02 Erry R erde

 ピアノを、いつもの店で、いつものように弾く。わたしは、お店の背景。音楽は、常に後ろに。わたしという存在を、限りなく零に。無くしていく作業。


 でも、昨日。

 わたしに気付いたひとがいた。他にお客さんがいなかったから、なのかも。わたしのピアノのほうを見て。わたしを見た。意味のないことだけど、ちょっと嬉しかった。ひとことふたこと、言葉を交わしただけ。でも、見つけられるということは、きっと。何かの関わりがあるんだと、勝手に思う。


 お昼。

 診てもらった帰り。

 夜のピアノにはまだ早いけど、もう弾き始めてしまおうか。そんなことを考えながら、街を歩く。


 あ。


 昨日のひと。


 思ったよりも、何倍も早く。会えた。やっぱり、わたしを見つけるぐらいだから。わたしも、見つけやすいんだろうか。


 近付いて、顔を覗いてみる。


 昨日のひとだ。

 でも、なんか。

 格好が、昨日と違う。

 昨日は、上下黒の、スーツみたいな格好に、所々銀色の輪っかとか、銀色のボタンみたいな、飾りがついていた。なんというか、映画に出てくる戦闘服みたいな、なんかそんな感じの。


 目の前のひとは、シャツにジーンズ。なんというか、別人、みたいな。


 あの。昨日の。ピアノの。

 指を動かしたかったけど、さすがにちょっとはばかられるので、身振りでなんとなく。伝わるかな。


「誰?」


 あれ。

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