第13話 ホモは二度刺す%
お久しぶりです。
世間は猫meme一色ですが、私は人memeを擦り続けます。
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「第1射撃隊、再装填急ぎなさい!第2射撃隊は弾幕を形成!徒歩隊、陣形を維持し4分の1駆け足で前進!砲兵隊は着弾予想地点範囲内に目標が入るまで砲身を調整、後退せよ!!弾着観測を行い、命中箇所を絞れ!」
「さむさむ……良くやるよ。」
「……!!」
千世さんは数え切れない程のヒトガタを纏め、部隊として運用。
クルアーンさんは軽口を放ちながらも、右手をコートのポケットに突っ込んだまま煙を操り、フロストの視界の撹乱及び味方のサポート。
僕はシュウさんと共に、風を併用しつつフロストの注意を引く。
「──私の速度に着いてくる……いや、私より速い?やるね。」
「そっちこそ、いくらなんでも速すぎるでしょ!?」
氷柱の投擲を避け、集中を逸らさぬように宙を駆ける。カメラもまだ何とか大丈夫だ。
「私はそれ相応の……ッ!代償があるッ!」
身体を捻り、無理矢理進行方向を変えてシュウさんも危なげなく回避。
死角からの攻撃はクルアーンさんの煙が受け止めてくれている。
……非常に戦いやすい。
少し下に降り、フロストの顔をこちらに向けさせる。
「──ギリギリ、射程内ですね。」
ホール内に爆発にも似た発砲音が響き、放たれた弾丸が吸い込まれるようにフロストの無事な方の目へ飛び込む。
よろめき、唸り声を上げながらフルフルと顔を振る。
「……はぁ。あんなリボルバーでよく当てるな、全く。」
煙草の煙を吐き出しながら、クルアーンさん。
距離にして120mはあろう離れから、フロストの眼球へと狙撃したのは菊月さんだ。
アタッチメント無しの、何の変哲もないリボルバーで、だ。
「臓器は風でなくとも効くようですね……集中を切らさないで下さい。油断は禁物です。」
『もうキックーも配信しろよ』
『必殺仕事人って感じでカッコイイ』
『流石Sは伊達じゃない』
『狂犬がいると聞いて』
『か、カルタさんや……えらいこっちゃ……殺される……』
『何したんや』
『昔相席した時勝手に唐揚げにレモンかけた』
『はよしね』
『殺せ』
『お前なんでこの世に産まれてきたん?』
『うーん残当』
「普通リボルバーってこれ射程範囲外なんじゃないんですか!?」
「弾丸が特別製らしい……ッと、視界が潰れたからやたらめったらに攻撃してくるね。」
大きな氷柱を乱射し、凍てつく吐息を吐き散らかす。
しかしその全てが的確に煙によって防がれていく。いやはや、クルアーンさんの手腕は流石としか言いようがない。
その隙に、大砲や大量の銃弾を撃ち込まれる。
「……ふむ。なぁ、フロストの纏ってる冷気って絶対零度なのだろう?」
「定説によると、そうですね。」
無線を繋いでいる2人が喋る。
「そうか。なら1つ試したい事がある。……2人とも!少し離れてくれ!離れなくてもいいが守れないし巻き込まれるぞ!」
「……?」
「分かった。」
よく分からないが、とりあえずフロストから距離を取る。
それを確認し、クルアーンさんはずっとポケットに入れていた右手を出し、開く。放たれたのは、ひと握りの何やらバチバチとスパークする黒い煙。
それは徐々に徐々に大きさを増していき、ふよふよとフロストの上空へたどり着く頃には上空をすっぽり覆い尽くす程の大きさになっていた。
「ウチの研究室の仮説でね。試す機会が無いからたらればで終わってたのだが……絶好の機会だ。」
バチ、バチと音がする。
手を振り上げるのと同時に、煙……いや、雲が内包する力も増していく。
何かを感じ取ったのか、フロストは防御の体勢を取るが……最早手遅れ。
「お、護っちまったな……?じゃあ壊してやろうじゃないか……!」
ゴロゴロゴロ、と腹に響く重低音。
「第1、第2、第3ノード解放。放出量最大、威力強制圧縮。広がるな…限界まで的を絞れ。」
黒い雲の一点が、淡く光り輝いていく。
「──外しはしない。"操煙"……」
ピッ、と指を下へ振り下ろす。
「"
瞬間、一際大きな輝きを放ち1本の細い光の線が轟音と共にフロストに突き刺さった。
なんとも名状しがたい、聞くだけでSAN値が削れそうな絶叫を発する。
「……ククッ、効いてら。」
「──氷には電気が効く。なるほど、近接でしか使えない電気系統をこんな形で……!」
元来、電気系統のスキルは近接以外が存在せず、どうやっても纏う以外のスキルには派生しなかった。
しかし、クルアーンさんはその電気をポケットの中で煙で包み込むことで、雷雲の生成を可能とさせた。
なんて緻密で繊細な技術だろう……その上前線の僕らの防御まで。これでは目を隠して針の穴に糸を通すような物だ。
自分には到底真似できそうもない。
「……それにしても、あまりにも効きすぎでは?」
冷静に、そうシュウさんが言う。
「シュウ。お前やっぱ俺の講義聞いてないよな。……ボース=アインシュタイン凝縮ってのがあってだな……。」
モンスターにもこういう現象があるのかはまだ謎な部分が多いから、正直なるようになれって感じだったけどな。と続ける。
「……なんだったか?」
と、首を傾げるシュウさん。
『は?』
『なんそれ』
『勘弁してくれ俺っち文系なんや』
『スピーカー?』
『それB○SE』
『この星は美しい』
『それB○SS』
コメントも、概ねシュウさんと同意見。
「はぁ──。簡単に説明すると、電気抵抗率がゼロになる現象だ。そしてこれは、超極低温下で見られる。……フロストは、絶対零度の冷気を発していたな?」
なるほど、と手を打つ。
「100%の電力が体を駆け巡った訳か。」
「そういうこと。体内も絶対零度かは知らないが……どちらにせよ、もう同じ手は通用しないな。」
黒い煙を上げ、鱗をボロボロと落としながら立ち上がるフロスト。
その警戒心は底上げされ、もはや隙の1つも無かった。
「それに、流れた電気が大気中に放電している。やり過ぎると俺らも巻き添えだな。……やっぱ風か?空気に関しては俺が何とかできるし……」
と、クルアーンさんがまた対策を練り始めた時。
フロストは突如として蹲り、身体から発していた白煙がピタリと消えた。
「報告。対象の温度が更に低下しています。」
と、千世さん。
「対象……-278、-280。温度が下がり続けています。」
「おいおい……」
「本当ですか?……絶対零度は-273℃、これ以下になるのはありえない……!」
全宇宙においての零点。それが絶対零度だ。それよりも低い温度なんて存在する訳が……
「確かに、普通ならありえない。だがここはファンタジーなダンジョン様だ、今更常識が通用するなんて思わない方がいいな……。
ただえさえ冷え込んでいたホール内が更に冷やされていく。どうやらクルアーンさんのあの雷は直前の予備動作中は煙を操ることは出来ないらしい。それではホール内を埋め尽くす冷気に電気が伝わり、全員感電してしまうだろう。
「この冷気……ッ!──"鬼手仏心"、赤鬼!」
何かを察知したのか、すかさず角を引っ込めて反対側の角を大きくさせるシュウさん。
目は大きく見開かれ、口元を吊り上げさせていく。
そして、体全体が真紅の炎に包まれる。……こういう感じの変身する鬼の仮面○イダーいるよね。
「クク、こりゃ凄い。瞬間的なものならまだしも、どんな寒さもある程度生存可能な温度に変える防寒スキルを貫くとは……」
「えん……クルアーン、このままでは。」
「分かってる、何も詰んでる訳じゃない。」
余裕綽々で煙草を燻らせる。なぜ火が消えないのだろうか。
「……あの寒波を、絶対零度のその先の冷気を防ぐ手立てがあるんですか?」
「ん?あぁ、あるよ。」
「それ遠隔でもいけます?」
「おう。」
僕の質問の返答を聞いた瞬間、僕はシュウさんの後ろ襟をむんずと掴んでフロストに向かって走り出した。
「え?──お、おいおいマジか!イカれてんのか!?」
「……あ?何が起きた?
炎に包まれたシュウさんはかなり……いや恐ろしく熱いが……構ってられない。立ち止まれば即氷漬けで未来直行エクスプレスだ。
「あぁまったく、信用し過ぎだろ!固有使って無いのに速いなぁもののべ君!陸上やったらどうだ!?」
後ろでそんな声が聞こえた後、痛いを通り越して何も感じなくなっていた表皮が感覚を取り戻す。それと同時に、微かな温もりも感じられる。
どうやら、クルアーンさんがどうにかしてくれたらしい。
「なら……」
1歩踏み込む。
「フロスト、-300℃到達!……高圧冷気反応、冷気が放出されます!」
「来ます……皆さん、あの白煙にひとたび触れれば命は無いですよ!」
「煙で壁を張る!全員分ッ!間に合えクソッ……しばらく、暫くの間俺は動けん!頼んだぞ、命知らず!!」
持ちうる身体強化スキルを総動員。
脚力強化、酸素供給効率強化、心臓強化、呼吸器官強化、乳酸抑制、その他諸々計25種。
何も強化していない素であれば100mを10.76秒で走り切る走力を限界まで使い倒し、最後に"倍増"を発動。
「……シュウさん。」
「なんだ。」
「振り落とされないで下さいよ!」
「──上等ォッ!!」
その瞬間、爆発のような轟音を響かせて走り始める。
それと同時に、フロストから高密度の冷気が放出される。
防寒スキルにクルアーンさんの煙の二重構造すら貫通してくる冷気に歯をガチガチと鳴らしながら、壁を、天井を、床を駆ける。
『酔う酔う酔う』
『気持ち悪くなってきた』
『おそらをとんでるみたい!』
『なんも見えん』
『定点の方見てみろ、コマ送りみたいになってる』
『レンズに霜張り始めたな』
両眼を潰されたフロストにもはや僕を捉える手段は無い。
「シュウさん!」
「んだよ!」
「その状態ならアイツの表面に取り付いたとして、どれくらい持ちますか!?」
「あぁそうだなぁ!あ゙ー、3秒くらいかぁ!?お前なら2秒だな!」
「──充分!狙いは首筋です!」
「急に何を……そういう事か!」
スピードを維持したまま、シュウさんを持ち替え、ついでに腕の強化も施しながら大きく振りかぶり──
投げた。
「ッオ゙オ゙オ゙オ゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!」
やろうとしていた事を察していたらしいシュウさんはそのまま拳を前へ突き出し、フロストへ突き刺さる。
大きく横へよろけるフロスト。
壁を蹴って接近し、シュウさんを回収。また壁沿いへ戻る。
「……チッ、貫いたと思ったんだが。鱗も無ェ癖して硬いな。」
「なら何度も叩くだけです。鱗さえ無ければ物理も受け付けますね!」
再び駆け始める。
フロストは僕らを穿たんと氷柱を形成するが……
「砲兵隊!軽砲、
「……!」
一方は千世さんに、もう一方は菊月さんによって全て撃ち落とされる。
「今の内ッ──よいしょっ!」
「オラァァァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙!!!」
またシュウさんを投げ飛ばし、回収に向かう。
拳をめり込ましている彼女を掴み、壁に向かって飛ぼうと方向を確認した所──
「……おっと。」
フロストの巨大な手のひらがあった。まるで首筋に止まった蚊を叩くようにして、僕らを押し潰さんと迫ってくる。
クルアーンさんの支援はまだ望めない、避けようにも跳んでいける場所が無い。もう耐寒も限界──
詰みか、と覚悟してシュウさんだけでも一か八かで投げて逃がそうかと構えた刹那。
「峯風流抜刀術──"島風"!」
大きな三本指の手に赤い線が走り、横に両断される。
「ッ!跳びますよ!」
「もののべさん!私の回収もお願いします!」
「
ばっくりと開いた手の隙間を潜るようにして通過し、近くにいたスーツ姿の女性をシュウさんが掴んで小脇に抱える。
地面に着地し、フロストから離れる様にして走る。
「菊月さん!助かりましたッてかそれなんですか!?」
そのスーツ姿の女性……菊月さんに、右手に持った日本刀を左手で指差して聞く。
「私のメイン武器はこっちなんですよ。固有の関係上。」
へー。そういえば菊月さんの固有知らないな。秘密なのかな?
「そういえば気付いていますか?奴がポイントαにいます。」
なるほど確かに、菊月さんが最初に指定した箇所にピッタリ収まっている。
「各員に伝達、
無線を駆使し、全員に司令を下す。
「了解、俺ももう大丈夫だ。いつでもどーぞ。」
「刀隊、刀を抜け!射撃隊各員、着剣せよ!」
キョロキョロと辺りを見回すと、いいモノを発見。それを見てある事を思い付いた。
「もののべさん、宜しければこのままお連れ頂けますか?」
「勿論。シュウさんもいいですよね?」
「構わんよ。」
「ありがとうございます。それでは各員、行動開始!」
その宣言を聞き入れ、フロストとは逆方向へ走り出す。目標は一点。
地面に落ちているソレを左手で掠め取り、逆手に持つ。
「うし……クルアーンさん!!」
「言われずとも!」
その瞬間、目の前にUターンし天井まで伸びる煙の道が出現する。
迷わず、その道に沿って走り始める。
「シュウさん、落とさないで下さいよ!?」
「誰に言ってんだ菊月サン?──ところでもののべちゃんよ、お前何拾ったんだァ?」
「あぁそれは──と、説明してる暇は無いですね。シュウさん、ちょっと……」
「ん?あぁ。」
拾ったものの説明をしようとすると、既に壁まで到達していた。我ながら速い。
左手に持ったソレを一旦しまい、菊月さんをもう片方で抱える。
下を見下ろすと、千世さんとクルアーンさん、そしてフロストという順。
「では、行きますよ!」
「
地面から生えるようにして白い縄がフロストを逃がさぬよう締め付ける。
ちぎろうと身を捩るが、その縄は全くもって緩む様子すら無い。
「おいおい、煙をちぎろうとするバカがどこにいんだよ。──俺の煙は一方通行だ。俺が許可しない限りは触られはしても触れはしない。」
「刀隊……突撃──!!」
「シュウさんッ!菊月さんッ!いっけぇぇええ!!!」
軍刀を持ったヒトガタがフロストへ飛び掛かり、それに気を取られ隙の出た首筋に向けて2人を順に思い切り投げる。
「死ィィィィネェェェェェエエエ!!!!」
「峯風流剣術──"灘風"ッ!!」
一方は拳を穿ち、一方は刀身を突き刺す。
倒れまいと踏みしめるが、そこに千世さんの砲撃。更には刀隊の軍刀で腱を切られ、巻き付いた煙の縄と共に大きくよろめく。
「ダメ押しに──」
亜空間に仕舞ったソレ……前に弾き飛ばされた双剣の片方を取り出し、投げる。
それを桃白白よろしく壁を蹴って追い付き、双剣の尻を右足に付ける。
殺傷能力の高いライダーキックの完成だ。
「はぁぁぁぁぁあああ!!!」
そのままフロストの首筋へ突っ込み、剣を柄まで突き刺す。
これがトドメとなったのか、フロストはバランスを大きく崩し、狙い通り地面に倒れ伏した。
すかさず、2人を回収しクルアーンさんの元へ戻る。
───さて、ポイントαとか一体何なのか、何故そこに倒させたかったのか。それを説明しよう。
皆さんお忘れではなかろうか?そこには彼女がいる。開戦から今の今まで、上限の存在しない固有をチャージし続けている彼女が。
もののべが必死になって護り、総員でそちらに意識が向かないよう攻撃し続け、誘導していた彼女が。
「ハァ…ハァ……ナオさん!!!」
その瞬間、彼女──ナオが目を開いた。
「……うん、もののべちゃん。信じてた。」
彼女は30分以上維持していた構えを解き、剣を抜いた。
内包された、超高密度のエネルギー。
フロストが逃げようと暴れるのは自然な事だ。
「暴れんなッ!痛いと思う暇も無いぞッ!」
グ、と逃がさぬよう手の力を強めるクルアーン。
コツコツと歩き近付くナオを見て、もののべは新たな発見を得た。
膨大で、圧倒的で、真に純粋な"力"という物は、恐ろしく──美しい物であると。
─────────────────────
次回、決着──!!
マジ長かった。反省してます。
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