二章 "ライブハート"

第18話 色々変わるんすよ%

お久しぶりです。

約10ヶ月ぶりとなりますね。

─────────────────────





「はぁっ、はぁっ、はぁッ!」


薄暗闇の一本道。1人の男が、息を切らしながら一心不乱に駆けている。

フォームはめちゃくちゃ。これ以上走れば、疲労困憊で倒れてしまうのは明らかだった。


だが、それを分かっていながらも男は走る事を止めない。疲労ではなく、恐怖に歪んだその顔を見ればある程度の事情は察せられるだろう。


彼は、何かに追われていた。


モンスター?

否、人だ。彼は人に追われていた。


彼は悪人ではない。

善人……という程ではないにしろ、一般常識を備えた普通の大人だ。

ダンジョンで素材を集めて売る事を生業とし、家族を養っている男だった。

侵攻により立ち入る事が出来なかったダンジョンが、とある配信活動をしている人達により解決された為に、生活を建て直そうと踏み入っただけだった。


だが、彼は今殺されそうになっている。

ただ曲がり角を曲がっただけだった。その先に立っていた男に、いきなり攻撃されたのだ。


何故? 疑問と怒りが脳を支配する。


全力疾走している筈なのに、後ろから響くゆったりとした足音は一向に遠ざかることが無い。


「──なぁ、もうやめにしねぇー?」


後ろからそう声を投げ掛けられる。


「疲れちまったよ。そろそろ終わりでいいだろ、なぁ?」


疲れた、そういうには無理がある声色。息も切れていなければ、欠伸すらも聞こえてくるようだ。


「……はぁ。もういいや、タマー?」


球?

唐突に飛び出した謎の名詞に脳が一瞬硬直した瞬間───


「んにぁっ!!」


「……ッ!?」


どこからともなく現れた新手に、いとも容易く彼は首を断絶された。


断頭され脳が死を認識するまでの一瞬。産まれて初めて肉眼で自分の身体を直視し、床へ激突。その勢いのまま赤い線を作りながら地面を転がり、やがて止まる。


手に赤い液体をびっちょりと付けた少女は、軽やかな身のこなしで着地。手が汚れたのが気に食わないのか、ぺろぺろと手を舐める。


「う……おいしくない……」


「ちょいちょい、そんなばっちいの舐めないの。」


散歩の様な足取りで追い付いた、丸眼鏡をかけた黒髪の男は無感情に死体を足蹴にしながら少女に声をかける。


「つーか派手にやったなこりゃ。あーあー、どうすんだこれ。」


「ふふん、にゃーの攻撃が強過ぎるのがいけないにゃ!」


「あっそ、からは散らかすなって命令だったけど。」


ボス。そう言葉を発した途端、ゆらゆらと揺れていた彼女の猫耳と尻尾がピンと立ち、やがてぺしょりと萎れる。


「これをボスが見たらなんて言うかね。また反省部屋送りかー?」


「い、いやだ!アソコだけはやだ……」


「んな泣きそうな顔すんなよ、調子狂うなぁ」


いかにもウザったらしそうに少女の頭を撫でると、涙目だった彼女も徐々に気持ちよさそうに目を細めていく。


「……ところで、にゃんでボスは、こんな命令を?」


「ん? あぁ、B-3クロガネに踏み入る開拓者の抹殺って話? お前がボスの命令に疑問持つの珍しいな。」


「ボスが言うにゃら、それは正しい事。にゃーは従うだけ……でも、本当に意味あるの?」


「はは、ねーよ。」


おずおずと遠慮がちに聞いた彼女に、男はあっけらかんと言い放つ。


「えっ?」


「完全に私情だろこんなん。あいつの事だ、くだらねー命令だわ。」


困惑する少女を他所に、話は終わりだと言わんばかりに身を翻して出口へ向かう。


しかし、それに立ち塞がるように虚空から黒尽くめの人影が現れた。


「くだらないとは、結構な言い草だね。」


「……おー、何の用だい。暇か?」


「あっ、ボス!」


その人影を視認した途端、ブンブンと尻尾を振って足元へ駆け出す少女。人影はそれを拒むこと無く受け入れ、ゆっくりと頭を撫でる。


「用、か……。愛する部下達の仕事ぶりを見に来るのは、上司の役目だからね。」


「ウチには上司と部下の概念があったのか、驚きだ。」


白衣を着た丸眼鏡の男は、わざとらしく両手を上げる。


「んじゃ、わざわざ御足労くださったついでに答えて欲しいんだがよ、これなんか意味あんのか?」


「今回の命令の意味かい? ふむ、まぁ簡単に言ってしまえば……我々を無視し続ける"組合"への威圧、という意図があるんだ。」


「はい、それ嘘。」


もっともらしく質問に答える黒尽くめに、あっけらかんと返答する。


「あんたは"組合"なんて眼中に無いだろ? まったくもって、どうでもいい存在のはずだ。」


足音を通路に響かせ、ニヒルに笑いながら近付き、腰辺りに抱き着いている少女を挟む形で対面する。


「狙いなんざ決まってる。……だろ?」


「…………ほう?」


「いや、もっと言えば……クルアーン、煙霧か? あんたの大好きなセカンド君が支えるライブハート、その功績が気に食わないだけ。」


「くるあーん?」


「……確かに、僕は彼を良く思っていないよ。でもそれは、僕達における禁忌を犯しているからだ。」


「なら、あのスタッフさんに関して触れないのは不自然だなぁ? いい加減認めたらどうだ。」


「……ふふ、そんなことは無いよ。"狂犬"、菊月歌留多……あれも警戒対象だ。まぁどちらにせよ、は君で、はタマだからね……。それじゃあ、働きぶりも確認できたことだし僕は帰るよ。タマも、またね。」


「うん! またね、ボス!」


暗がりへ溶けるように消えていく男に大きく手を振るタマと呼ばれた少女。その頭にぽんと手を乗せながら、丸眼鏡の男は吐き捨てる様に言った。


「───変態ホモストーカーがよ」






─────────────────────







皆様ごきげんよう、物部です。

いやはやようやく妹から解放され、学校へ登校する事が叶いました今日この頃です。


ですが、なんと言うかその……登校した事に後悔している自分がいます。

なぜ休めと妹が言ったのか、その理由を少しだけ思い知った様な……そんな感じですね。


「何とか言え物部ェ!」


「これはお前だよなぁ!? 俺のナオを……おま、ちょお前お前お前お前!!!」


「物部……嘘だよな?」


「ちょっと着て欲しいものあんだけど」


机の周りにはクラスメイト達が集い、視界ジャックと呼んでも差し支えないレベルに男どもがひしめき合っています。

我が校は男子校、華など存在しませんからもう臭いの暑いのウザイのでたまったものではありません。


「えぇいうるさいな馬鹿ども! 散れ散れ!」


「散れるかぁ!! 説明しろ貴様ァ!」


同接2桁の底辺配信者もののべ、拡散力の高いナオさん…いやライブハートに関わってしまった結果こんな事になってしまいました。

登校中の時点で、道や電車の中でも周囲からチラチラ見られてるな、そんなに見たけりゃ見してやるよと言った具合だったのですが、教室に入った瞬間爆弾が爆発したかのような騒ぎになりまして。

事の重大さをやっと理解したというわけでございます。


あぁ……僕、バズったんだな……


と。


「だぁぁウザったらしい!! ばいばい馬鹿野郎!」


いい加減耐えられなくなり、集団の頭上を飛び越え壁を蹴り教室から脱出。そのまま廊下を走って逃亡。


「……なんだありゃ」


「ファンタジー……?」


「ここコア搭載されたんだっけ」


「前世ゴキブリかあいつは」


「ザリガニって逃げる時あんな挙動するよな」


去る前になんだか失礼な事を言われたような気がしなくもないですが、とにかく今は逃げる事が先決。HRや授業で教師にもガン見されてたのを鑑みると、今日の学校に逃げ場は存在しません。

せめて休み時間くらい静かにさせろやって感じなのだが、屋上は空いてる訳ないしトイレは常日頃誰かしらのたまり場。


つまり行先はただ1つ! その場所へ直行し、重い両開きの扉をガチャリと開く。


「うし、やっぱり誰もいない。」


やって来たのは、我が校に存在する「コンチェルトホール」と呼ばれる四季劇場の様な大きな施設。ステージから客席が扇状に広がり、3層構造。演劇部が公演をしたり、吹奏楽部が演奏会をしたり、スクリーンで映画を上映したりと多目的に使用される大きなホール。


基本的に解放されている上、空調が行き届いていてとにかく静かなのでお気に入りの場所だ。


適当な席に座り、ポケットから携帯を取り出す。


今日初めてスマホを開きTiwtterを確認すると、やはりフォロワー数が大きく伸び、チャンネル登録者数も更に万単位で増加している。


検索エンジンで"も"と打ち込むだけで予測変換にもののべが1番上に出てくるという始末。意味わかんね。


さて、今日の半日を振り返ってみよう。

まず朝、「まぁ熱は冷めてきた頃合だと思うけど……気を付けて」と意味深な事を言われながら妹に見送られて電車に乗ったのであるが、そこで妙に視線を感じた。

周りを見るとあからさまに顔を背けられたりスマホを向けられていたりと嫌な感じがして、通学路でも一般人や生徒にジロジロ見られ、教室に入った瞬間一瞬の静寂の後爆発。

見事囲まれまくり、昼休みで脱走。


うん、ろくな目にあってないな?

そういう事だったのか奏。普通に言って欲しかった。

もしやダンジョンから出た後菊月さんが送ってくれたのって、これを考慮していたからってこと? ははぁ、こんなん分かるかい。

あ、そういえばと銀行口座の残高確認が出来るアプリを開くと───


「……!?」


目を見開く様な金額が刻まれている。

おかしいな、最後確認した時の残高から15倍くらいになってるんだけど? 故障かな?


バクバクな心臓を押さえ首を捻りながら残高を見ていると、突然ディスコの通知。ナオさんからだ。


『nao: 2回分のコラボ配信の収益と出演料、口座に入金したって! 確認してね〜!』


……は?

いやいやいや、どう考えても桁バグってるでしょ。絶対間違えてるって。


『mononobe: 桁間違えてませんか……? どう考えても多すぎるというか』


『nao: え?全然間違ってないと思うけど? あ、それにプラスして補償金と慰謝料も後で振り込むって菊月さんが言ってた!』


僕の疑問に対する返信に思わず吹き出す。何を言っているのだろうかこの人は。


『mononobe:補償されるような事も謝られる事も無いと思うのですけれど!?』


『nao:いやいやいや、普通のダンジョン企画の筈が私のわがままで侵攻核の処理になっちゃったでしょ?それに、無茶言って2日もコラボしてもらっちゃったから……』


『mononobe:本当に構わないんですけれど……むしろお礼を言いたいくらいで。』


『nao:使ってた双剣も壊れちゃったでしょ?それもこみこみだから!』


確かに、クロガネに持ち込んだ双剣はもう使い物にならなくなってしまった。でもどうせ数打武器だったし、大した値段でもないからなぁ。


とはいえ、企業たるもの形だけでも謝罪の証明というのは大切なもの。ここは大人しく受け取っておくのが良いのだろうか。


『mononobe:……あまり気は進みませんが、ひとまず受け取らせて頂きます』


『nao:そうしておいて! ま、もの君の意思は関係無いけどね。報酬だし。』


それもそうだ。そういう契約なのだから、受け取られない方が困るだろう。にしても、多すぎると思うけれど。


ディスコを閉じ、代わりにMyTubeを開く。右上のベルのマークに灯された赤い数字は当然の様に99+。

それから目を逸らすように画面下に表示された登録チャンネルを開き、アイコンに赤い丸が表示されているチャンネルを見る。

コラボを終えてから、増援に来てくれた3人のチャンネルもしっかりと登録している。その中でLIVE配信中であったのは2人。


"酒伝御伽"、大江山啾啾さん。

"躁煙"、煙霧さん。


大学教授とその生徒という不思議な関係性の2人が、コラボ配信をしている様だった。

試しに、啾啾さんの配信を開いてみる。



『ちょっ、煙霧待っ……あやば』


『おいオマっ本気で言ってんの……あ』


『───(凄まじい嘔吐_mp4)』


『巫山戯んなお前マジでクソがぁぁぁ!!!』



そっと画面を人差し指で下にスワイプし、右下に表示された小窓の‪✕‬ボタンを押す。


……どうやら間が悪かった様だ。毎日の様に痛飲するので配信中によく嘔吐するという話は本当だったらしい。

試しに検索欄へシュウと打ち込んでみると、サジェストにシュウ_嘔吐集という色々と終わっているキーワードが出た。


ダンジョンではモンスターから出るモノは全て吸収されるが、人から出るモノは吸収されない。なのでモンスターが好む血液以外は自分で処理するのがマナーであり決まりなのだが……この人はなんだ。公害か?


ちょっと角が生えている程度の、どこから見ても可愛い女の子な彼女が宿酔で思い切り吐瀉物を撒き散らしている様なんてもう見ていられない。どこの層に需要があるんだ。


しかしそれでも、100万を超える登録者がいるときた。ニッチな変態がこの世界に少なくとも100万人いると思うと、なんだかうすら寒くなってくる。


ところで、啾啾さんと煙霧さんの関係はどんな物なのだろうか。大学教授とその生徒……にしてはなんだか親しい。啾啾さんも煙霧さんも、互いに気安すぎる。

啾啾さんがデビューしたのは1年前だとネットに書いてあったし、啾啾さんは現在21歳だと言っていた。とすると、大学で知り合ったならば最長3年の付き合い、ライブハートで知り合ったなら1年の付き合いだ。


その程度の年数で出来る仲ではないだろう。息もぴったりだった。

気になったら止まらない。すぐさま検索アプリを立ち上げ、クルアーンとシュウの関係、と入力する。

一瞬の読み込みの後、いくつかの記事やネット掲示板が表示される。


────が、その結果は全てが不明。この2人の関係は一度も言及されておらず、謎そのものであった。どうやら界隈でも長年の謎とされており、日々考察が重ねられているらしい。


ともあれ、不明なのならばしょうがない。これ以上は無粋だと判断し、検索を打ち止めにする。

時間を確認すると、いつの間にやら次の授業がもうすぐ始まろうとしている。これはいけない、ただえさえ奏により欠席日数を増やされたのだから授業欠席や遅刻などする訳にはいかないだろう。


またあの好奇の視線が渦巻く教室へ戻るのかと若干憂鬱ながら席から立ち上がろうとすると、浮かせた腰を戻すかのように後ろから両肩を掴まれた。


「ひゃっ!?」


「──やあ北上、やっぱりここにいたな。」


驚いて後ろを見ると、そこには見知った友人の得意げな顔。


「気付けなかったろう? これは今開発している札の効果でね。」


そう言った彼はどんなもんだい、と橙色の髪の毛の上に生えた狐耳とふさふさの尾っぽを揺らし、満足気に笑みを浮かべる。


「それじゃあ……例の配信で使った札の感想、聞かせてもらおうかな────お得意さん?」


赫い目を細めて右手で狐の顔を形作り……月見麗華つきみらいかは、ゆるいポニーテールと共に首を傾げてそう僕に言った。





─────────────────────

友人が啾啾の絵を描いてくれて、それの色塗りを一緒にやってたら書く気が起きました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ダンジョン攻略RTA配信者さん、うっかり有名インフルエンサーを助けてしまい拡散されて超人気配信者になる。 綾鷹抹茶ラテ @ayatakamattyarate

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ