々開拓者の理念の象徴の代名詞でもある"星屑の方舟"が既に解散している?


「当時のファースト……つまり、リーダーが暴走してしまって。力に溺れてしまったのか、あるいはなんだったのかは最早知り得ませんが。」


内輪揉めって事…?またなんでそんな…。


「それを巡って当時のセカンド──先輩と揉めに揉めて、それでメンバーにも混乱が広がってしまって……ファーストが無理やり呼び込んだ新規メンバーもトラブルを起こし続けてて、その結果解散という運びになったんです。」


つまり、リーダーが変にワンマンでやろうとしてめちゃくちゃになってしまった、と。上が無能だと大変だよねぇ…。


「本当ですよ。ウチもまた上司が手柄取りに必死になって無茶な企画を無理くり通してコケた挙句、私達に責任を押し付けて……」


と、静かに細目の僅かに開いた瞳の中に闘志を燃やし始める菊月さん。……うん、社会人って大変だな!


「と、話が逸れましたね。とにかく、もう方舟は存在していないんです。それなのにも関わらず、まるでまだどこか日の当たらない所で活動を続けているかのような噂が広まっている。それが疑問なんです。」


「確かに不思議ですね。解散を誰も知らないにしろ、活動なんてもうしようがないんだから噂なんて立つはずが無いのに。」


火のないところに煙は立たない、とはよく言ったものだ。

あれか、火がないなら放火しろってことか?昨今のマスコミか?

ならちゃんと解散したって言えば……あ、でも"方舟"に心酔して心から信仰してる人って意外と多いしなぁ……。難しい。


「なりすましか何かだと仮定しても、"方舟"のなりすましなんて相応の実力がないと出来ないですし、元からそんな実力があるならば直ぐに顔は割れます。根も葉もない噂話と言ってしまえばそこまでですが…。どこか嫌な予感がするんですよね。」


「ふーむ……というか、それを僕に言ってどうするんです?」


「えっとですね、それは──と、出口に着いてしまいました。」


タイミング悪く、いつの間にか出入口にたどり着いていた様だ。

また後日お話します、と言って重厚な扉を開いて外に出る菊月さん。慌てて、僕もダンジョンから出る。



外に出た瞬間、身を包む外の冷えた新鮮な空気。やはりダンジョンから出た時のこの感覚は底知れない魔力がある。


「スゥーー、ハァーー……あー、生きてるー…!」


「ふふっ、そうですね。」


まだ眠っているナオさんを背負い直し、また歩き始めた菊月さんの隣に並び、歩く。

時刻は18時。いい具合に日も沈んでいる。

街頭も大して無い山の中は、これから直ぐに真っ暗になってしまうだろう。


と、若干歩を早めようとした時。


「あ、あの!」


急に呼び止められる。


菊月さんでもナオさんでも、それこそ煙霧さんでもシュウさんでも千世さんでもない声。

誰だろうかと目を凝らして見ると、前から坂を駆け上がって来る男性を目が捉えた。


「はぁ…はぁ…ひぃ…ふぅ……あ、あの、もののべさん、と、菊月さん、ですか?」


「あ、はい。」


膝に手を付き、しばらく荒い呼吸を繰り返した後に落ち着いたのか、顔を上げて喋り始める男性。


「あの、自分ここの近くに住んでいる者で。ここのダンジョンで生計を立てているんですけど……最近、侵攻があってあまり潜ることが出来なくて、"組合"に申請しても全く取り合ってくれず、半ばダンジョンで生計を立てるのを諦めてたんですけど──でも、SNSで話題になってた配信を何の気なしに見てみたら、ここのダンジョンだって気付いて、侵攻を阻止したのを見たらいてもたってもいられなくて…!」


一息に早口でそうまくし立てる男性。


「本当に、本当にありがとうございました!……それだけ、です。すみません、急いで出てきたもので、お礼の品も持っていなくて…。」


「──いえ、お気になさらず。我々が勝手にやった事ですので。ただ、お礼ならこの子に言ってあげて下さい。」


話を聞き、最初は強ばっていた顔を弛緩させた菊月さんは身体を少し傾けて、背負っているナオさんを強調する。


「その人──ナオさんが言ったから、僕含め皆さんが動いたんです。守護モンスターを倒したのも、ナオさんですからね。」


自分もそう乗っかって言う。

ナオさんは相変わらず寝息を立てて眠っている。


「……スゥ……スゥ……うへへ…もののべちゃん……」


この人は夢でまで僕といるのか、と少し可笑しくなって笑いが零れた。


言われた通りナオさんにお礼を言い、もう一度僕らに頭を下げ、また感謝の言葉を述べたあと、それではと言って男の人はまた来た道を慣れた足取りで戻って行った。


「……守りましたね。ダンジョン。」


「……そうですね。」


困ってしまう人がいる筈だと。ナオさんはそう言った。


──ナオさんって……狡くない?こうやって平然と、なんでもないかのように危険も厭わず突っ込んで行って最後には最良の状態へと持っていって……


「……この人たらしめ。」


「はぁ、まったく同感です。」


こんなん堕ちてまうやろがい。なんなんあの人、魔性?いやでもあの人僕の僕を掴もうとしたしな……。





「物部さんって、最寄りは何処ですか?」


閑散とした住宅街へ出てきた頃に、菊月さんがそう尋ねてくる。


「んーと、鷺沼ですね。」


「あ、そうなんですか。では今日は電車で?」


「そうです。…それがどうしました?」


「いえ、こちらは車なので、送ろうかなと。」


え、マジ?いや有難いけども…そんなにしてもらっちゃって大丈夫なのだろうか。


「そんな、いいですよ!大丈夫です!」


「そうですか?……でも、恐らくこのまま普通に帰ると──困った事になりますよ?」


そう不自然に間を開けて言う菊月さん。


「……困ったこと?どういう……」


「──ともかく、前回も今回も迷惑をかけてしまいましたし、罪滅ぼしというか…お礼と言う形で!」


うーーん……別に迷惑とかではないんだけども…まぁ、是非と言われればお言葉に甘えるのが人間というもの。ここは乗せてもらおう。


「じゃあ、お願いします。」


「はい、お任せ下さい。安全運転で送りますよ!あっちのパーキングに停めてますので、もう少しですよ。」


本当に大丈夫だろうか。ハンドル握った瞬間杓変して慣性ドリフトとか、掟破りの地元走りとかしないだろうか。

そんな一抹の不安を抱えながら、車が停まっているパーキングエリアへと歩を進めた。






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例によって長くなったので分けます。


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