銀色の飾りと両肩

春嵐

01 昆塚

 場末のナイトクラブ。ジャズの流れる店内。

 店員はみんな、人型の遠隔操作の機械。人よりも、圧倒的に綺麗で。圧倒的に接客がうまい。顔も見た目も、人より幾分も良い。


『よぉ。任務はどうだった?』


 カウンター席に座る。話しかけているのは、バーテンダーやってる機械、の向こう側にいる、同僚。


「なんとも言えんな」


 成功していない。しかし、街は消えていない。


「報告は保留だ。任務は継続扱い」


『継続扱いね。まぁゆっくり呑んでいけよ』


「そうだな」


 酒は呑めない。同僚も知っているのか、透明なサイダーが出てきた。味も透明。

 どこまで、できるだろうか。そして、どうなっていくんだろうか。考えても仕方なかった。任務は任務。それに殉じるだけ。


「お」


 ピアノ。綺麗で、透明な。


「あのピアノは」


『人だよ。この店内で、お前以外唯一の』


 人、か。

 ピアノを弾いている女。楽しそうに、にこにこしている。それなのに、曲調はどこまでも軟らかで、静かだった。


「あ」


 見ていたことに気付いたのか、女が声をかけてくる。その瞬間だけ、ピアノの音が、ちょっと速くなる。


「こんにちは」


 夜だけどな。


「こんにちは」


 自分の中の、大事な何かが。


 満たされるような。


 そんな気がする音色だった。



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