第9話 最後の制圧%
あけましておめでとうございます。本年度もよろしくお願いします……とでも言うと思ったか馬鹿め!此処で会ったが百年目、明日会っても百年目!死ねぇぇえい!!!!
って言いながら友達に飛びかかったらラリアットされました。ははぁん、ツンデレ?
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涎を漏らし、白目を剥きながら襲いかかるモンスターを切り伏せるナオさん。
「──もののべちゃん!」
「はい!"侵攻"による瘴気の濃度がここまで濃いということは、この層に核があります!」
現在、最下層が五層。その最奥を目指し、道を駆ける。
『なんでこんな通路真っ赤なんや?』
『説明しよう!』
『フロア全体が赤黒く染まってんのは侵攻によるもので、瘴気と呼ばれてるで。これに当てられたモンスターは知性を失う代わりに能力が全体的に向上するんや』
『説明ニキまだいたん?』
『帰れや』
『解説ニキで十分や』
『お前の席ねーから』
『ボロクソで草』
《グガァァァ!!!》
「邪魔ッ!」
《ガバァ!!?》
横道から飛び出してきた毛むくじゃらのモンスターを見るなり、双剣の片方で頸動脈を撫で切りにしてそのまま走る。モンスターにも生物学が通用するので、弱点が分かりやすいのはとても助かる。
『強い(つよい)』
『判断が早い』
『運転手ばりの即断即決』
『いいセンスだ』
『三者視点で改めて分かるもののべの動きのやばさ』
「ビーストオーク……このダンジョンにはいないはずのモンスターです。」
「それって、核近くにしか湧かないAクラス上位のモンスターだよね?じゃあ核結構近いね!」
隣を走るナオさんが言った事に頷いて返す。
「はい、侵攻により階数が変わっていたり、規模が変わっているという懸念もありましたが……どうやら杞憂だったみたいですね。」
とは言っても、構造は全くもって変わってしまっているが。
これではどこに核があるのか分からないと思うかもしれないが、その心配は要らない。核の場所は生息するモンスターの種類で分かるのだ。
モンスターには、核に近ければ近いほど強いモンスターが生息する。例えるのならばそう、家が御所に近ければ近いほど偉いみたいな。
これはただの京都特有の住んでる場所マウントだけども……ダンジョンだと、それは明確な実力の差だ。例外は無い。
故に、接敵するモンスターのランクを鑑みれば核の所在を割り出すのはそう難しい事では無いのだ。
「あ、壁がある……ぶち抜くか!!」
「了解です、援護します。」
そう言ってナオさんは剣の柄を握り、構える。距離を詰めるため軽く跳び、そのまま地面を滑りながら目を瞑る。
するとどうだろう。彼女の周りにオレンジ色のオーラが出てきたではないか。
「ハアァァァ───……」
「"倍速"、対象は固有のチャージ。」
ナオさんの背中に手を当て、固有を使う。
───本来、自己強化系スキルのアウトプットはそう簡単な事では無い。固有も同じ事だ。しかし、その難技をいとも容易く…という訳では無いが、咄嗟に使う。
これは紛れもなく、物部が生まれ持つ極めて高い類まれなる集中力の産物だろう───
カキン、と剣が鳴る。それが鞘から剣が少し抜刀された音だと気付くや否や、素早くナオさんから離れる。
その瞬間、彼女は素早く完全に抜刀し、目にも留まらぬ速度で刀身を壁に叩き突いた。
あ、貫かれたんで壊れますね──そんなノリで破壊される壁。
……通常であれば、ダンジョンの壁を壊すのは至難の業だ。どれくらい難しいと言うと僕でも30分位かかるレベル。固有込みだと15分。
そんな事をものの数秒でやってのけるのは、彼女の高威力・高火力な固有のお陰だろう。
大きく空いた穴に飛び込み、再び駆け出す。
邪魔な壁を壊して核まで突っ切る。これが核の所まで行く最速の作戦内容だ。
『正に脳筋』
『ナオの固有って改めて反則だよな』
『なんかチャージ早くね?普段ならもっとかかる』
『もののべさんが固有をナオちゃんに使ってるんやろ』
「…凄いね、ホントに。もののべちゃんの固有って他の人に使うものじゃないでしょ──って!鼻血出てるよ!?」
鼻元に触れ指を見ると、なるほど確かに血が付いている。
グイ、と手の甲で鼻から出た鼻血を拭き取る。
「いえ、気にしないで下さい。ただの僕の固有のリバウンドですから。」
自分に使うのならばまだしも、他者に固有を使うのはそれ相応の負荷が生じる。
ここに来るまで数回、既に壁をぶち抜くのに同じ事をしているから、遂に身体の許容範囲を超えたのだろう。
……けど、支障は無い。
「なーに、鼻血が出ただけです。気にせず行きましょう。」
「うーん……」
イマイチ納得がいかないと言うように唸るナオさん。
『鼻血助からない』
『そりゃ負荷はあるよな』
『リョナだと思うと興奮する』
『鼻血性癖ニキ自重してもろて』
「ナオさんの固有ってこういう時使い勝手いいですよね」
「ロマン砲みたいな物だけどね。もののべちゃんの固有があればチャージも早いんだけど、流石にもう使いたくないかな……。」
「時間無いんですから、必要経費だと割り切ってください。」
そう、ナオさんの固有。その詳細を説明するのをすっかり忘れていた。
ナオさんの固有は"
その能力の内容とは、特定の体勢でいればいるほど、段階的に繰り出す技の威力が上がっていくという物だ。
ちなみに、上限は無い。
……とんでもないね。
しかし、チャージ中はスキルを解除する事が出来ず、一切の防御が不可能で隙も大きい諸刃の剣でもある。
「──ところで、もう少し速く走れますか?」
「無理無理無理!これでも結構無理してるよ!?」
身体強化系のスキル5個くらい使ってるんだよ!?……と抗議するナオさん。
同じスキルの多重使用は出来ないからねしょうがないね。
「うーん、いけると思ったんですが。」
「むーりー!これが限界!」
『既に脚ぶっ壊れかねない速度なんですが……』
『スピードの向こう側でも目指してんの?』
『これでもまだ遅いとか……サイレンススズカなの?』
『どこまで行っても逃げるのか……(困惑)』
『逃げることは挑むことなのか……(達観)』
『もののべちゃんかわいいなぁ……(視姦)』
『通報した』
『おさわりまんコイツです』
「エンカウントするモンスターの量も多くなってきましたし、もう分かれ道もないので……多分この先が核だと思います。」
「マ!?急げ急げ!」
「だからもっと速く走ろうと」
「それは無理!」
「えぇ……」
一心不乱にモンスターを斬り倒す。
斬っても斬っても矢継ぎ早に迫ってくるモンスター達を断ち切りながら、ひたすら口を動かす。
「よいしょっ!……キリが無いですねぇ!どんだけいるんですか!?」
「わっかんない!集まってきてるって言うより湧いてる!」
「核が身の危険を感じて生成しまくってるって事ですか!?」
「多分!前侵攻阻止作戦やった時もなってた!そん時は核の体力が切れるまで皆で狩りまくってたけど!」
「ひえぇ、じゃあ2人だとジリ貧じゃないですか!!」
「そうだね……ってか姿見えないのにあちこちから声するの不気味なんだけど!?」
不気味とはなんてことを。と壁を蹴りモンスター目掛けて跳びながら心の中で呟く。
ただ横幅5m、縦幅4m程の通路を縦横無尽に跳び回っていただけではないか。
「姿は見えるでしょ!」
「確かに見えるっちゃ見えるけども!」
「それは残像だッ!」
「だから言ってるんだよ!?あと瞬きの内にモンスターの首がどんどん飛んでくのも怖い!」
「なんと心外な!?」
『実際それは分かる』
『毎秒3体の首が飛ぶの殺戮マシーン過ぎるでしょ』
『これが人気の殺戮の○使ってやつか……』
『流石のザッ○さんも引くと思うのですが』
『阿鼻叫喚で草』
『モンスターの叫び声と斬る音と血飛沫の音で塗れた地獄配信ってここですか?』
『地獄配信……チラ○アートかな?』
『それパラ○ーシャルじゃね』
ダン、ダンと音を鳴らして天井を蹴ってモンスターのアタマ目掛けて双剣を突き刺す。
絶命すらも確認せずにまた天井へ跳び、双剣を突き刺して進行方向を変えて壁へジャンプ。勢いを殺さぬように反対の壁に着地し、そのまま壁を一瞬走り、再びモンスターへと跳ぶ。
《ガャウ?ガッ》
《カギャゲッ!》
《ベバグッ》
地面を走り、何が何だかわからないと言ったアホ面を浮かべたモンスター達の首を次々に切り落としていく。
瘴気により強化された感覚が、自身が切られているという事を察知し伝達して悲鳴を挙げる。が、その悲鳴も双剣で喉から取り上げていく。
『エッグ……』
『一方的な狩りだなこりゃ』
『効率を追い求めるRTA走者の鑑』
『RTA走者が縛らずガチプレイしたら本格的に化け物になるわかりやすい例』
『ホンマになんで埋もれてたんやろなこの人……』
「あれ、なんか僕もしかして悪者みたいになってません?」
「もしかしなくてもなってるかなぁ……よっと!」
引き気味なコメント欄をチラ見しながら、直剣でモンスター達を切り落とすナオさん。
「モンスターの密度が減ってきたね、一体一体のグレードが比較的高い分核の体力切れも早いみたい。」
と、頬に着いた返り血を拭いながらナオさんが言う。
「そうですね……。少し余裕が出てきました。もう少しの辛抱です。」
『比較的グレードが高い(ランクA〜Sの瘴気ドープ有りモンスター群)』
『ずっと余裕やろがい!』
『※普通は雑談なんかしてる余裕無いレベルの戦闘です』
『もののべばっかに目行きがちだけどどっちもどっちよ正直』
「こんなのに無駄な時間かけてられません。手早く行きましょう。」
宙を舞いながら双剣の柄を強く握り直し、モンスターの頭目掛けて垂直落下。
ザシュ、と子気味いい音を鳴らしながら根元まで刺した後、再び跳ぶのと合わせて引き抜く。こんな感じでモンスター達を処理していく。
使えば使う程倍の速さで体力を消耗する"倍速"は温存したいので、身体強化系のスキルのみの使用。
(……うーん、思い付きだけど使えるな。これ。)
通路、と呼ぶには開けたこの空間ではかなりの強さを誇る戦法だ。弓持ちとかいたとしても当たる可能性は低いし……皆こうやればいいのに。
『こ ん な の』
『3次元型ヒットアンドアウェイとは驚いた』
『字面意味不明だけど実際その通りで草』
『なんであの人ろくに装備着けてないの……』
『そりゃお前アレだよ、ジャージは最強だからだよ』
『え、偉いことや……画面いっぱいにいたモンスターがもう片手で数える程に……』
『地面には夥しい程のドロップアイテムが……』
「──ほっと。もののべちゃ…うわ何その戦法キモ……じゃなくて、それでラストっぽい!」
「はーい!ラ・ス・ト…っと!」
そう言いながら、最後のモンスターの脳へ剣を突き立てる。大量の血を噴き出し、そのままグラリとアイテムのみを遺しながら倒れ粒子となって消えていくモンスター。
名前は確かモルドオーク……だったか。その巨体と怪力で多くの開拓者を蹴散らすランク"S"のモンスターだったはず。たぶん。
完全に消滅する前に飛び降り、双剣に付着した血液やその他諸々の体液を軽く払い、納刀。
それから、ぺっぺと口に入った血を吐き出しながらナオさんへ寄る。
足元からぐちゃぐちゃと嫌な音がする。地面がドロップアイテムだらけで踏み場が無いのだ。祟らんでくれー……
「──終わりましたね。怪我は?」
「ううん、無いよ。もののべちゃんは?」
「強いて言うなら腰が痛いですかね。さっき空中で無理な体勢しちゃって。」
「うん、大丈夫そうだね。じゃあ行こっか。」
「うへ……」
モンスターの血で塗れた、地獄の門のような大きな扉を見やる。
「……そうですね。ここまでがチュートリアル。ここからが本番です。」
『これがチュートリアルとか……フ○ムでもやらんぞ……やらんよな?』
『やらんとは言い切れん』
「そう言えば今更なんだけどさ……その格好には突っ込まないけど。メイン武器って双剣なんだね?」
僕の防具無しの上下ジャージというダンジョン開拓する気ゼロな格好からは目を逸らしながら、腰裏に格納された双剣を指さす。
「本当に今更ですね……まぁ、はい。そうです。やっぱり僕は高速戦闘スタイルなので、こういった軽くて扱いやすい方が都合がいいんですよ。」
「ふーん、確かにそうだね。日本刀とか良さそうだと思ったんだけど。」
飛○御剣流……みたいな!と抜刀する真似。
「確かに高速抜刀は憧れですけど……取り回しが悪いんですよねぇ。使ってる人は尊敬します。」
「そうだよねぇ。ここは広いけど、ダンジョンは基本狭いのが普通だし……日本刀は多対一には向いてないし。」
与太話もそこそこに。さて、と手を叩く。
「核を護る守護モンスター討伐の作戦を振り返りますよ。僕らはあくまで後続の部隊が来るまでの時間稼ぎです。もちろん、倒せそうなら倒したいですが……急いては事を仕損じますからね。端的に言えば死にます。命大事に、行きましょう。」
「うん。モンスターの種類にもよるけど、作戦の根幹としてはもののべちゃんが陽動で、その隙に"固有"のチャージをした私が叩き込む。これの繰り返しだよね?」
はい、と頷く。
……改めて、穴の多すぎる作戦だ。頭が痛くなってくる。希望的観測に希望的観測を重ねたうっすい作戦。後は臨機応変に対応。カスもいい所だ。
しかし、こんな作戦にナオさんは命を預けてくれている。信用してくれている。
ならば、それに応えなければいい加減男が廃るという物だ。これまでの人生でもう廃れまくってる気はしないでもないが。
「じゃあ、行きましょうか。」
「……うん。」
「なんです?怖気付きましたか?」
「まさか。そう言うもののべちゃんもビビってなーい?こういうの初めてでしょ。」
「お戯れを……」
「むっ!なんか難しいこと言って誤魔化さない!」
『和やか』
『今から死地に行く人間の姿か……?これが……?』
『救助隊が原則来れない深層なのに』
『1回死んだらマジで終わりだよな実際』
『っぱ開拓者はどっかイカれてないと出来ないんだよな……』
『宿命だからね、しょうがないね。』
「なんか失礼な事言われてる!」
ぷく、と頬を膨らませるナオさん。そんな様子に苦笑しながら、扉を押す。
「ふんっ……!──あれ。ふんっぬぬぬぬ!!」
……開かん。
「……ねぇ、どうしよう皆。もののべちゃんが可愛すぎて私死にそう……。」
『分かる』
『必死(笑)』
『はよ助けろw』
『あ ほ く さ』
『締まらんな…』
「もうちょっと見てたいけど、そんな時間ないからなぁ……。よいしょっと。」
自分の頭上から、ナオさんが手を伸ばして扉を押す。
ギギギギ、と重厚な音を鳴らしながら開く扉。
「ご開帳〜。行くよ、もののべちゃん。」
「……ゴ」
「ご?」
「ゴリラ……」
「誰がじゃ!?」
男としての尊厳が破壊される音が微かにした。
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最近、何か作業する時「スロー、スロー、クイック、クイック、スロー」とうわ言のように呟く癖がつきました。最悪です。
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