第3話 変化_動揺%
なんか凄い勢いで伸びている……?ありがとうございます。
序盤にささっと更新してだんだん更新しなくなっていくのが私です。
ガバの修正をしました(09/27)
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「さーてどうしようか……」
ダンジョンから脱出し、現在自室。
ベッドに仰向けに寝転がってスマホを眺める。
スマホに表示されているのは、先の自分の配信のアーカイブ。
「うわ、本当にナオさんがいる……」
ドラゴンと相対した所を0.5倍速にして見ると、画面端でなるほど確かにピンク色の頭が見える。
しかも、その前にもナオさんの声がバッチリと聞こえる。
「いくら耳が聞こえないからいつもより集中していたとはいえ……その後も気付かないなんて……あー!ヤッテモーター!」
そうベッドの上でうだうだと身体を動かす。
集中するあまりコメントという存在をすっかり忘れていた。いつもそんなにコメントある訳じゃなかったし、頭から抜け落ちていたのだ。
ちゃんとコメント欄を見ると、
『オッスお願いしまーす^^』
『ナオから来ますた』
『この度はナオがお世話に』
『ウホッいい男……男?』
『察してたけどクソ速くて草』
『疾走とかそこらのスキル?にしてはクソ速いな』
『車かよwww』
と、凄まじい勢いでコメントが更新されている。
また、ずっと反応していないにも関わらず、金剛蜘蛛との戦闘の際も──
『金剛蜘蛛もHAEEEEEEE』
『捕食のため獲物を追いかける金剛蜘蛛。疲れからか、不幸にも全速力のRTA走者に追突してしまう。仲間を庇い全ての責任を負った金剛蜘蛛にRTA走者、もののべが言い渡した示談の内容とは……』
『追突(蜘蛛糸)』
『おいゴラァ!降りろ!免許持ってんのかお前!』
このように、その勢いは衰えない。
あまりの勢いに元から配信を見ていたらしいリスナーも、
『えなにこれは……(困惑)』
『やだ怖い…やめてください…!アイアンマン!』
『ナオってあのナオ?』
『ナオの配信見たけどマジやんけ』
と、困惑気味なコメントを打っている。
「……そういえば、ナオさんからもコメント来てたよな……」
そのままアーカイブを流していると、
『ナオ☑︎:さっきはありがとうございました!本当に助かりました🙇♂️🙇♂️もし良かったら、今度コラボとか!どうですか!?』
︎︎︎︎「あっえ!?」
思わずガバッと上体を起こし、何故か正座になる。
「こここ、コラボ!?」
──ここで、一旦情報を整理しよう。ナオさんは動画配信アプリ「MyTube」の人気配信者。登録者は約300万人、同接数は常に7万以上と名実共にダンジョン界隈の最前線を走る大物だ。
対してもののべ、つまり自分。登録者は150人ほど、同接はいいとこ50。クソカスドベだ。比べるのもおこがましい。
それが……コラボ?
「炎上して終わりでは……?」
何の気なしにTiwtterを見る。あ、今はYって呼ばないとイローン・スガオに殺されるな。
TLで追いかけてる漫画を見ようとすると……
「え?通知どうした?」
下側にある鈴のマークをした通知欄が、999+と表示されている。
「え、何?何?」
恐る恐る、通知マークを押す。すると──
『□□さん、その他58人があなたをフォローしました』
『○○さん、その他86人があなたをフォローしました』
『△△さん、その他91人があなたのポストにいいねしました』
『✕✕さん、その他107人があなたをフォローしました』
「う、ウウェェェッイダァッ!?」
驚きのあまり飛び跳ねる。その拍子にベッドから地面に転げ落ちる。
「なになになに!?そうだ、と、トレンド……オギャァァァァァ!!『もののべ』トレンド1位ィィィィ!!!!」
なんだ、何が起きている!?こんな……!通知切ってるから気付かなかった!
ちなみに。
トレンド2位は『ナオマネ脱走』
トレンド3位は『ダンジョンRTA』
トレンド4位は『アンチェイン』
と、やはり自分もしくはナオさんに関連しているワードがランクインしている。
「う……DMもいっぱい……」
手紙のマークをしたDM欄にも十単位の量が送られている。
ちなみにDMとはデュ○ルマスターズの略である。
嘘である。
正しくはダイレクトメッセージ。
DM欄を開き、届いたメッセージを流していく。
「ええと……『主人がオオアリクイに殺されてから1年が過ぎました』……スパムだなこれ。他は……」
画面をスクロール。
「ッ!ナオさんから……」
公式マークの付いたナオさんのアカウントからDMが来ているのを確認。
『突然のDM失礼致します。ライブハート所属ライバー、ナオの担当責任者の菊月と申します。本日は多大なご迷惑をお掛けし、大変申し訳ございませんでした。』
「……急に凄い謝罪から入られた。担当責任の人…あの逃げたマネージャーとやらとは違うのかな?」
社会人のちゃんとした謝罪をされ、軽く狼狽。しかし、すぐ持ち直してメッセージの先を読む。
『──また、ナオの命を助けて頂き、誠にありがとうございました。今回の件により生じたもののべ様の被害に関しましては、全て弊社が責任を負うと共に、弁償をさせて頂きます。』
「……被害?」
なんだろうか……怪我もしてないし、服も破れてないし。強いて言えば硬化して取り切れず未だにジャージにこびり付いている金剛蜘蛛の糸くらいだろうか。
でもそれは関係ないしな……。僕のミスだし。
『さて、本日連絡をさせて頂いたのにはもう1つ理由があります。非常に厚かましく、もののべ様にも迷惑であろうことも承知の上でお願いさせて頂きます。どうか、ナオとコラボ配信をして頂けないでしょうか?非常識であることは存じておりますが、本人のからの希望でもあります。』
「……ん?」
コラボ?あれ、コメントとかのああいうやつって大抵流れるんじゃないの?
も、もう一度確認しよう。ナオさん、登録者300万。僕、150。
……????
え?本気?やる気なのか?こんな得体の知れない無名と?
バカか?バカなのか?いやバカなんだろうな。うん、そうに違いない───
混乱のままスクロールすると、下には電話番号らしき数字が。目が滑って文章が読めていないが、恐らく『コラボする気なら電話しろ』って事だろう。
はぁー全く舐められたもんですよ。この程度で僕が慌てふためくとお思いで?フッ、僕はRTA走者ですよ、慌てるなんてそんなこと──
「お、落ち着け!素数を数えて落ち着くんだ!2、4、6、8……違うこれ偶数!!!!」
と、頭の中でグチグチ言いながら、実際にはクソ焦っている男の姿が、そこにはあった。
──というか、僕だった。
すると──
「お兄うるさい!何やってんの!」
バァン、と勢いよく扉が開く。扉大事にして。
「あ…えっと……やぁ奏…」
「……本当に何やってんの?」
その感想も当然、自分は先程ベッドから落ちた時からずっと、ひっくり返った状態でスマホを見ていたのだ。
つまり、妹の目の前にはカブトムシの幼虫の如き姿勢を取りながら騒いでいた兄の姿があったのだ。
仮にも兄であるソレに、便所虫でも見るかのような眼差しを向ける妹。つらみ。
「いや、まぁ色々あって……」
「あ、そう……。」
しれっと目を逸らされた。当然である。
ドサ、と横に倒れてから立ち上がり目を合わせる。妹の方が身長が高いため、見上げる形になるが。
やっぱデカイなこの妹……色々デカイ。何がとは言わないが。
そうだ、妹の紹介をしておこう。
白髪や金色の目など自分と共通項が多く、やはり血の繋がった兄妹であることが伺えるのだが……奏の身長は170cm(未だ成長途中)。対して兄たる僕、物部は153cm(伸びる気配無し)。
君たちはどう生きるか。僕は死ぬ。
「えと、何?」
「おかーさんがご飯って」
「あ、うん。今行く。」
あー、なんか頭冷えてきた。そうだな、難しいこと考えるのは一旦後にしよう。そういやお腹が空いている。
腹が減ってはなんとやら、ってね。
え?働かざる者食うべからず?古い価値観押し付けるのやめてもらっていいですか(Z世代)
◇
「……なぁ、お母様よ。」
「なんでしょう。」
「いくらなんでも夕食に蕎麦はどうかしてると思うんだ。」
妹に呼ばれリビングに行くと、テーブルに置かれていた夕食はなんと……
にしん蕎麦であった。
「うーん……これは流石におにいと同意見かな……」
「あ゙ぁ゙!?作ってやってんだからつべこべ言わず食えやぁ!」
「アッハイ」
いつにも増して不機嫌だなこの人。怖すぎだが?もうこれ六層越えて七層モンスターだろ。
「やはり更年期か……」
「おかーさんも歳だからね……」
「聞こえてるぞ馬鹿ども」
「とまぁ冗談はさておき」
「冗談かどうかは私が決めるからな」
直毛の銀髪越しの三白眼が僕ら兄妹を射抜く。
なんというか、眼力で人を殺せそうだね。
親が子供に向ける圧じゃないっす。それは完全にシャ○クスが近海の主に向ける圧です。
「お、おかーさん今日推しのファンミ行ったんだよね?なんかあったの?」
ナイス話題飛ばしだ我が妹!
「ん?あぁそう聞いてよ奏!」
……うん、ここからは自分にはよく分からない領域だ。
ファンミ?ってなんなんだよちくしょー。
さて、奏が母のご機嫌取りをしている隙にこれからの事を考えよう。
蕎麦を啜る。
まず自分の状況整理からだ。スマホを取り出し、自分のYアカウントを開く。
たしか最後に確認した時はフォロワーは30くらいで──
───────────────
もののべ
23フォロー 17,569フォロワー
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「ヴグッ!ゲホッゲホッゲホッ」
「えっ何どうした」
むせた。ごめん、話してていいよ。
水を飲んでクールダウン。深呼吸。
ひっひっふー。違う、これは出てくる方の呼吸だ。
シィィィィィ……違う、これは鬼を倒す方の呼吸だ。
コォォォォ、パパウパウパウ!違う、これは吸血鬼を倒す呼吸だ。
話が逸れた。
……よし、次はMyTubeのアカウント。登録者は150程だった筈。
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もののべ
@mononobe_rta チャンネル登録者数3万人
─────────────────────
「ッス────」
よしよしよし落ち着け落ち着け。何を驚くんだ?150が3万になっただけじゃないか。認めたくは無いが、バズった以上こうなるのは目に見えてる。ポジティブに考えよう。僕は3万を従える男になったのだ。収益化もいけるだろう。
それより、コラボだ。
この百倍の人数を従える人……つまり、ナオさんとのコラボ。
しかも、ナオさんの囲いはかなりの曲者達だ。無闇に近付いた男性ライバーがその囲いにより闇へと消えた事件は記憶に新しい。
……怖ぇ──。おっかねぇ──。
よし、断ろう。今後の配信者生命が、ひいては人生がかかっている。
僕は平和に誰の干渉も受けずにRTAがしたいだけなんだ。
RTAをする時はね、誰にも邪魔されず、自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ。独りで静かで豊かで……
「……なに虚空を掴もうとしてんの物部。」
「えっ」
そこで、いつの間にか蕎麦を食べ終わっていたことに気付いた。掴む対象がいなくなった僕の箸は虚空を掴み、上がったり下がったりしていただけという……
「あんたの集中力が異様に高いのは全くもって同慶の至りだけどさ、食事中に何してんのさ。」
そう呆れたように母が言う。
「いやぁ、ちょっと無を取得しようと……」
「何馬鹿なこと言ってんの。ほら食べ終わったんなら食器下げろ。」
「ウス……ゴチソウサマデシタ」
食器を台所へ置き、水で軽く流してから自室へ向かう。
「見てろよ、僕は嫌なものは嫌だとはっきり言える人間なんだ。そしてそれを見て、今どきの若いもんはって言うジジイがこの世で1番嫌いなんだ。あまり若者を
チラリ、とスマホで時間を確認。
19時過ぎ。
「確かいつでもお電話下さいとか書いてあったけど……いや、この時間は流石にね?──よ、よし!明日にしよう!」
風呂に入るため、着替えを用意する。
そうして僕は……若者は……
逃げたのであった。
─────────────────────
イローン・スガオってなんだよ(真顔)
ちなみに私がこの世で1番嫌いなのは、めんどくさいという理由だけで不登校になり何か資格勉強みたいな事をする訳でもなくSNSで「不登校の人と繋がりたい」とかほざいてる奴です。
追記
物部→白髪
奏→白髪
母→銀髪
って感じです。ダンジョンの出現による特殊な磁場によって色素とかひん曲がってるって世界。
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