第6話 異変%
カクヨムコンテスト始まりましたねぇ。うへー、熱気が違いますよ熱気が。年に一度のお祭りですからね。
投稿の数に埋もれないように沢山書かないとですね……
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カツーン、カツーンと足音が石畳の通路に反響する。壁に突き刺された光源による申し訳程度の灯りで照らされてはいるものの、あまり頼りにはならない。
ナオさんが手に持っているランタンが、この配信の照明だ。
「ランタン持ってきて正解でしたね。」
「ホントにね!よく持ってきてたねぇ、お姉さんがよしよししたげる!」
「結構です。」
こうしてことある事に撫でたりしようとしてくる。距離の詰め方を間違っているのでは無かろうか。
『避けるの早すぎて草』
『視点が一瞬で移動しやがった』
『スキルか?』
『一切視点にブレを出さない加速系のスキルってなんすか』
「まぁ下調べの時点でここはあまり開拓は盛んでは無さそうでしたし、もしかしたら灯りが充実してないかもと思ったんですよ。」
「へぇー。ダンジョンって下調べするんだ。」
「えぇ……」
眼をパチクリさせながら後ろ歩きをするナオさん。何をするにしても絵になるので、撮ってる側としても楽しくなってくる。
「そう言えば、例のマネージャーの人ってどうなったんです?」
ふと気になったことを聞く。ナオさん自身も𝕐で『おや?マネさんはどこへ👀』と言ってたし、聞いても問題ないだろう。
「あ、あぁー、マネさんね……。うん。えっと。」
「?」
そう切れの悪い言い方をするナオさん。チラっとコメント欄を見ると──
『クソマネね。うん。』
『いい仕事だったな。』
『久々にやり甲斐のある仕事したわ。』
『あの後飲んだコーヒーが異様に美味かったわ』
「あ、やっぱ言わなくて大丈夫です察しました。」
ところで、と転換。
「そこ右です。」
「もうちょっと早く言っダァ!?」
「そっちは壁です。」
「くぉぉぉぉ……それももっと早く言って欲しかったかな……」
後ろ歩きをしていた弊害により壁に頭を強打し、後頭部を抑えながら悶える。
『ナオ虐助かる』
『五大栄養素』
「……自業自得です。」
「気の所為かな?段々ともののべ様の私の扱い酷くなってる気がするんだけど。あ、でもそのジト目で見下ろされるの結構イイ……」
「ひえぇ」
『可愛くて草』
『そういうとこやぞ』
『あれもしかしてナオちゃんって結構変態じゃね?』
『おうもしかしなくても変態だぞ』
『あそこまで全面に変態を出すってことはもののべ氏は相当ナオの好みの顔って事や』
『て事はショタ顔かロリ顔か……』
「おいみんなうるさいぞ!」
あまりの言われっぷりにご立腹な様子。
リスナー達も慌てて話題を変えた。
『この人って男なん?女なん?』
『声と身長からして女くね?』
『アーカイブ見ても特に言及はしてないな』
『昔からもののべの配信見てるけど分からん』
『古参アピ乙』
『ボクっ娘?』
「あぁ、そう言えばもののべ様って雄なの雌なの?明言してないよね。微妙に判別つかない……」
「もうちょっと言い方っての無いんですかね。」
ひとしきり痛がった後に立ち上がり、隣を歩き始める。
『雄雌て』
『ほら、ナオのオブラートってもう破けてるから……』
『様って何?』
『初見だとショタ言うてたけど』
「それはその、あれだよ。私のショタセンサーが……実際にご尊顔を見たらもう分かんなくなっちゃったけど。」
『生粋のショタラーナオが判別つかないのか』
『声はどっちとも取れる。♀として聴いたら女っぽいし、♂として聴いたら男っぽい。』
『一度で二度美味しい』
『そんな橘さんみたいな』
『剣崎、出てけ、ゲゲゲー……1度で三度美味しい。さすが橘さんは一流だな』
「あ、別に非公開ってなら無理な詮索はしないよ?ごめんねちょっと興奮してて……ちょっと落ち着こう。」
そう言って深呼吸する。
「いやそう言う訳では……」
「ならいいじゃん!おせーてよ!」
『落ち着け』
『情緒ぶっ壊れてんだろ』
「どっちなのー?お姉さん気になるな〜?」
『♂♀どっち!?』
『アリ?ナシ?』
『ついてる?ついてない?』
『わっふー!』
『お○まいでワロタ』
と、リスナー達も盛り上がりを見せる。
「まぁ減るもんでもないし……いいか。」
どうせ顔写ってないしね。
ナオさんとコラボしているのが男と知られるのは少し怖いが……。ま、何とかなるっしょ(適当)
『♀に賭ける』
『45000:♀に花京院の魂を賭けよう』
『ナイスパ』
『花京院の魂の価値四万五千円かい』
『女の子だ、間違いない』
『もののべは男の娘。私の心のチソコがそう言ってる。』
『15000:♂に今月の水道代賭ける』
『水道代一万五千円で草』
『一人暮らしだとしたらバチクソ使ってて草』
「わわわ、みんなスパチャありがとね!無理のない範囲で!」
怒涛の勢いでスパチャが飛び交う。目まぐるしく更新されるコメント欄はまさに圧巻だ。
「それじゃあ!もののべ様の性別公開までー?さんさん、にーにー、いちいち、キュー!」
「えー、僕の性別は───」
『wktk』
『様って何?』
「───男です。」
一瞬、ほんの刹那。コメント欄の更新が止まる。そして次の瞬間、爆速で更新され始める。
『なん……だと……』
『【悲報】花京院の魂、逝く。』
『は?好きだが?』
『性癖ズドン』
『ほら言ったじゃん!ほら言ったじゃん!』
「わ、凄い。同接数凄い増えてますよ。」
コメント欄の上部に表示された同接数を確認し、ナオさんに報告しようと振り返る。
そこで、やっと僕は気付いた。
「……もの……え?おと……」
「あれ、ナオさーん?」
『※しばらくお待ちください』
『Now Loading……』
『少女祈祷中……』
『男の娘に耐性の無いナオが固まっちゃった』
「……え?え?」
困惑したような声を出しながら僕の顔を見る。そこから段々と視線を下げていき──
「……何見てるんですか。」
「何ってそりゃあナニ……」
「え、すみません皆さん、この人ってライブハート清楚枠でしたよね?」
『"最初は"ね……』
『これは汚清楚』
なんてこった、僕も割とナオさんの配信は見てる方だと思ってたのに全然知らなかった。
「男って事はさ、付いてるん、だよね?」
「まぁ、はい。」
『まずいですよ!』
『仮にも初対面の人にとんでもないセクハラするな』
「でも本当は付いてないのかもしれない。」
「……ん?」
『ん?』
『ん?』
『流れ変わったな』
『流れ変わったな』
『流れ変わったな』
『BGM:UNICORN』
『BGM:RX-0』
『どっちかにしろ』
『どっちもUCだからセーフ』
顔も俯かせたまま、ゆっくりと近付いてくる。
「そんなのもののべ様が勝手に言ってるだけだし、もしかしたら嘘を吐いてるって可能性もある。」
「おお?」
『何言ってんだこいつ』
『公式が勝手に言ってるだけ理論で草』
『もののべ逃げて超逃げて』
『なんて事だ、もう助からないゾ♡』
「なら、本当にもののべ様が男だって事を証明するために──」
ドン、と背中に軽い衝撃。
いつの間にか壁まで追い詰められたらしい。
ナオさんが顔を上げる。
その目はあまりにも眩しく輝いていて──
「確認、しなきゃね。」
「は?」
そう言って勢いよく逆手を繰り出す。
狙いはただ一点、それは我が聖剣──
《オ゙オ゙オ゙オ゙!!!》
「「ッ!」」
その瞬間、奥から赤色の巨体が地面を揺らしながら走ってきた。
それに気付くや否や、ナオさんは僕の股間へと向かっていたその右手を素早く自身の左腰に収められた剣の柄へ。
対する僕はカメラを上へ投げた後、右手を右腰裏へ回し、仙骨辺りで十字を描くように収められた双剣の一対の柄を握る。
そして、ナオさんは首を。僕は腹を。
同時に、そして一息に、両断した。
《オ゙マ゙……?ヴ、ア゙ア゙……》
血飛沫を上げ、制御を失った身体は崩れ落ちながら素材へと姿を変える。
ふう、と息を吐きながら剣に付いた血を払って収め、落ちてきたカメラをキャッチする。
「レッドオーク、ですね。」
「なんてタイミングで……後ちょっとだったのに。」
「ついでにこっちも切ればよかったかな。」
『……???』
『カメラ投げて草』
『ビューティフォー』
『何が起きたんや?』
『まさかダンジョン配信の戦闘を上から見ることになるとは』
『ナオが首切ってもののべさんが腹を切った。』
『しかも同時にな』
『もののべ速すぎてまた残像しか見えなかったんだけど(憤慨)』
『頭おかしなるわこんなん』
『やっぱ強いな』
『もののべ氏は言わずもがなだけど、ナオだってAランクの中でも指折りの実力者だもんな。』
「……でも、おかしい。」
「……そうですね。」
どうやらナオさんも感じていたらしい、違和感。このダンジョンに入ってからずっと感じていた、不自然さ。
そう、それは──
「切る前は私の横にいたはずなのに何故切った瞬間目の前に?」
「今の今までモンスターと接敵しなかった……」
「「……」」
「「え?」」
『理解出来ぬ。』
『なんて?』
『確かにもののべ氏がナオちゃんの前にいる』
『つ
ま (ナオ) (もののべ)壁
り ↓
こ (オーク) <グワーッ壁
う (もののべ)バッ 壁
や ファッ!?>(ナオ) 壁』
『縦型図解ニキ草』
『そういやもう30分くらい配信してるのにこれが初戦闘だな』
『図解ズルいってww』
「ええと、前に出てるのは僕のスキルによるものなんですが、その話は一旦置いておいて。」
「あ、スキルの詳細秘密にしてたんだっけ。ごめんねぇ。」
そう言いながら、レッドオークの素材を回収するナオさん。
「それはいいですけど……あのレッドオーク、妙なんですよ。」
「妙?」
回収した素材の半分程を僕に差し出しながら、首を傾げる。
素材を受け取りつつ、頷く。
「はい。あのオーク、僕らの事を見てなかったように思えて。それ以上に何か慌てているような……何かに追われているような。」
「……待って、もしかして。」
「そのまさかです、"侵攻"が起きてます。」
『ほう?』
『侵攻ってなんぞや』
『説明しよう!侵攻とは!』
『なんかの手違いで新たに生成された核がダンジョン内を掌握しようと在来種のモンスターを殲滅しようとする現象や。』
『ダンジョンにとっての癌細胞やな』
『ほーん、核ってなんや』
『説明しよう!核とは!』
『ダンジョンコアの事や。これが無いとダンジョンは維持できないから、ダンジョンにとっての心臓みたいなもんや。』
『説明ニキ頑なに説明しないのガチ草』
「1層のモンスターが殆どいない事を考えると……事は急を要するかも知れません。今日ここに来なかったら危ない所でした……。」
「企画がぁ……」
「ははは……続行は難しいですね。とりあえず今日は配信は終えて、"組合"に連絡をしないと。」
ガクリと項垂れるナオさん。しかし、すぐに顔を上げる。
『あ、やべえ』
『この顔は……』
『変なこと思い付いた時の顔だぁ』
「もののべ様!」
「嫌です。」
「まだ何も言ってないけど!?」
「どうせ侵攻を止めるとかいう企画でもするつもりでしょうよ……」
「うぅっ!もののべ様の私への解像度が妙に高い!」
『これは残当』
『侵攻阻止企画とか前代未聞過ぎて草』
『素直に非常通報すべき』
「わ、私だって"組合"の侵攻阻止作戦に参加した事あるし!」
「知ってますよ……半年前のA-4ハラマチダ侵攻阻止作戦でしょう?」
「そうそう!だから侵攻阻止なんていろはのいだよ!」
「いや、侵攻のレベルが分からないのでダメです。」
「後生だからぁぁ!!」
「むぅ……」
自分はあくまでナオさんのチャンネルにお邪魔している身。多少の我儘は聞き入れるべきか……?いや、しかし……
「ひとまず、菊月さんに連絡を取りますよ。」
『菊月って誰や』
『ナオのマッマ』
『LiveHeart🔧:誰がママですか。』
『やべぇ公式がいるww』
『逃げろ逃げろww』
「あれ、菊月さんいるよもののべ様」
「ホントだ。菊月さん、ご覧の通りですー。」
『LiveHeart🔧:とりあえず非常通報を。ナオともののべさんには調査をお願いします。危険だと判断したら緊急脱出を。』
『最大限の譲歩が見える』
『ナオの我儘には慣れっこやからなキックー』
『LiveHeart🔧:誰がキックーですかキックしますよ』
『ごめんて』
「……もののべ様?」
そう、星のようにキラキラした笑顔で自分の方を見るナオさん。
「……あー、あーあー分かりました。分かりましたよ。やります。ただ、ナオさんに何かあったら僕がヤバいのである程度調査したらすぐに戻りますよ。」
「分かった!じゃあ作戦立てよ作戦!」
ウィンドウを出し、メモ帳を起動するナオさん。
「はい。あと、様はやめてください。呼び捨てで大丈夫ですよ。……言おうか迷いましたが。」
「え、なんで?もののべ様は命の恩人だし推しだし好きぴだし!」
「は?何を言って……」
『ふぁ』
『爆弾発言で草』
『久々に……キレちまったよ……』
『うしやるか……特定』
『落ち着けダークサイド』
『最近大人しいと思ったらまた湧いてきやがった』
「いやあのこれは違うんすよナオリスさん菊月さん」
『LiveHeart🔧:分かってますよ……ナオ、自重して下さい』
『分からんが?』
『理解出来ぬ。』
『理解出来ぬ。』
『驕るな──!』
「はーい、ごめんなさーい」
「マジ寿命縮むんでホント、勘弁して下さい……」
「じゃあ……もののべ……さんくんちゃん!」
「欲張りセット?」
「もののべちゃん!そっちも敬語じゃなくていいよ!」
「ちゃん!?よりよって!?……敬語なのはしょうがないです。身内にしかタメ口出来ない性なんです。」
「じゃあもののべちゃんの身内になる!」
『LiveHeart🔧:ナオ。』
「ごめん」
─────────────────────
─補足─
侵攻されたダンジョンは全く新しいダンジョンとなり、元の等級よりも高くなる場合が多いです。
なので、侵攻前の推奨等級の人が入った場合
「等級違うやんけ!ホゲー!!(死)」みたいな死亡事故が多発します。こわこわ。
ところでブルアカ最終章の箱舟攻略戦で急に推奨レベルが跳ね上がって詰んでるんですが誰か助けろ下さい。
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