第2話 完走%

書きたいこと詰め込んでるので文字量が多い

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少し前…

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「いやぁ、してやられました。バクナラシがいたとは」


と、走りながら言う。

バクナラシとは、一定範囲に入った生物に対して反射で爆音を鳴らす小さいモンスターのこと。

その身を犠牲にして鳴らす爆音は、一時的に聴覚障害に陥ってしまう程である。


『それでも気付いてミュートにしたの強い』

『自分より視聴者を優先する。配信者の鏡』

『CGでしょ?』


「バクナラシは範囲内に入ると一瞬光るんです。気付けてよかった。……ちゃんと喋れてますか?自分の声もあまり聞こえなくて。」


『大丈夫』

『ホントにヤバいんだなアレ』

『あのスピードで走っててなぜ気付く。』


「うーん…気合い?まぁ喋れてるなら良いです。」


『気合いは草』

『言い訳考えるにしてももっとなんか…あったでしょ』

『ヒールとか無いの?』


「回復系のスキルはあまり使ってないので……。そもそもヒール使うような怪我した時点で緊急脱出リセットなので。」


スキルは、最初は初歩的な物しか習得が出来ない。そこから何度も使用し、磨きあげることでスキルは強化され、進化したり派生し新しいスキルが覚醒したりする。

逆に言えば、あまり使わない系統のスキルはいつまで経ってもヘボいままなのだ。


故に、その性質上ヒールを使うことが少ない物部は回復においてはクソザコナメクジなのだ。


「使わなさ過ぎて退化してるんですよね。治せるのはもう、指に紙シュってやったみたいな傷程度なんです。」


『うわっ…この人のヒール、弱すぎ…?』

『スキル退化とか聞いた事ないんですがそれは』


「と、ここを右ですね……ん?今なんか揺れました?」


『揺れたな』

『なんかやばい音するが』


「うーん?すみません、音聞こえないんで…。」


『なんか壊れる音する』

『ドッカーン、ガラガラガラって』


音が聞こえない物部に視聴者がオノマトペで伝える。


「ドッカーン?ガラガラガラ?……はて?まぁいいです。今のところ良いタイムなので、気にせず行きます。」


ストップウォッチが刻む数字を気にしながら、また1つ加速する。


「ここからはもうラストスパートです。行きますよー行く行く」


『申し訳程度の淫夢要素』

『RTA走者は淫夢厨じゃなきゃ務まらないからね、しょうがないね』

『てか、音近くなってない?』

『なんか声聞こえる?』


「そうですか?ふーむ…そういえば、なんか熱気?が強くなってきたような?」


(ダンジョンに異変でも起きたのかな?タイムに影響が出るような事ではありませんように。)


そう祈りながらまた曲がり角を壁を走りながら曲がると──


「うわぁぁぁぁぁぁ!!」


「あぶなッ!」


半狂乱で悲鳴を上げながら走る男性が飛び出してきた。

危うく正面衝突しそうになるが、驚異的な反射神経で男性の頭上を飛び越す。勢いを殺さぬように着地し、再び走る。加速したばかりだが、気持ち減速。


「何かあったんですかね?まぁ僕が使った5層出入口とはまた別の出入口が近くにあるので、心配は無用ですね。」


『今の人、主に気付いてなかったな』

『合成だからじゃない?』

『今の男の人どっかで見た事あるような』


コメント欄がポツポツと更新されるが、そこには目もくれずに薄暗闇の向こうを凝視する。

配信者としては普通に失格だが、今回に限っては間違ってはいないだろう。


「ん?んん?」


(今、何か紫色の光のようなものが…?)


『誰か叫んでね?』

『こっち来ちゃダメだって言ってる?』


「へ?そうなんですか?」


耳がまだやられてしまっている物部とは違い、薄暗闇の向こうから響く声は、咄嗟にミュートしたのが功を奏したのか問題なく機能しているスピーカーがしっかりと拾い、視聴者達へ届けられていた。


「……しかし、いつも人がいない時間帯を狙って来ているのに2人も人がいるなんて想定外ですね。タイムに影響が出るかも……でも、今からルート変更し田所さんですしそもそももう出来ないですし…行くしかないですよね。」


5層という相当な実力を持った開拓者が潜るような場所での、先人からの注意喚起。それが意味する事が分からない物部では無い。

しかし、


しかし。


(ごめんなさい、記録の為には背に腹はかえられないんです。)


彼は、根っからのRTA走者だった。


「このまま行きます。いざとなったら非常通報コールをお願いします。」


非常通報コールとは、想定外の事態が発生した際に開拓をサポートする"組合"へ応援を要請できる物であり、救助、討伐などその内容は多岐に及ぶ。


配信では万が一配信者が行動不能となった時には、視聴しているリスナーが代わりに非常通報コールが出来るため、この界隈では主に救助などに使われている。


ちなみに、非常通報コールで派遣される救助隊には"蘇生"が可能な隊員も存在する。

色々制限はあるものの、開拓者達からは頼もしい存在となっている。

蘇生した後も発狂せずその精神を維持できるかどうかはまた別ではあるが。


「と、見えてきましたね。あれは……」


『なにあれ…』

『デカいトカゲ』

『なーんだトカゲかぁ』

『誰かいる?』


「アビス・バーンズ・ドラゴン……6層でも中々見ない、危険度"変態"のモンスター…ここにいるということは、型破りアンチェインですね。」


『やばいが?』

『6層モンスター…ってこと!?』


ここのダンジョンでは6層の立ち入りが禁止となっている。その理由は、このダンジョンが発見された時に調査をしたSS帯の開拓者が「6層つらい」と発言したため。


そんな魑魅魍魎跋扈する6層の中でも数の少ないこのドラゴン。

更に、1万回ダンジョンに潜って1回遭遇するかしないかレベルの事態である型破りアンチェイン


通常の開拓者ならば自らの不運を呪い、必死に生にしがみつくか、諦めて身を差し出すか。

1部のSS帯の開拓者ならば「何たる幸運」と感涙の涙を零しながら戦闘を始めるだろう。


しかし、物部はそのどちらでもない。


感じたのは、ただただ、安堵であった。


「なんだ…ただのドラゴンか。」


『なんて?』

『はいもう完全に意味不明です』

『騙せてると思って調子に乗っちゃったか』


「地形とか、道順が変わるとかではなくて本当に良かったです。モンスターなら倒せばいいだけですもん。あぁ、焦った。警戒してわざわざ減速してしまいました。」


ズン、と踏み込んで大幅に加速する。


「このまま突っ込みます。カメラがブレると思うので酔いやすい人はご注意を。」


そう言ってドラゴンの前でジャンプし、足を前へ突き出した。


──────

現在に戻る…

──────


「なに…この人…」


探知のスキルを使い、来た道を戻りながらリスナーから提示されたユーザーの配信を見るナオ。


「速いし、強いし、何より視点のブレがほとんど無い!」


『たしかし…』

『ヤバすぎて引くんだけど』

『一人称視点でここまで酔わずに見れるのは確かに異常』

『配信者ならではの着眼点だ』


「ダンジョン配信って、本当にカメラに困るの!自分で持ったらブレが酷いし、まともに戦えないし!かと言って三脚とかも使えないし……だから大抵はA〜Sの位を持ってる人にカメラをお願いするんだけど……」


『逃げられたな。』

『S帯冒険者の姿か…?あれが…?』

『#ライブハート人事部職務怠慢』


「らっライブハートさんは悪くないからっ!」


ライブハートは、ナオが所属する配信者を専門とした巨大芸能事務所だ。

例のマネージャーを雇ったのはライブハートの人事部……つまりそういうことである。


「GoseProの一人称でなんでこんなにブレないの?頭動いてないって事?」


『なにその吹奏楽のマーチングみたいな』

『この人なんでこんなに無名なの?おかしいでしょ』

『ちょっwおまいらのせいでこのもののべ?さんの同接3万になっとるがww』

『まだ増えてて草w』

『草にwを生やすな(戒め)』

『集中してんのか気付いてないな』



『あっテンタクラーですね。5層では逆に珍しいかも。』



「あっ!これ!コイツ!」


『みんな大好きテンタクラー』

『開拓者のトラウマ』

『うわでた』

『出たわね』

『一瞬で退場して草』


バスケットボール大の肉塊からいくつもの粘液まみれの触手を出しているモンスターが配信主…つまりもののべの前へ姿を現す。もののべのスピードに着いて来れずに一瞬で見切れるが。


え?どういうモンスターか?……触手系の同人誌読んで、どうぞ。


「前にアイツのせいで緊急脱出装置使って配信閉じたんだよね〜!」


『もうちょっと見たかったゾ』

『テンタクラーさんちょっと緊急脱出装置の壊し方学習しよっか』

『進化させるな(1敗)』

『こいつのせいで尻穴でしか興奮できなくなったわ。みっちり尻の使い方調教されたから毎日快便よ』

『尻穴開発快便ニキ気持ちよすぎだろ』



『さて、もうすぐでゴール…っと?』



「ん?なんか今べシャって鳴った?」


不自然にバランスを崩すもののべ。

右手を見下ろすと、白い粘液のようなものが拳にまとわりついていた。



『重い……金剛蜘蛛の糸ですかね?どうやらナワバリに入った様です。』



金剛蜘蛛。子供程の大きさを持つ巨大な黄金こがね色の蜘蛛でり、その身体、内臓、糸などその全てにかなりの値段が付けられている。

素材1つ売却すれば、ソシャゲのキャラを1人完凸出来る程度の金額。そんな価値の高さ故に"金剛"なのだ。


そんな金剛蜘蛛は広範囲のナワバリを作る習性があり、1歩でもそのナワバリに入ってしまうと自動で巣が反応し、糸を付けられる。



『気にしてる場合では無いですね。無視して行きます。』



「嘘でしょ!?あの量の金剛蜘蛛の糸…100kgはあってもおかしくないよ!?」


『金剛蜘蛛って?(初心者並感)』

『説明しよう!金剛蜘蛛とは!』

『五臓六腑全ての部位が宝石級に価値の高い蜘蛛や。ナワバリがクソ広いし1回入ったらマーキングされる』

『はえーサンガツ』

『さっきから説明ニキ説明しようとするだけで実は何もしてないの好き』

『ゴリラかよこいつ』

『腕筋肉はあるけどバカ細いな』

『肌白!羨ましいわー』

『なんか興奮してきた』


「ちょっとみんなショタコン自重して」



『蜘蛛の巣が増えて来ましたね。そろそろいるかもです。』



と、もののべが言った矢先。


《キシャァァァ!!》


金剛蜘蛛が現れた。

身の毛もよだつような奇声を挙げながら、もののべのスピードに勝るとも劣らないスピードで追いかけてくる。


「うわぁ…いつ見ても気持ち悪いなぁ…。実際に会ったら泣いちゃうよ」


『ちょっと金剛蜘蛛乱獲してナオに送るわ』

『畜生行動やめろww』

『メンバーシップ2年やってて当然虫が苦手なのを理解した上でやるのサイコだろ』



『追いつく様子はないですね。もう一段階ギア上げます。』



『ファーwww』

『速度おかしいって』

『車みたいな速度出してる』



『ゴールはもう目前です!もっと速く、速く!』



『ダンジョンって道路交通法とかないんすか』

『(そんなものは)無いです。』

『ダンジョンはカオスだからね、しょうがないね』



『6層への扉が見えました!』


《キシャァァァア!!!》



「いけ、いけ!」


『うおおおおおおお!!!』

『後ろ来てる来てる!』

『あともうちょっと!』



『タッチ!ここでタイマーストップ!』


6層への扉をタッチするのと同時に、ストップウォッチを停止する。



『888888888888』

『👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏』

『すげぇぇぇぇ』

『志村後ろ後ろ!』

『まだ終わってない』


「もののべさん!後ろ!」



『……さて時に皆さん、金剛蜘蛛がなぜ"金剛"と呼ばれているのか、分かりますか?価値が高いから?それもあります。脚の殻が硬いから?残念。……本当は、別の意味があるんです。それは──』


後ろへ迫ってきていた金剛蜘蛛へ、振り向きざまに右腕を振るう。


『射出され、乾燥した糸が──』


《ギュウッ!?》


飛びかかっていた金剛蜘蛛の腹を右腕が捉え、貫く。飛び散る虫汁、そして数百万の価値はあろう臓物達。

一撃で金剛蜘蛛は絶命し、素材へと姿を変える。



『…まるで金剛石、ダイアモンドの如き硬度へ硬質化するからなんですよね。』



そう言って、ストップウォッチの数字へと視線を移す。



『さて、記録は16分25.3秒。惜しくも自己ベスト更新とは行きませんでしたが、かなり良いタイムではないでしょうか?では完走した感想ですが、今回はかなりイレギュラーな事態が──』



そう、なんでもないかのようにまとめに入り始める。

その形容し難いあまりの異常性に、全員息を飲んだ。


「もう、凄いとかそういうレベルじゃないよこの人……。」


そう、うわ言のように呟くナオ。


『なんで埋もれてたの?なんで埋もれてたの?(大事な事なので2回言いました)』

『ヤバいでしょ普通に』

『糸どうやって取ろうとか言ってる場合か』

『素材も取ろうとしない…』

『糸取らんでええから素材取れ』

『ナオから流れてきたリスナーがめっちゃコメントしてるのに1ミリも気付かないのどうなってんだ』


「もののべさんか…一瞬しか姿見えなかったけど、どんな人なのかな…?」


『ナオたそ目キラッキラやん』

『どっかで見たことあると思ったらヒーローショー見た後の息子の目と同じや』


「ち、ちょっと私もコメント打っとこ…。ライブハートさんから怒られちゃうかな…?でも謝ればいいや!えいっ!」


『ナオ!やるんだな!?今!ここで!』

『あぁ!(気付くか気付かないかの)勝負は今!ここで決める!』

『いったーーー!!』

『しかし気付かないもののべ氏!』



『───と、まぁこんな感じでしょうか。……あ、そうだ、コメント欄全然見てなかった。ごめんなさい。わ、結構コメントが…って、え?』



『お』

『気付いた』



『あ、え?え?え?ど、同接15万って、え?』



『ファーww増えすぎやろww』

『今見たらTiwtterでクッソバズってて草』

『buzzっちゃったか』

『もののべ氏固まっとるやん』

『*しばらくお待ちください』



『えちょっと待ッ…え、ナオさん!?ナオさんいる!?てかナオさんのリスナーさんがいっぱい!?助けた?いつ!?』



『気付いてなかったのガチ草』

『轢き逃げ…ってコト!?』

『【悲報】もののべさん、ただの轢き逃げ犯だった』


「気付いた!気付いた!やっっった〜〜!!認知もらった!嬉しい〜〜〜!!!」


『限界オタクと化したナオ』

『ガチ恋してね?』

『は?キレそう』

『ワンチャンスも無いくせに何故付き合えると思ってしまうのか』

『推しの幸せを素直に喜んで祝福するのがオタクだよなァ!?』


「コラボしたいなぁ〜!ここで待ってたら会えるかな!?」



『え、えと。皆さんごめんなさい、時間押してるので配信終わりますね。良かったらチャンネル登録してって下さい。じゃあ…緊急脱出装置使って戻ります。ばいばーい?』



終始困惑した様子で、もののべは配信を閉じた。


「……」


『速く帰ろうね♡』

『お邪魔します。もののべがナオさん助けたってマジですか?』

『お、もののべさんのリスナーさんか?すげぇな、古参勢名乗れるぜ』

『ずっと合成とかだと思ってたんですが…あの強さ、本当だったんですね…。』


「古参勢!?いいなぁ!いいなぁ!私も古参名乗れるかな!?無理だよね!死のうかな!!」


『さっきまで死を恐れていた女の姿か…?これが…?』

『軽率に死ぬとか言わないで』

『明日はダンジョン行かずに雑談にしよう?』


「毎日ダンジョン行く!次会ったら絶対お礼言って、素材渡して、コラボしてもらう!!とりあえず、1層まで走ろう!!!ゴーゴー!!!」


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RTA走者は基本的に淫夢語録とかスラングで喋る傾向にあるので、それに則って物部くんに「心配はゴム用ですね」とか言わせようとしましたが流石に自重しました。


スパチャの描写も入れたかったのですが、話の進行がgdるんでやめました。書いてないところでスパチャされてるってことでここはひとつ…。

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