10 Erry R erde

 しぬ。

 なぜ。

 どうして。


「なんで、しぬなんて」


「しまった。言い忘れた。ミントの世話を」


 ミント?


 あっ。


 男のひとが、倒れる。


 わっ。


 支えきれなくて、一緒に倒れる。

 銀色の装飾。


「あっ、ごめんなさい」


 陽が、昇ったのかな。3分経っちゃったみたい。


 彼が、起き上がる。けど、もう。さっきまでの彼じゃない。


「また変な服を着てるな俺」


 男のひと。困惑しながら、さっきまで着ていた服を脱ぎはじめる。


 また、お昼のスタイルになった。シャツと、ジーンズ。カジュアルスタイル。夜のスーツと、真逆。


 と、とりあえず。

 シンセサイザー。


「あの。わたしのことは?」


「あ。こんにちは」


「こんにちは」


「俺の部屋を見つけてくれたひとですよね。ありがとうございます」


 あ。それはその。しょうかいはん、ってひとが。あっでもこのひとは記憶がなくて。ああもうなんか分かんなくなってきちゃう。


「あの」


「はい」


 しなないで。


 しなないで。言いかけて、止めた。

 これ。

 言ったらいけないのかもしれない。


「あの。ご自分が、その。消えてしまいたいとか、思うことって。ありますか?」


「消えてしまいたい?」


「ええ」


 できるだけマイルドな表現。


「消えてしまいたいというか、記憶が消えてるんで」


「あ、そっか」


 存在そのものが希薄なのか。わたしと同じ。


「俺。存在しちゃいけないのかなっていうのは。なんとなく思いますけど」


「そんなこと」


 そんなことない。存在してもいい。これも、たぶん、言っちゃいけないかも。

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