第10話 RTA走者の本気%

(他のユーザーの皆様の作品を読みながら)うわっ……私の前書き後書き、自我出し過ぎ……!?

それはそうと10話です。正直3話くらいでエタるかと思ってました。

皆様ありがとうございます……!

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門を開け、さぁいざゆかんと踏み出そうとすると。


「あ、もののべちゃん待って。」


「はい?」


ナオさんに引き止められる。

亜空間を開き、中から何やら小型のカメラを取り出し、僕に差し出す。


「はいこれ。」


「これは?」


「サブカメラ。2カメあった方がいいでしょ?戦略的に。」


成程確かにそうだ。僕が陽動で、ナオさんがロマン砲ぶっパ。二手に別れることになる為配信の都合上2つあった方がいいのかもしれない。


「えぇと、でもその場合僕の配信開くことになりますけど?」


「いいよいいよ、菊月さんダメって言ってなかったから。」


「……そうですか?じゃあ開きますよ。」


ウィンドウを開き、カメラを接続して自身のアカウントから配信を開始。


「映ってます?大丈夫です?」


『見える』

『聞こえる』

『にゃんぱすー』

『手際いいな』

『枠タイで草』

『"2カメ"ってなんやねんww』

『もっとこう……あったでしょ!?』


「うわ、来るの速……。えぇと、深層だと𝕐が電波届かないので、皆さん宜しければ告知と拡散お願いします。」


『任せとけって』

『ライブハートのメンツみんな告知しててワロタ』

『喋ってないけど多分皆見てるんやろな……。』

『守護モンスター攻略戦、固定で見るか前線で見るか』

『酔いそう(小並感)』


「……まぁ、気は抜けないのでカメラは気遣えないですね。これの技量によるかも。」


そう言いながらポーチからまた1枚、御札を取り出す。


「ん、またヒトガタ出すの?」


「いや、これは違うやつです。」


カメラにペタリと御札を貼る。

するとまるで、カメラが意志を持ったかのように浮かび上がり、僕を追尾するようになった。

即席追尾ドローンカメラだ。希物って便利。


「これも友人が制作したものです。」


「もののべちゃんのご友人って一体……?」


はい行きますよ、と急かし、コツコツと足音を鳴らしながら門の中へ這入っていく。


その先には大きな、まるでドームのような石造りの広々とした空間が広がっていた。


その中心地に、"ソレ"はあった。


「あれが、侵攻核……!」


静脈血のような暗赤色に淡く輝く背中合わせのピラミッド形状をしたやや大きめな物体。

あれがダンジョンにとっての癌細胞とも揶揄される、"侵攻核"だ。


宙に浮かんでゆっくりとクルクル回転していたソレは、外敵に察知したかのように動きを止め上昇を始める。

一定のところで止まり、強く発光。それと共に急激な速度で膨張を始めた。


「……でっか。」


『デカすぎんだろ……』

『ンアーッ(≧Д≦)侵攻核がデカすぎます!』

『❗️』

『やめなって言ってるでしょ!?配信で淫夢は恥ずかしいことなんだよ!?』

『配信じゃなくても恥ずかしい定期』

『それだともののべちゃんが恥ずかしい人みたいになるだろ』


膨張した核はあっという間に東京ドーム1個分はあろう室内の殆どを埋めつくしてしまった。


僕とナオさんは端に移動し、冷静に"その時"を待つ。


「……。」


ピシリ、と亀裂が入る。中から白い光が漏れたその線は、次第に全体へと亀裂を広げていく。


まず最初に、脚と思わしき物体が膨張した核の下部を蹴破って露出させる。

次に両腕を外へ突き出し、バリバリと轟音を鳴らしながらその巨体を押し上げ核の外へと這い出てくる。


《グルルルルル……》


青い翼を大きく広げ、太い二脚で自立。

ターコイズブルー色の鱗で覆われた巨体から、もはや冷たいと言うにはあまりに程の冷気を孕んだ蒸気を吹き出し、唸り声を上げる。


「ドラ……ゴン……。」


全長は6mほどはあろう、大きな身体。あれが、侵攻核の最後の切り札。最後の砦。


守護プロテクトモンスター。


紅い瞳が僕ら2人を捉え、睨みつける。


「プライモーディアル・アビサルフロスト・リントヴルム、ですね。」


「……よく分かるね?私はさっぱりだよ──待って、"プライモーディアル"って聞いたことあるけど……」


凍える程寒いというのに、一筋の汗を流す。


「スキル基礎四属性を担う、ダンジョン最古のモンスターの冠名ですね。……アレはその中でも別格。モンスター序列最上位、ドラゴン種のプライモーディアル。──"原初古龍"です。」


「ッ!」


ニタリ、とヤツが笑ったような気がした。


「ランクはSS、いわゆる"変態"。……氷系では唯一無二の強さを誇る古龍です。」


フロストは原初の氷……即ち冷気の力を宿した古龍。冷気に当てられ身体が上手く動かなくなってしまう為、僕とは明らかに相性が悪い。


「氷系は……私でも削れるか分かんないかも。」


そう困ったように頬を掻くナオさん。


「──僕のミスです。下層には氷系のモンスターがいなかったので、必然と守護モンスターも氷系ではないだろうと思っていました。」


蓋を開けて見ればどうだ。魔境たるSSランクの中でも氷系においては右に出る者はいない、古龍が鎮座している。


──ことダンジョンにおいては、無敵など存在しない。一見そうに見えても、相性次第で優劣などは簡単にひっくり返ってしまう。

したがって、ランクの低い者が高い者に勝つにはこの点に重きを置く。対人であろうと対モンスターであろうと、それは変わらない。


ランク的には前遭遇したドラゴンと同格。しかしアレは、自分の使う"無属性"の攻撃に弱い炎属性であった。その事を把握していたため、あの時は対して気にも止めなかった。

だが今は。

"氷"と"無"は相性最悪。どのくらい悪いかって言うと米と牛乳くらい。


「……諦めるのはまだ早いよ。確かにアレは圧倒的な格上だけど。私じゃあ逆立ちしても勝てっこないけど。もののべちゃんなら大丈夫!」


そう、寒さからか、あるいは恐怖心から震えている身体でそう笑って言う。

ただえさえ、ナオさんは例の事件でドラゴンにはトラウマがあるだろう。

だのに、こうも気丈に振る舞う。


『美しい……』

『素敵だ……♡』

『やはり人間は、素晴らしい……♡』

『様子のおかしい人なのか旦那なのかハッキリしろ』

『どっちも様子おかしい定期』


「うん、君ら落ち着き過ぎじゃない?今からさ?君らの推しがさ?死ぬかもしれない戦闘をしようとしてるんだよ?慌てふためけもっと。」


『うわぁぁぁあぁぁああ!!』

『恐怖心 俺の心に 恐怖心』

『行かないでナオちゃぁぁぁぁぁぁああ!』

『死んじゃやだぁぁぁぁあああ!!!!』

『うえぇぇぇぇん!!!!』


「うわぁ!急に取り乱すな!」


「……緊張感とは?」


リスナーとわちゃわちゃと談笑するナオさん。どう見ても、これから決死の戦いをしようとしている人間とは思えない。


……いいな、こう言うの。

ふと、そう思った。


こうやって、張り詰めた心を解してリラックスさせてくれる人達がいる。……多分素なんだろうけど。究極の他人事根性なんだと思うけど。

でもそれって、とても素敵な事ではなかろうか?


……別にいつもの配信スタイルを後悔する訳ではないけど、こういう感じの配信も憧れる。


兎にも角にも、2人で生き残らなければ。


「……事前の作戦通り、僕がタゲ取りの翁をします。ナオさんは僕を信じて固有を限界までチャージしてください。」


「あ、うん!」


限界なんてあるのかどうかは知らないが。


『平気なの?』

『僕を信じろ』

『なんですって?』

『僕を信じろ!』

『……いいわ。』

『アホーニューワーー!!!』

『アターラーシーイセーカイー』


「そこうるさい」


『ごめんなさい』

『申し訳ございません』

『ごめんて』


プライモーディアル・アビサルフロスト・リントヴルム。長いな、フロストと呼ぼう。

フロストは一挙一動一投足に液体窒素よろしく超低温バフがオマケされている。


特に、ドラゴンにはお馴染みの技、"吐息ブレス"は触れただけで急速冷凍される恐れがあり、長期戦になるほど凍傷のリスクが大きくなる。

それに加え、際限なく室温が下がって行くので……大気中の空気が固体化して無くなる、手足が悴むなどの事象により身体的パフォーマンス能力も低下して勝利が望み薄になってしまう。


……本当に相性が悪い。


一撃でも食らったらアウトで、戦いが長引いてもダメ。

勝利条件は場合によるが、1つは普通に倒すこと。1つは増援に氷に強い人がいること。

この2択だ。


冷静に考えれば、ただの無理ゲーだろう。

……でも、不可能に見えて──


「──いつもやってんだよね、その無理ゲー。」


パキパキ、と骨で音を鳴らしフロストを正面から睨む。


一撃喰らったらアウト?

戦いが長引く程不利?


……で詰むわけないでしょ。


「緩い。緩すぎる。」


そう言って、ニヒルな笑みを浮かべる。


そうだ、何を弱気になっているのだろう?

こんなもん縛りにすらならないでしょ。

こちとらもっと過酷な縛りで開拓してるんだよ。


「律儀に待っててくれてありがとね。」


じゃあ御礼に、と言葉を紡ぐ。


「──キレーなお星様見せてやるよ!」


そして……いつもよりも更に速いスピード、自身が出せる限界速度でフロストの首元目掛けて飛んでいき──



バゴォン、と顎を蹴り飛ばした。



ホール中に響いたその重厚な音は、紛れもなく開戦の合図だった。


「──かっっった!!!」


ジンジンと足が微かな痛みを発する。

結構首を持っていく気概で蹴り飛ばしたのに、フロストは首を仰け反らしただけ。頭おかしいんじゃないか?


あまりの寒さに既に力が出にくい。帰ったら筋トレを本格的に検討しないといけないかも。


「もののべちゃん!尻尾来てるよ!」


空中で自由落下する自分に目掛け、体勢を整えたフロストが尻尾を大振りし叩き落とさんとする。


「ッ───!」


すかさず、固有を使い落下速度を倍速させ回避。

着地し素早くフロストの周りを旋回。


「あーらら、隙が無くなっちゃった。」


「ちょいちょいちょい、大丈夫なの!?」


「だいじょーぶです!いいから気にせず固有やってください!」


ナオさんが構えを取り、固有を発動するのを確認。

再びフロストの方へ視線を戻すと──


「アッブ──なっ!!」


右手を叩きつける予備動作をしていた為、素早くバックステップで避ける。

先程まで自分がいた場所に大きな手が叩きつけられ、地面が割れ、激しく視界が揺れる。


「なんのッ!」


着地した脚に力を込め、放出する方向をフロストに向け、身体を弾く。


「フンッ!」


《ガァゲギャギャ!?》


その勢いのまま、フロストの4本の指の内1つ。恐らく小指を足で粉砕する。


そのまま腕を駆け登り、その巨体の背中へと這い上がる。靴が凍っていっているような音がする──!

パルクールの要領で振り落とさんと暴れるフロストの背中を飛び跳ねて移動しながらいなす。

……どちらかと言うとノミかもしれない。やべ、言ってて惨めになってきた。


《ググクgggghhhh……》


暴れるのを辞めた瞬間、首筋へと執拗に攻撃を始める。

こんな小さい剣じゃ傷は付けられないが、何度も同じ所に攻撃すれば──!


ふと後頭部越しに、長い首から延びたフロストの顔面が移動するのが見えた。

あの方向は確か……ナオさんがいたはず。


「おいおい、僕は放置ってか!?」


少し跳んで離れてから首筋目掛け、双剣の片方を全力で投げ飛ばす。

が、それが刺さる事は無く。

カンと子気味良い音を鳴らし、明後日の方向へ弾かれていった。


──あ、さいなら……


じゃなくて。


空気凝固エアロックっ!」


後方にスキルによって足場となった空気の板を踏み、一気に加速。


首に向かって飛び蹴りを放つ。


《グゥゥuuuuu!!》


ウザったい、そんな顔でフロストが振り向く。


「無防備な女の人狙うんじゃないよっと!」


その強靭な鱗を貫く事が出来ず、ただ踏んづけただけになっている足を起点に素早く後方へとび、入れ替わりで逆足で着地。無理矢理重心移動。

再び跳んで、振り向いたフロストの眼球目掛けて双剣を──片方しかないけど──片手に突撃。


ガツン、という鈍い音と共に中途半端に剣先が刺さる。


《gggghhheeehhhhyァァァガガガガ!!!》


血は出てるし、フロストは叫びながらしきりに頭を降っている為効果はあるようだが……なんか違う。


足で眼球を踏みつけ、力任せに剣を引っこ抜きつつ離れる。


若干の浮遊感を味わいながら、着地。


後ろを軽く見ると、目を瞑ったナオさんが鋭い息を吐きながら、じっと固有によるチャージをし続けている。


「ケホッ、さーて……正念場、だね。」


ここまでの一連の動作を全てに固有を使っていたため、体力の消耗が激しい。


1つ、深呼吸。


落ち着け。ただ極寒に耐えつつ攻撃を全て避け、同じ箇所……左首筋に攻撃を当て続けるだけだ。そう難しい事じゃない。


瞬きの間にフロストまでの経路を構築し、走り出す。


地面を蹴り、右へステップ。

自分がいた所に大きなつららが突き刺さっているのに肝を冷やしながら、駆ける。


「遠距離攻撃できるスキル……なんか持ってたかなっ!?」


すかさず、脳内データベースを漁って探す。


「あんま無いですね……"巡り来る風ウインドシルフ"!」


手の平で風の棘を形作り、投擲。

風……所謂空気系はサポートが多く、それ単体での攻撃には不向きとされている。

だがそれでも、何かに使えるような気がして……色々と習得、進化をさせてきた。


(まぁ、あんま期待してないけど……)


《ギャウッ!?》


が、その考えは予想外の成果で塗り替えられる。

風の棘が首筋に当たった瞬間、大量の煙を噴出しながら怯むフロスト。


「……おや?」


目を見開き、しめたと顔をほころばせる。


「おやおやおや?」


再び、手で風を練る。


「"収束"」


伸ばした人差し指の先に球状で空気が集まる。それを鉄砲の様にフロストへ向け──


「"射出"」


固有……"倍速"がかけられた空気の塊は素早い直線軌道でフロストの首筋へ飛ぶ。


「……"発散"」


ボシュ、という音を放ち発散される空気。

それを極至近距離で喰らったらフロストは──


《ヴグガァァァァaaaaaaa!?!!?》


叫び声を上げながら大量の煙を噴出し、首を大きく振っていた。


"原初古龍"が一角、プライモーディアル・アビサルフロスト・リントヴルム。

初観測から今の今まで判明されなかった"攻略法"が、解明された瞬間だった。


そうして、そんな歴史的発見を果たした開拓者──北上物部は。

その少女のような可愛らしい顔立ちに合う一方で……どこか狂気的な感情を孕んだ笑みで。


「……見えた、活路!」


愉快そうに言い、更にこう言葉を紡いだ。


「そういえば、まだ言ってなかったですね。」


1呼吸。

そして。心底愉快そうに、こう宣言した。


「はーい!守護プロテクトモンスター討伐RTA、はっじまーるよー!」




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プライモーディアル・アビサルフロスト・リントヴルム(英名:"Primordial"Abyssal Frost Lindwurm)


ランク:SS

種族:ドラゴン

属性:純氷



概要

冠名となる"Primordial"は和訳すると"原初"となる。

その名の通り、スキル基本四属性において、最初期の純粋な氷の力を宿しているドラゴン種であり、原初古龍と呼ばれている四体のドラゴン種の内の一体。

過去出現確認回数は3回。しかしこれは全て生還者及び討伐したSSクラス開拓者による報告の為、実際の出現回数はこれよりも多いと推測される。



能力

原初なだけあり、至ってシンプルな凍結能力を有する。

常に絶対零度の冷気を放出しており、ひとたびその冷気に晒されれば一瞬で氷漬けになってしまう為、全ての行動・攻撃が確殺に近い。

それに加え、常に冷気を放出している事により徐々にダンジョン内の温度が低下していく為、戦闘が長引けばあっという間に凍傷及び冷凍保存されてしまう。


また、冷気の性質上本来有利になる筈の炎すら昇華され掻き消えてしまう。

まさに"原初"の名に相応しい、シンプルで強力な能力である。


討伐法

初観測なら68年程経つ現在でも、未だ明確な討伐法……どころか有効打撃を与えられる能力も判明していない。

強力な"固有"か、この先の進化の末にある新たな"スキル"に期待がされているものの、望み薄である。

月並みだが、やはり"原初"の力には"原初"の力で対抗しなければならないと思われる。

もしくは、何かちょっとしたライフハックの如き小さな灯台もと暗し的考えが、道を切り開く……のかもしれない。



歴史

初となる観測は約68年前。発見地は──……


────"組合"データアーカイブ

────項目:プライモーディアル・アビサルフロスト・リントヴルム

────執筆:氷室研究所所属 ドクター・セラフ



────────

(途中からコメントが無いのは書くのが面倒臭いとかそういう理由では)無いです。

なんか描写がダレそうなので……まぁ地の文が多いのでダレてるような気はしなくもないですが。



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