16 昆塚

 それだけ言って、彼女は倒れた。あわてて支える。肩に負担があるといけない。


 彼女。


 とても小さく、囁くような声だけど。

 さっき彼女は、喋っていた。いま、眠っている。


「よかったな」


 喋れる。彼女は、これからも。ずっと。生きていける。


 ちょっとだけ、安心した。


 そして、ちょっと泣けてきた。その一言のためだけに、彼女は、すべての力を使い果たした。その一言を、自分に伝えるためだけに。そして今、彼女は、つかれはてて眠っている。


 彼女のいる街を、守っていて。よかったと思った。


 彼女を、もう一度ベッドに横たえて。


 そっと、部屋を出る。


 もう。


 戻ってこれないかもしれないのに。

 ちょっとだけ、離れがたかった。

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