第14話 配信終了%
まほあこ超憧れVer.を絶対に買うと決心した今日この頃です。ネロアリスの変身シーンが見たい。
と思っていたら雀魂に1万吸われました。なんで?????
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ドクン、ドクンと拍動する心臓を感じながら、ただ無心で瞼の裏を眺める。
今までしたことの無いような、深い集中。
初めは感じていた振動も、冷気も、龍の咆哮も……次第に何も感じなくなっていく。
まるで、自分以外何も無い世界にいるかのような、そんな錯覚。
無我の境地、という言葉がある。ひとつの事に没頭し、集中すると言った意味合いがあるが……まさに今この状況に当てはまるだろう。
視覚、聴覚、嗅覚、触覚…その他一切合切の感覚に全くもって意識を傾けず、ただ一心、心頭滅却の集中。極限の、集中。
──ダンジョンでスキルの運用をするに当たり、最重要となる能力がある。それが、集中力。
集中力が命に直結するのが開拓者だ。集中力が無ければ死ぬ。
ちょっとした事で集中を削がれる様ではまともにスキル運用など出来やしない。故に、開拓者と言うのは基本的に集中力が高い傾向にある。
だが、今の彼女はその中でも一線を画していた。
圧倒的格上との戦闘。その最中に戦うことを放棄し、このような無防備の姿を晒すのは自殺行為だ。
だと言うのに何故ここまでの集中が可能なのか。それは一重に、信頼。
過去に彼女の窮地を救い、圧倒的強さを持つ"彼"が「信じろ」と言った。命を預ける理由など、それで十分なのだ。
故に、ただ1つその声だけは鮮明に、良く耳に届いた。
「ナオさん!!」
自身の名を呼ぶ声。"彼"と定義するにはあまりにも可憐な声。それに反応し、ゆっくりと目を開く。
目の前には、あれだけ強大な存在に見えた守護モンスターの首が横たわっている。
つまり、彼は言った通り成し遂げたのだ。
「……うん、もののべちゃん。信じてた。」
ゆっくりと剣を抜き、構える。
身体を迸る極超高密度のエネルギー、それに伴う全能感。
ベリベリベリ、と何かが剥がれる音が足元から聞こえる。しかし、そんな事には目もくれずに一直線に近付く。
距離が近付くにつれフロストが目の前の脅威から逃れようと暴れるが──クルアーンにより妨げられる。
「暴れないでね。じゃないと綺麗に切れないでしょ?」
落ち着いた口調でそう言い、剣を振り上げる。
「はい、じゃあ、これでお仕舞い。」
そして──振り下ろした。
◇
無理をしたせいで乱れている息をなんとか整え、カメラに向かって口を開く。
「さて、完走した感想ですが──」
「ちょいちょい、嘘でしょもののべちゃん!?煙霧来て!足折れてるよ!」
「草」
はい。
いや、はいじゃないね。キチンと詳細をね。
決着は一撃だった。必死こいて装甲──というか鱗を削った首に、ナオさんが剣を振り下ろして断頭。真っ赤な華が開き、それで終わり。
文字に起こすと地味だが、断頭の瞬間はそれはもう派手だった。
繊維が切れる音とか、骨が砕け弾ける音とかも何もしなかったのよ。
研ぎ師が研いだ包丁で紙切ってるみたいな……あっさりと、いとも簡単にするりと切り落としてしまった。
極めつけには、フロストを断頭しても尚その刀身は減速すること無く、そのまま地面を直線状に実に見事に…まるで割った竹の断面の様に美麗に両断してみせるという始末。
これには海割りでおなじみモーセも驚きの余り思わず十戒全部破ってしまう事請け合い。
ちなみに、その盛大なラストアタックを決めたナオさんはというと。
膨大なエネルギーに耐えきれず爆発四散した剣の柄を手から離した後、能力のリバウンドに襲わればたんきゅーしている。
あとフロストのせいでこのフロア全体が一人暮らしズボラ大学生の冷凍庫の如く霜が張っていたのだが、その影響で動いた際に靴底が足の肉ごと剥がれたらしく……まぁ、とてもじゃないがカメラは向けられない。
一応クルアーンさんの治療は受けているが、何もその道のプロな訳ではないし、そんなPON☆と肉は生えないので……治癒過程もまぁグロい。
「ほら、治ったぞ。……なーんか効きが悪いな……」
「あ、どうも。ありがとうございます。」
愉快な方向に曲がっていた足を治してくれたクルアーンさんにお礼を言い、そのまま今回の討伐の振り返りを宙に浮かぶカメラに向かってつらつらと述べていく。
「あぁ、ガバと言えば…いやあれはもうガバとかそういう次元では無いですね。完全に舐めプして気が緩んだ隙を突かれて腕をやられるとは……もう目も当てられないです。」
本当に失態だ。これは日本全国にいる北上の責任と言っても過言じゃないね。
記録は38分25.19秒。うーーーん、まぁ及第点かなぁ。先駆者様による前例が無いから、ひとまずはこれが基準。
え?アルカディアの生徒会長?あれは…ちゃうやん?
とにかく、もっと習性に関して理解を深めて研究を重ねれば、もっと詰めれる所はいくらでもある。今思いつく限りでも10分は削れる。
『あれはワロタ』
『シンプルにバカ』
『でもちゃんと直撃は回避したの強すぎる』
『まぁあれはワイらにも責任はある』
『SS級に舐めプ出来る胆力ってなんですか…?』
「いやはや、敵を侮るとはRTA走者の風上にも置けないですね。まぁリカバリは出来ましたし…ここはひとつ。」
と言って、手を叩く。
いやぁ疲れた……帰ったら風呂入って寝よう。残念ながら今日は愛しのマイシスターに構う余裕が無い。
「フロストが……」
そんな千世さんの声に反応して、フロストの方を見ると──
「おぉ、消えてく。」
全身から糸の様に細い煙状のナニカを出すフロストの亡骸。
ダンジョン内で倒されたモンスターはこの様に煙を出し、まるでほどけるように消え様々な武器や防具等に活用される素材を遺す。
この侵攻核の守護モンスターたる"プライモーディアル・アビサルフロスト・リントヴルム"もその例外では無い。
このままその巨体は消滅し、勝者を讃えるように素材を落とす───
「……ねぇ、消えてなくな〜い?」
消えない。何が起こってやがる。
フロストの体表から漏れ出るソレは、まるで行き場が無いかのように出たり入ったりを繰り返している。
「
画面外に掃けた菊月さんが言う。
なるほど確かに、モンスターが消えるのはダンジョンコアが操るダンジョンに吸収されているからだ。
今ここは侵攻核のテリトリーで、その肝心の侵攻核は効力を失い、元の核も疲弊しているから……今ここは一時的にダンジョンでは無くなっている、ということ。
それならば、絶対零度をも下回る程の冷気が篭っていた筈のフロア内が、既にちょっと冷え込んでる位の温度に上がっているのにも、治癒の効きが悪くなっていたのも納得できる。
「確かに、通りで益々段々寒くなってきたと思ったら。スキルが使えないのか。……待て、消えないという事はつまり、サンプル入手可能ということか?……全く、面白くなってきたじゃないか。」
と、短くなった煙草をポケット灰皿で消火して収納しながら、クルアーンさん。
「私の兵は出せませんね。スキルが使えない以上、奴自体に篭っている冷気もすぐ霧散すると思いますが……」
「皆さん刃物は手元に無いでしょうし、私の刀で解体しましょう。そのくらいなら出来ますので。」
手を鞘に入った刀の塚に乗せていた菊月さんがそう発言し、フロストの亡骸へ近づく。
鞘の鯉口から刀を走らせて抜刀し、丁寧に肉を剥ぎ取る。
「ふむ、かなり切りやすくなっていますね。ナオの一刀で全身の鱗が弾け飛んでいますし、身が半冷凍されたようになっています。」
刀で足がかりを作ってフロストの背へひょいと登り、素早くテキパキ切り分けていく。
菊月さんが切り分けた肉片を投げ、それをキャッチするクルアーンさん。
ビチャ、と所々がシャーベット状の血が散り嫌そうな顔をする。
「全部持って帰るのはまぁ無理として、どこを持っていくかな……。ふーむ?肉が凍ってるって事は体温は常識範囲内だな、低温は体表だけか?」
「煙霧って研究畑だよねぇ〜。そんなの見てどーなるの〜?」
「馬鹿め、どうせ言っても分からないだろう。」
「え?ケンカ?」
「まぁまぁ……。」
『(煙霧は名門大学の名誉教授でめちゃくちゃ頭がいいです)』
『おかしいな、シュウも一応その大学の学生な筈なんだけどな』
『酒は1缶でも海馬を萎縮させかねないらしいな』
『じゃあシュウの脳みそのデカさってダチョウと同じなん?』
『40gで草』
『ダチョウの脳は目玉より小さい定期』
「内蔵は思ったより臭わないですね。」
「生成されたばっかでなんも食ってないからな。これだけ状態が良ければ問題なく食べれそうだな。」
びちゃびちゃと生々しい音を立てながら亡骸の体内から内蔵を取り出す菊月さん。スーツが汚れることなど全く厭わないようだ。体液ごとスーツが凍っているが大丈夫なのだろうか。
「え〜?モンスターって食べれるの〜?」
「種類によりますね。魔獣食もまた前例があまりありませんし、食べないのが定石です。」
驚いたように声を上げるシュウさんに、千世さんが答える。
「ちょうどいい、肉も持っていこう。成分解析して問題無かったら研究室の奴らに食わせよう。」
「あれ?わたし煙霧の研究室に所属してるんだけど……食べさせられるの?毒味?」
マジで食べる人がいるのか、モンスターを。信じられんが?
「魔獣食ってなんですか…?こんなの食べるんですか……?バカなんですか…?」
「ハハ、君がそれを言うか?」
辺りに散らばった鱗を拾い、肉塊を纏めていたクルアーンさんからツッコまれる。解せぬ。
『お ま い う』
『ダンジョンRTAってなんですか……?バカなんですか……』
『千世ちゃんが他の人と喋ってる…感動した』
『後方腕組み親父面やめ』
『ナオ起きねーな』
『そういえばそうだ』
『全員クセ強すぎて忘れてた』
『この状況がそもそもクセ強い定期』
「あれぇ?なんで僕が変な人みたいな扱い……スピードの向こう側求めるのは男として当然でしょ。──え、そう思うのと実行するのとでは話が違う?」
そうかな……そうかも。
まぁ、いいや。話は変わるが、枠主たるナオさんがばたんきゅーしているこの状況はよろしくないのではなかろうか。
コメント欄は高速で流れていてちゃんと読めている訳ではないけども、ナオさん不在のこの状況を快く思っていない人も散見される。
「あの、菊月さん。ナオさん倒れてるのに配信続けてるのって大丈夫なんですか?」
「──え?あー……」
あっという間に部位の切り分けが終わったらしい菊月さんは、手ぬぐいで刀身に付着した汚れを拭き取りながら少し考える素振りを見せた後、顔を上げる。
「全然良くないですね。」
「ふへっ」
あっけらかんと答えた菊月さんの様子がツボだったのか、顔を背けて吹き出すシュウさん。
『えぇ……』
『グダグダやんけ』
『もう明日に回した方が』
『もののべ絡むと毎回イレギュラー起きるやんけ』
『取り込むべきではなかった……!イレギュラー……!』
『イラつくぜ……RTAに…憧れたんだ……』
「──あ、おい、コアあったぞ。」
「本当ですか?」
内臓やある程度の肉が削がれたフロストの体内をまさぐっていたクルアーンさんが、手のひら大の結晶を取り出す。
付着した血液や肉片を除いたとしてもその色はくすんでいて、お世辞にも綺麗とは言い難い。
「これが?」
「あぁ、侵攻核だな。ほいっ」
「わっとと!何を──」
随分と小さくなってしまっている侵攻核を投げ渡され、危うく落としそうになった菊月さんがクルアーンさんに抗議の目線を向ける。
が、等の本人は全く気にせず平然と答える。
「普通なら"組合"に提出するのがセオリーだがな。ま、処分は歌留多に任せるさ。」
ポン、と肩を軽く叩きクルアーンさんは「じゃあ俺は帰るよ。論文も書きかけだからな。核の機能が回復したら困るし。」といくつかの臓器や鱗などを丁寧に何重にも黒い袋に入れて去っていった。
あの袋はどこから出した。
「あ、はい!お疲れ様でした…。」
暗闇に消えていくクルアーンさんの背中にそう声を掛けた後、菊月さんは手の中に収まっている侵攻核に視線を落とす。
「"侵攻核"だってダンジョンコアの1つ。入手したなら所持認定証を発行するか、提出するか。認定証はお金がかかるし維持費だってある。対して"組合"に提出するなら逆に多額の報酬金が貰える………」
ブツブツと早口で呟いた後、突然眉間に皺を寄せて目を見開き、鋭い犬歯を剥き出しにしてガチリと音を鳴らす。
流れ変わったな。
「提出……す る 訳 な い だ ろ 。舐めやがってこのガースー黒光りFucking son of a bitch組合がよぉ……!」
「あ、あの……菊月さん?」
人当たりの良い社会人スマイルを浮かべた普段の菊月さんからは想像も出来ない程恐ろしい顔をしている。
"組合"と何があったのか分からないが、多分なんかあったんだろう。知らんけど。
とにかく落ち着いて欲しい。シュウさんと千世さんは震えながら僕の後ろに隠れている。
やめてよね、身長153cmの僕に2人が隠れられる訳ないでしょ。
「もののべさん。」
「あ、はい。」
「すみませんが、明日は空いていますか?」
明日?えーと、明日は確か日曜日だったか?じゃあ空いてるな。
「空いてますね。」
「そうですか……では、この枠は一旦閉じて、アフタートークはまた明日──といった形にしてしまっても大丈夫ですか?」
「へ?そんなこと出来るんですか?僕は全然大丈夫ですけど……」
「ありがとうございます。では日程の詳細はまた後ほど──」
「つまり…打ち上げって事でしょ!?はいはいはい!私も行きたーい!千世ちゃんも行きたいでしょ〜?」
ぬるり、と背に隠れていたシュウさんが飛び出す。
「え?いえ私は──」
「まぁまぁ〜、そんな堅いこと言わずにさぁ〜?」
「駄目です。」
「ああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
擦り寄るものの、菊月さんにあっさりと一刀両断されるシュウさん。
『他人のアフタートークのコラボ配信に乱入したら配信者生活終わるナリ……』
『そうだ!大声を出して誤魔化すナリ!』
『誤魔化せてない定期』
『ネットに詳しい弁護士は帰ってもらって』
「じゃあしょうがないや…千世ちゃん、飲みに行こうよ〜」
「何がしょうがないんですか…?嫌ですよ。部活いかないと……」
カメラに映らないよう背を向けてから、ほら、と金のチェーンを外し黒い外套の前を開くと、中から白い制服のワイシャツが出てきた。ネクタイは外しているのか着けておらず、第二ボタンまで空いていて胸の谷間が強調されている。
いくら動きやすくする為とはいえ、もう少し…ねぇ?
「えぇ〜?みーんななんかしてるじゃん〜、ヒマなの私だけぇ〜?……じゃあさじゃあさ、お酒買うのだけ付き合って〜?」
「それくらいなら、まぁ。何買うんですか?」
「う~ん……八海山!!」
「……はぁ、分かりました。代わりに何か奢ってください。」
「ゔ、言うようになったじゃない千世ちゃん……」
しょうがないとガックシ肩を落として、「じゃあ私達も帰るよぉ〜。2人も視聴者のみんなもまたねぇ〜!」と言いながらフラフラと帰って行った。
それに続くように、千世さんも一礼して帰って行く。
「はい、お疲れ様でした。──あ、核も回復してきた様ですね。」
菊月さんがそう言ったのをきっかけに、自分もスキルが使用出来る事に気が付く。
少しずつ、本当に少しずつだが、フロストの亡骸も吸収が始まった。
「では私達も帰りましょうか。」
静かに寝息を立てるナオさんを背負い、そう言う。
「そうですね。では、皆さんもまた明日…という事で。」
『ん』
『あいよー』
『なおつ』
『なおつー』
『おつのべー』
『なんか今新しい挨拶あったな』
『もののべ固定の挨拶無いしこれにしようぜ』
『採用』
『また本人の知らないところで勝手に決定してる』
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5000字位書こうと思ったら間違えて10000字書いてしまいました……
分けます。
どこかで物部の身長書いた気がするんですが、どこに書いたか忘れたので147ということにしました。
追記
身長書いてあるところを発見しましたが過去の自分と今の自分で解釈違い起こしたので153cmにしておきます。
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